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2-1

俺は学生時代に部活をやってた。その時に左膝を痛めて治療した経験があって、そこが大人になってから時々痛むことがあった。


神経の痛みだって言われていて、痛みの無い日でも走ったりすると違和感があったり、長時間歩いてると疲れと共に痛み出したりしていた。


そうした経験があったからわかるんだけど、今の俺がどれだけ歩いても大丈夫だという確信がある。


そう思うのも、相当な距離と時間を早いペースで歩かされていたのにも関わらず、そういった不調が全く出てこなかったからだ。


これはきっと、竜神さまに生き血を貰ってたあの儀式のお陰だからだと思う。


竜の力、再生能力なのかな?神経が治るなら、内蔵の損傷も何とかなるんだろうか。


歩き疲れを少し感じ始めたところで馬車が止まった。



「よし、ここで休憩」



旦那の一声で皆が準備を始める。馬の世話として水と餌やり。位置のずれた荷物の整理。時間とか道についての話し合いとか。


そして俺にも話しかけられる。



「なあ、お前自分が変な奴だとかって思わなかったのかよ」



この集団では比較的若い。髭も生えてない15歳位の男の子だった。


それでもちゃんと武器と簡単な防具を身に付けてて、一端の戦士って雰囲気を醸し出してる。



「思ってたけど、変な人には関わらない人の方が多いと思ってたんだよ。

だから気にもされないだろうなって思ってて」



そう言うとあちこちでゲラゲラと笑う声が聞こえた。



「自分でもわかってたのかよ」


「ケインも変なのに首突っ込んだよな」



結構盛り上がってる。でも男の子は呆れているみたいだ。



「ますます変な奴だな。

特徴があるから買い手は付くだろうけどさ、何にも出来そうにないよ、お前。

奴隷としてやってけないんじゃないの?」



彼は喋りながらも馬車にある樽から水を出しコップに注いでみんなに配ってる。


奴隷として…やっていけなかったらどうなるんだろ?


奴隷に人権なんか無いだろうから、役立たずだったら殺されちゃうかな。



「君は、どういう事ができるの?」



「俺は戦えるぜ!見ろよこの剣、高かったんだ。

商売の手伝いだってできるしな。

年齢制限があって入れなかったけど、兵士の試験にだって合格してたんだぞ。すげーだろ」



回りの大人を見てみると、また始まったって雰囲気を感じる。この反応だと、彼の言う兵士の試験ってのは真に受けない方が良いかも。でも不機嫌にする必要までは無いかも。



「それはすごいね。

この辺だと、戦えることが大きな価値になるんだ?

俺も奴隷になるなら、戦えた方がいいかな?」



「そんなの当たり前だろ。

奴隷は主人の財産なんだからな。主人が守らなきゃいけない奴が、自分で勝手に戦えるんなら楽に決まってる」



ふーん、そういう考えか。俺はその逆で、力のある奴隷はちょっとでも不満があると反抗されそうで怖いと思っちゃうな。



「奴隷が主人を殺したりすることは無いのかな?」



「はぁ?お前、馬鹿なんじゃないの?」



道具を片付けて休んでた彼は、立ち上がるほど驚いてた。


そんな驚く?



「本当に知らないのか。お前、どこから来たんだよ」



馬の世話をしてたケインさんがやってきた。



「奴隷の神、ネビス様を知らないってだけで怪しすぎるぞ。

しかも、それを知らずに奴隷になろうとしてたのか」



あ…思い出した、竜神さまに聞かされた神様の話でそんなの有ったっけ。



「元々は産まれた時から奴隷で、それから奴隷商人になって信仰心集めて神様になったんですよね」



そう言うと、俺が知ってたことが予想外過ぎたのか皆ぽかんとしてしまった。



「いや…俺もネビス様の成り立ちは知らなかったんだけどな」



え、そういうところは認知度低いのかな?



「へへっ、変な奴が変なとこだけ知ってやがるぜ。馬鹿だ馬鹿」



男の子の反応に、何人かから乾いた笑い声が上がる。


人によっては知識をひけらかすと笑われちゃうってことかな。それは前の世界でも変わらないか。


ただ、やっばり奴隷になる立場の人間はこういうものかも。身分という意味で下に見られやすいんだろう。


休み時間の食事は俺の荷物から出された。


夜になると自分の敷布を地面に広げて寝る。皆はタープみたいなのを馬車と木に繋いでそこで敷物を広げて寝てた。旦那は馬車の中で寝てた。


奴隷になったら自分の荷物も本当に取り上げられて、何も持てなくなるんだろうな。


次の日も歩き続けて、日が傾きかける前くらいに町が見えてきた。


前のドワーフがいっぱいいた町よりも大きい。旦那さん達はここで活動してるのかな。



「今日は混んでるな。入れるのは明日か」



少し前からどんどん馬車の渋滞が出来始めていて、止まったときには長い列が出来てた。きっと町に入る前の税とか保安検査なんだろな。


旦那の言ってた通り、本当に夜まで待たされ、皆は交代で眠りにつく。俺は勝手に夜勤だと思って起きてた。見張りの人に逃げるなよって目で見られながら夜を明かす。そんで翌日に順番が来た。



「許可証は?」



日本じゃないから待たせた事へのお詫びの一言もない。彼らも仕事なんだろう、お疲れ様です。


旦那に話しかける人が一人で、馬車に乗り込んで荷物を検品してるのが二人。


それで馬車以外の人員のチェックしてるのは四人。二人一組で一人ずつ質問したり手荷物のチェックしたりしてる。


ピリッとした緊張感がある。皆ふざけたりしないで、受け答えもちゃんとしてた。


なんか知らんけど、どきどきしてきた…。



「黒髪のお前、荷物は?」



遂に俺の順番になった。



「荷物は馬車の中です。武器も、持っててもらってます」



「…なんだこいつ?おい、こいつの責任者は?」



どうやら俺の言葉が通じ難かったみたいだ。


ケインさんがやってくる。



「ああ、すみません。そいつは知恵遅れで、売られに来たんです」



知恵遅れか。まあ頭そんなに良くないしな。



「ふん、なら初めから縄でも繋いでおけ」



無駄な時間かけさせやがって、とでも言いたそうにして、次の人に取りかかって行った。


彼らは町の治安を守る人達なんだろう。その治安を守るというのは、ああいう感じで威圧的に振る舞い、時には暴力をちらつかせることで成り立つような文明レベルって事なのかな。


日本じゃそういうことはもう無いだろうけど、他の国ではまだあったかもしれないね。


町に入ると二手に別れた。旦那の馬車チームと俺を売りに行くチームだ。ケインさんがついてきてくれてる。それと男の子も。



「あんまり高く売れると、次自分を買い取る時に困るから見栄を張るなよ。だからと言って、嘘や隠し事をしたってばれるからな」



「大丈夫ですよ。こいつの値段なら大したことにならなくて、一月で買い取れるかもしれませんよ」



一月は早いなあ。いろんな事を学ぶなら、半年は様子を見たいんだけどなと思ってたら冗談だったみたいで、ケインさんはそんなわけ無いだろと言ってた。なーんだ。


そんなこんなで、俺の売られ先に着く。イメージでは檻に入れられた痩せ細った人達が一杯いるのかと思ってたけど、そんなことは無かった。


身なりのいい人が身なりのいいお客さんの相手してる。店のなかも、今まで見たお店の中でも一番きれいだ。なんか安心した。



「ようこそ、お買い求めですか?」



ケインさんが話しかけられる。



「いえ、売却を。こいつです」



はい、そのこいつです。一歩前に進んで会釈する。


すると、目付きが変わった。人を見る目から、品定めをする目になってた。



「承りました」



今の俺はどれくらいの値段になるんだろうかと少しわくわくした。

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