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遠退いていた意識が手元にゆっくりと戻ってくるような感覚がした。眠りからの覚醒というよりも、意図しない深い集中状態から抜け出したような。


すると見えてきたのは、壁。緑の壁?


なんだ?光沢があるような。


あ、鱗…はっ?でっかい…なん、なんだ?


トカゲか?


いや、恐竜…怪獣、じゃない。これ、ドラゴン。


ふわふわとした意識のまま、ハイライトされているみたいにそれだけがはっきりとしていた。


圧倒的な存在感により、見えているはずの背景は朧気にしか認識できない。


体表を覆う、黒に近い深緑の鱗は光を受けて何色にもなって輝き煌めく。影になればその鱗一枚一枚が吸い込まれるような闇となって黒く映る。


近すぎて、足や翼や尾はどうあるのかわからない。


大きな蛇の瞳は俺だけを見ていた。


死ぬかもしれない。ちょっとした絶望を感じるな。



「そなたの、名は?」



名って、俺のかな?



「俺、コウタロウ…です」



声に答えると、ドラゴンはゆっくりと笑みを浮かべるように口を僅かに開ける。


すると見える、ギザギザの鋭い無数の牙。ぞわりと、また死の気配が身体中を駆け巡る。


顎の力、強いだろうな。これに噛まれたら多分死ぬだろう。丸飲みされたら…されたら?鱗は硬いだろうけど内蔵はどうだろう。中から食い破ってこいつ殺せるかな?



「コウタロウ、そなたを召還したのは我だ」



「えっ、召還?」



「うむ、ここはそなたにとって異世界よ」



ああ、それっぽい。流行りの、無料で読める小説っぽい。異世界に呼ばれるやつだ。


…夢?いや、とてもそんな感じはしない。だが、なんだろう。不思議なほど現実感が無い。


でも俺を呼んだのって、この声の主って、このドラゴンなのか?


ふと風を感じて、辺りを見渡す。すると、ごつごつとした巨大な天然の岩盤の上に立っているのに気付く。それも山の頂上に近い場所。遠くの景色まで、ずーっと見えた。


ありのままのような自然が地形となって、便利で現代的な文明を感じさせるものなんか何もなかった。アスファルトの道路も、聳え立つようなビルも、日本で見慣れたような人工物なんてものはどこにも無い。


あるのは今にも自然に飲み込まれてしまいそうなか細く見える道。その両脇を絨毯のように緑色の何かが広がっている。あれは米、か?いや、麦畑だろうか。


そして、人間の気配を感じられる街が山の裾野に広がっていた。


…街から、沢山の煙が見える。火事か?このドラゴンがやったのか?


まさか火を、吹けるのか?


ドラゴンへの思考に移ると、どうしても殺されちゃうんじゃないかと考えてしまう。


当たり前だけど死にたくない。俺は自分以外の命を背負っている。何よりも子供のために死にたくない。



「俺は、これからどうなるんです?」



やるなら丸飲みで頼む。そう願い、体が緊張と恐怖で強ばるのを自覚していると、想像もしていない言葉で返された。



「我はな、そなたと同じ魂を宿しておるのだ」



言われて、意味がわからなかった。だが、何故かこのドラゴンから声と共に喜びの感情が流れ込んでくる。



「魂?あの、訳がわかりません」



俺の質問には答える気が無かったのか?相手の方も、俺が理解できると思って言ってるわけでもなさそうだが。



「そうであろう。まだ混乱しているはず。人心地付けた後にコウタロウ、そなたを召喚した理由を話そう」



言い終えると、どうやら地に伏せたような姿勢だったようだ。ゆっくりと立ち上がり、向きを変えていく。


盛り上がる筋肉は分厚いだろうその鱗を波打たせ、何トンあるのかわからない体を動かしていく。翼は折り畳まれていたようだったが、立ち上がる際、僅かに羽ばたく。ほんの僅かなのに、本当に力強く感じた。きっと本気を出せば飛び立てるんだろう。四本の足は太く、牙よりも鋭い、大きな爪が接地面をがっちり捉えている。


そして……大きい。20メートルはあるだろう。尾まで含めた全長は30メートルになるかもしれない。動いていると、深緑の鱗がキラキラと光を反射して、どこか神々しくさえあった。


異世界…本当に異世界なんだな。


どこに行くのだろうと思ったら、後ろに横穴があった。大きな体がそこそこゆとりを持って入れる広さで、このドラゴンの家にしているみたいだ。



「おいで。こちらで話そう」



穴の中で地に伏せたると、やはり呼び掛けてくる。だけど口は全く動いていなかった。何か…念話というやつかも。特別な力を使って俺に話しかけているんだろう。


ここまで、俺のことを丁寧に気遣うような印象がある。声には確かな理性を感じる。凶悪な見た目から、命の危険についてばかり考えてしまっていた。でもこの声を聞いていると、なんだか俺を殺そうとしてるようには思えない。恐さはまだ消えないけれど、あんまり警戒しててもしょうがないかなって感じになってきたかな。

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