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「おい、お前」



「え、はい」



呼び掛けられて、反射的に答えてしまう。


そうしてから、さっきまでの独り言を聞かれたのかと思うと恥ずかしくなった。



「そこで何をしていた」



薄汚れた鎧に身を包んだ男。ヘルメットみたいな兜を着けていた。背丈は俺と同じくらいの欧米系人間族だ。


道から外れてるんだから、用を足してるんだと思って、そっとしておいてくれよ。それか、もうちょっと道から遠いところまで行ってた方が良かったな。



「あ、何って……なんと言えば良いのか」



あれ?本当に何て言えば良いんだろ?


鎧の男の後ろには他にも沢山人がいた。


馬車まである。うわー、声かれられるまで気付けなかったわー。



「お前、往来での不用意な抜刀と、立会人無しの自死行為は罪になることを知らんのか?」



……え?



「何か相応の理由があるんだろうな?」



見れば、相手は剣に手をかけていた。


おいおい判断ミスったら殺されちゃうってこと?ちよっと焦る。



「あの、正直に言うと、最近家族ともう会えなくなりまして。

ちょっと自暴自棄になっちゃってました」



辛くて、現実逃避しようとしてたんですと言おうとしたけど、状況が味方してくれなかった。



「なんだお前、何言ってるかわかりにくいな。

出身はどこだ?どこから来た?」



あー、スキルまだ取り立てなんですー。


出身は、異世界なんですー。


なんて、ほんとの事なんか絶対言えない。


てか、あなたの言うことも実はしっかりとは聞き取れてないんですからねこっちは。エキサイト翻訳ですよ。



「えっ、えっと」



どうしよう、職務質問なんて今までされたこと無いから対処法が直ぐに思い浮かばない。


てか、今考えなくても良いような余計な事ばっか考えてしまう。めっちゃテンパる。



「……まあ、いい。

剣をそこに投げろ。丸腰なら話を聞いてやる」



「あ、はい」



取り敢えず話聞いてくれないと、話になんないもんね、いやほんとに。


貰ったばっかりの剣を鞘に入れてから、ぽいっと放る。


したら、取り押さえられました。



「え、ええ!話と違う!」



「馬鹿お前、こんな怪しいやつと面と向かって話し合いなんか出来るか!」



後ろで控えてた奴等が男も女もわらわら集まってきて服以外全部取られた。猿轡まではさせられなかったけど、なんかもう悲しい。


痛いことをされなかったのはまだ優しいと思えたけど。



「旦那、こいつです。大分怪しい奴だなと思ったら、黒目で黒髪です」



引っ立てられて、馬車の方まで来た。


どうなっちゃうんだろう。殺されちゃうのかな。


さっき死なないぞって決意したのに、こんなことになっちゃうなんて。また涙がポロポロしてきた。



「よせお前ら、そいつ泣いているぞ」



旦那と言われた男に馬車の上から半笑いで諌められた。苛めかな?


でもまあ両脇からの拘束は緩めてくれた。



「まずお前、何でそんなに言葉が下手なんだ?」



「ううう、はい。しっかり言葉を覚えられる程、人とあまり会話できる環境に無かったもので」



この世界の人と、って意味だから嘘は言ってない。


でも回りがざわざわし始めた。



「なんだこいつ、こんなに怪しいやついるのか?」



「不気味すぎでしょ。ここで捨てて行った方が良いんじゃないですか?」



「こいつの荷物、どれも買いたての新品ばっかりだぞ。盗品か?」



おい、何か失礼すぎる奴しか居ないじゃないすか。


こんな対応してくるなら最初から放っておいてほしいぞ。



「おい、この服どうやって染めたんだ?何で出来てる?」



「靴、変じゃない?もしかして金持ちなの?」



しまった、新しく買うのが勿体なかったからそのまま使ってたけど、流石に異世界コーデは怪しすぎたか…。



「んー…。おい、ケイン。お前が拾ったんだ、お前がどうするか決めろ」



「…すいません、旦那」



そこからあれこれ聞かれた。


話して良さそうなことは伝えて、でも竜神さまとも知り合いだということ、今は隠しておいた。



「こいつ本当なの?同情誘いたいだけじゃない?」



取り巻きの人達、疑いたいだけじゃないですかー?



「…旦那。こいつの境遇は、何て言うか憐れです。

言葉は下手くそですが、受け答えはまともに見えませんかね?」



「まあ、そうかもな。

だがお前こんな奴、面倒見られんぞ。それに、もう大分行程に遅れが出てる。

今からこれ…お前これどうするんだよ」



最後はこれ呼ばわりですか。何故か腹は立たないから良いけど、俺が物凄い強い人間だったら許さなかったところだぞ。


てか、だから最初からそっとしておいてくれればよかったんよ。


そしたら、ケインとか呼ばれてた奴が名案を閃いた的な顔して言った。



「…こいつ、借金奴隷にするのはどうですかね?」



お?おっとっとと?


え?しゃ、シャシャシャ借金?


しかも奴隷?


どちらも未経験ですが?



「その二つって、一緒に並んで良い言葉なんすか?」



思わず声に出た。借金奴隷。なんか、今までで一番異世界感あるワードだな。


ところが回りは皆、それ名案じゃんって感じで盛り上がってる。



「身元不明なんでしょ、その方が手っ取り早いじゃない。良いよねその方が」



「え、よくない」



「確かに。特徴あるのに探されないなら俺達も気にしなくて良いしな。

金も手に入るし」



……うん、腹立つな。


でも、これがこの世界のルールなのか?道端で拾った怪しいやつは奴隷として売れます世界なんですか?



「お前、名前は?」



「…コロウです」



「本当にお前のこと、身請けできる奴が誰もいないんだな?」



身請けって……まあ、そうだけど。



「一切無いです」



何故かわからんけど自信持って言ってしまった。



「自分の居た場所へ帰ることは出来ないんだな?」



「…したいですが、できないです」



残念すぎるけど、できない。



「…今見たこと以外、犯罪は犯してないな?」



「はい、この辺りの法律知らなかったので。

お騒がせしてすみません」



「わかった。

お前の身元を調べることが出来ないということだな。ならやっぱり、一度奴隷としての身分を作った方がいい。

お前みたいな世間知らずが馴染める所なんか無いからな。また知らんうちに法に触れて、ちょっと金があった所でまともな生活なんてできないぞ」



…そういうもんなのかな。



「奴隷商人に一度面倒見てもらって、色々と仕込んでもらえ。

そしたらその内自分自身を買い取ればいいんだ」



なるほど。そういう感じなのか。案外悪くない話のように思えてきた。



「…わかりました、奴隷になるのも悪くないと今は思います。

で…それじゃあ、俺はこれからどうすればいいんですかね?」



「話まとまったならもう行くぞ。

そいつは歩かせて二人で見張れ。とっとと出発だ」



俺の質問に答える人は誰もいなかった。ケインさんは途中で暇になったらなと言って、馬車より前に進んで行ってしまう。


自分の選択を間違ってないか凄く不安になってきた。皆馬車に遅れないよう準備し始めて、もう俺への興味を失ってく。


多分、道中で荷物が増えた位の気持ちなんだろう。日本で身元不明の人がいたら、もっと気にかけてくれると思うんだけど…。


この世界はこういうものなんだろうか。

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