1. (9/16up)
フィーナが10歳となった花冬も終わりを迎え、本格的に春が始まる頃。
ミアと共にフィーナはウィンタニアの王都であるエゾへ来ていた。
アカデミアへと入学するため、試験を受けに来たのである。
そんな中、フィーは初めて見るエゾの様子にテンションは高かった。
「お嬢様、あんまりはしゃぐと危険ですよ」
「だって、色々あるのよ。
あっちにはブティック、あちらにもレストラン。
楽しみだわ!」
「そうですね、せっかくだから、まずは食事をとって、街を見てみましょうか。
試験は明日からですし、ただ、その前に宿に荷物を置かなくては・・・」
「そうね、早く行きましょう」
「はいはい」
フィーたちは宿に着くと、早速、馬車から降りて宿に入ると手続きを済ませる。
それが終わると、堪らないといった表情をして、フィーは宿を飛び出る。
「お嬢様、慌てないで」
「ミーア、早く早く!」
フィーナは初めて来るエゾの街並を満喫していた。
ミアはそんなフィーナに振り回される。
「でも、やっぱり、ここにはボックルはいないのね」
「そうですね、森という森がありませんから。
ですが、並木道や公園には木々はあちこちにありますし」
「それでも、いないのよね。
アカデミアではどうやって、ボックルを呼び出すのかしら?」
「それですけれど、特殊なフィールドがあるみたいですよ」
「へぇ・・・」
「さて、明日からは入試がありますよ、そろそろ、宿に戻ってゆっくり休みましょう」
「そうね、今日はこのくらいにして、あとは入試の後にでも楽しみましょう。
パパやママにもお土産買わなきゃだしね」
フィーナたちは試験前にエゾの街並を堪能していた。
そして、日が落ちる頃に、宿へと戻って行った。
そして、いよいよ、アカデミアへの試験が開始され、フィーナとミアははアカデミアを前にしていた。
「大きい・・・」
「そうですね、、私も初めて目にしますが・・・」
アカデミアは王城からやや離れた地にあり、その規模はとうとうに広く50万㎡ほどある。
また、王都から通う者、地方から来た者で集められ、生徒数は、そのほとんどが平民に占められ、王侯貴族でおよそ2割前後、そして、総数三千人が在籍している。
その中心には総合センターがあり、周囲にはいくつかの施設が置かれ、それぞれが右から、闘技棟、魔塔、校舎、寮棟、訓練棟、練磨棟と扇状に設置されていた。
特に校舎と寮棟は隣り合っていて、総合センターの背後にあり、その間を食堂とコミニュティが併設され、中でも規模は大きい。
闘技棟は騎士を目指す者が剣や槍、弓など、他には騎馬を、そのため、乗馬クラブがあり、馬の世話なども生徒が行っている。
魔塔は神官及び魔導士を目指す者が、学ぶところである。
校舎はそれぞれの教科を学び、また、役人や商人が学ぶ場でもあり、他には、一クラス50人、編成され、それぞれの職を目指す者がまとめられたクラスがある場所でもある。
そして、訓練場は多目的に技術を学び、練磨棟は後に説明するが、箱庭師が学ぶ場所でもあった。
そうした施設の背後には囲むように森や溜池があるのもまた特徴的でもあった。
「私はこれから、ここで学ぶのね」
「その前に試験がありますよ」
「そうね」
「大丈夫、お嬢様なら必ず入れますよ」
「そうかな?」
「そうですよ」
門まで馬車でフィーナと一緒にミアが見送りに来ていたのだ。
「じゃ、行ってくるわ」
「頑張ってください」
「うん」
フィーナは総合センターへと続く並木道を、ミアに見送られながら進んで行った。
周囲には試験を受けるのであろう、少年少女がそれぞれ歩いていく。
誰もが緊張に満ち満ちていた。
まずは入口で試験者登録を済ませ、それぞれが校舎の試験会場となる校舎へと進みゆく。
フィーナも登録をすませたので指定の教室へと急ぐ。
そして、それぞれが教室に入り、席へとついていく。
時間まではざわめき、独特の雰囲気を漂わせる。
フィーナも時間まで身支度などしていた。
リーンゴーン・・・。
ふいに予鈴が鳴る。
そして、同時に試験官が入室してきた。
「はい、みなさん、静かに・・・」
途端にさきほどのざわめきが消え、静かになる。
「では、本日から3日続く試験期間が始まりました。
私は本日より、ここにいるみなさまの試験のご案内をする担当をいたします、アンナ・ショースターと申します。
それでは、あらためて、よろしくお願いいたします。
さて、試験ですが、本日、一日目は皆様の基礎能力を測定いたします。
そして、明日の二日目は筆記試験を行い、最後の三日目の実技試験を行います。
試験中はみなさまの持てる実力を出し切るように・・・。
以上、質問等ありますか?」
アンナは言い終えると質疑応答が始まった。
そして、質問がなくなる頃、アンナは時間を確認したのちに周囲に向け、発言をした。
「よろしいですか?
では、能力を見るため会場へ案内します。
皆様は私の後を付いて来てください」
アンナは言い終わるがすぐに教室の外へ出る。
そして、試験を受ける者たちが席を離れ、アンナの後を追うように行列が出来る。
そうして会場へ導かれ、会場に着くなり順に呼ばれては、一人づつ、身体測定が行われていく。
その結果に会場はざわめきたっていた。
そして、魔力検査の間に付く。
「この水晶は皆様の持つ魔力特性と魔力の強さを見ることが出来る魔道具となります。
呼ばれた方の順に測定場に立って、水晶に触れて頂きたい」
「まずは・・・」
一人呼ばれては測定がされ、結果が水晶の上に表示される。
そして、順に呼ばれ、それぞれが一喜一憂していくのだった。
「フィーナ・クロード!
前に出て!」
「は、はい」
するとざわめきが大きくなる。
「クロードだと?」
「あのジェーンの娘か?」
そして、フィーナは出番が来たので、ざわめきを介せず、前に出て、測定場に付き、間もなく水晶に両手で触れる。
「おぉっ・・・」
そして、結果が表示され、思わず、驚嘆が漏れた試験官に周囲がざわめく。
魔力値が魔導士に並ぶ大きさであったからだ。
普通、箱庭師はアイテムを作成する錬金術を扱うため、一般的には魔力は魔導士と比較して、大きくはない。
ただ、箱庭を制御する箱庭師にとって、魔力の大きさは、その規模と比例するので、魔力が大きければ大きいほど有利でもあるのは確かな話であった。
「すげぇ・・・」
「流石、ジェーン様のご息女だな・・・」
ざわめく場内に対して、フィーナはピンとしないようで首をかしげていた。
そもそも、この数値ってそんなに大きいのかな?
ふいに試験官が思わず、フィーナに声をかけてしまった。
「さすがにジェーン様のお子様ですね。
錬金術師としても素質が抜きんでています」
「母をご存知なのですか?」
「もちろんです、ここアカデミアでも歴代の中でも、箱庭師としても、最高の一人であられるお方ですので、私たちの誇りでもあるのです」
「そうなんだ」
「はい、貴女も箱庭師となられるのですか?」
「えぇ、母ジェーンに負けない箱庭師になりたいと思っています」
「そうですか、期待しておりますよ」
「うん!」
フィーナはざわめきの中、先ほどいた場所に戻って行った。
「あなたがジェーン・クロードの娘、フィーナ様ですか?」
ふいに後ろから声かけられ、フィーナは振り向く。
「うん、そうだよ」
「流石ですね」
途端にフィーナは囲まれ、話しかけられる。
「魔力の測定中です、お静かに!」
その様子を見たアンナはフィーナたちを諫めた。
「す、すみません!」
フィーナは頭を下げる。
そうして、一日目が終わるのだった。
宿に着くと一声。
「お嬢様、いかがでしたか?」
「う、うん、ばっちりだよ。
でね、判らないんだけど、魔力高かったみたい・・・」
「流石ですよ。ジェーン様のご息女ですから、それくらいは当然です!」
「そうなの?」
「そうですよ」
「そうとなったら、早速、お祝いしなくては」
「まだ気が早いわよ、試験結果が出てないのだから」
「まぁ、そうでしたわね・・・」
試験も二日目。
フィーナは昨日と同じ場について待機していた。
教壇にはアンナが何やら説明していた。
「よろしいですか?
では、早速ながら、本日は当初の予定通り、筆記試験を始めさせていただきます。
まず、今より試験用紙、解答用紙を配ります。
時間は二時間、出来るところまでで結構ですので、各自で合わせてください。
開始の合図がありましたら、解答用紙を裏返して、試験を始めてください。
なお、試験中は質問等は受け付けません」
するとアンナの背後にいた補助官が試験用紙をそれぞれ前から配られていく。
「それぞれ行き渡りましたか?
まだ受け取っていない方は名乗り出てください」
アンナは最後のチェックを周囲に気を配った。
「よろしいですね。
では、始め!」
フィーナはすぐに回答用紙を返し、名前を記入する。
流石にフィーナはすらすらと解いていく。
時折、難問に頭を悩ませるが、難なく記入を進めていく。
そうして、試験は無事終了を見せた。
それぞれが帰路につく時。
「お嬢様、試験はいかがでしたか?」
馬車元でミアがフィーナを迎えていた。
「そうね、不もなく可もないってとこかなぁ?」
「フフフ、お嬢様なら、間違いなく合格しますよ。
なにしろ、あのジェーン様のご息女なのだから」
「そうね、受かったら嬉しいわ」
そして、試験も最終日をむかえ、それぞれの職に分かれ、実技を見る時間となった。
そこではまず、事前調査でボックルの扉を出せるかで振り分けられた。
これは、入校希望者の中には、ボックル召喚も初めての方もいるための必要措置である。
フィーナは無論ながら、調査は不要で免除された。
そうして、入試者はそれぞれの方向へと振り分けられたのだった。