3. (5/16up)
例のように長い冬のあいまである春を迎えるウインタニア。
その中で短い春を忙しなく外で働く人々の姿がある。
次の冬に入る前に冬ごもりの支度をしなければ間に合わないほどだから。
そこでフィーナはどう過ごすのだろうか。
すくすくと育ったフィーナが7歳となった冬も終わりの頃。
「ねぇ、ママ!」
ジェーンがアイテム作りしてるところにフィーナが飛び込んできた。
「どうしたの、フィー?」
「この前、教わった箱庭がダメになっちゃったの」
見れば、フィーナは箱庭を持ちながら泣きべそをはらしていた。
ジェーンは箱庭をちらと見ると、確かに無残にも散らかっていて、ボックル達がいなくなっていた。
「ねぇ、フィー?
箱庭を作って、何をしたの?」
「う、うん、あのね、ボックル達が楽しく過ごせるようにおもちゃをたくさん作ったの」
「うん、それから?」
「そしたらね、ボックル達が怒り出して消えちゃったぁ、あ~!」
あらましを聞いてるとフィーナが泣き出した。
「どれ、箱庭を貸してごらんなさい」
フィーナは箱庭をジェーンに渡した。
その後はフィーナはただただ泣きじゃくる。
ジェーンはやれやれと思いながら、フィーナの作った箱庭を見る。
よく見れば、畑や生活の礎さえもない。
「フィー、もしかして、家やおもちゃだけしか作らなかったの?」
「うん・・・」
ようやくフィーナは落ち着きを取り戻したようだ。
ジェーンはにこやかにフィーナを見る。
「それじゃ駄目よ、フィー。
いい事?
ボックルだって生きてるのよ。
ボックルだって、夜眠い時は寝るし、働く時には働くんだよ、判る?」
「う、うん」
「じゃあ、お腹すいたらどうする?」
「えっとね・・・ご飯を食べる!」
「そうね、でも、そのご飯を作るにはどうしたらいい?」
フィーナはしばらく考え込む。
「野菜や果物を集める!」
「うん、でも、それだけじゃまだまだ半分よ。
何かが足りないわよ」
「え~っと・・・、そうだ!
畑を作って、木を植える!」
「そうよ、それらを用意してあげなきゃダメよ。
何もなければ、それはボックル達だって嫌になっちゃうでしょ」
「そっかぁ、ゴメンね、ボックルさん達。
そしたら、わたしもういっかい創り直す!」
「うん、でもその箱庭はもう駄目ね、新しいのを渡すから待っててね」
「うん、次はしっかり畑や果物のなる木を植えるわ」
ジェーンは手元に新しい箱庭を持ってくると、フィーナはそれを持って自分の部屋に戻って行った。
その様子を見ていたジェーンは思った。
やはり、まだまだだわね。
確かにあの子はボックルとすぐにでも仲良くなれるし、その能力は私も認めざるを得ない。
色々と教えなくてはいけない事が山積みね。
フフフ、これからが楽しみだわ。
そして、時は春満開。
一年でもっとも短い季節が始まった頃。
フィーナは畑の周りを元気に駆け回っていた。
「おーい、フィー、転ばないようにな」
畑で小作人に指示を与えていたジャンの声がする。
「うん!」
フィーナにとっては長い冬を越えた待ちに待った春の訪れである。
フィーナは家の前の畑を回るように散歩していた。
そこへフィーナには見た事もない十、十一くらいの年恰好をした少年がふいに現れる。
ポカンとして少年を見るフィーナ。
「おい、お前!」
そこで、フィーナは小首を傾げる。
フィーナは少年の横を素通りしようと前へ進む。
「こ、こら、待て!」
フィーナは訳判らないように少年をまた見つめる。
少年はフィーナよりもやや大きめで、小生意気そうに腕を組んでいた。
「貴方はだぁ~れ?」
「俺を知らねぇのか?
俺はここの主でここを通るには俺の許可が必要なんだぞ」
「あら?
それはどうして?」
フィーナは不思議そうに少年を見る。
少年は憤慨してるようにも見えた。
「それは俺が決めたからだ!」
「そうなの?
でも、ここは私の家の周りよ。
わたし、貴方を知らないわ」
「む、名を名のるならまずは自分から言うのが礼儀だぞ。
まぁいい、お前は例の大旦那様の娘フィーナだな。
俺はこの辺りを仕切ってるディーンってんだ。
よく覚えておくがいい」
「ディーン?」
「そうだ!」
「私はフィーナよ、宜しくね」
「むっ・・・」
ディーンはあまりにも、にこやかにフィーナがかえして来るので、調子が狂うようだった。
「ま、まぁいいや、とにかくここは俺のもんだ。
だから、次からは必ず俺に聞くんだ、判ったな」
「うん、判ったわ」
フィーナは終わったと思い、ディーンの横を通ろうとする。
「お、おい」
「なぁ~に?」
ディーンは振り向いたフィーナの微笑みにどぎまぎする。
「う、ちょ、調子狂うな。
で、お前だ、どこへ行くんだ?」
「うん、ちょっとお散歩よ、貴方も来るの?」
「まぁいい、俺も暇だったんだ、つきあってやる」
「ありがとね、ディーン」
「うぅ・・・」
ディーンは照れながら顔を伏せた。
「ね、ディーン、せっかくだから歌いながら歩かない?」
「な、なんで俺が歌わなきゃダメなんだ」
「ダメなの?」
フィーナはきょとんとしつつディーンを見つめる。
ディーンは恥ずかしさに顔を赤らめて顔をそむける。
「ディーン?」
「し、仕方ないな!
歌ってやるよ」
「うん!」
ディーンはぶっきらぼうに返すが、フィーナは嬉しさでステップまで決めながら歩み出す。
「ま、待てよ」
その様子を小作人の一部は手を止め、微笑ましく見る。
「ありゃ悪ガキのディーンでねぇか、だいじょぶかぁ?」
「いや、さすがのディーンもお嬢様の前では大人しくなっちまっとるよ」
「へぇ?
めずらしいや」
「まぁさすがのディーンも、お嬢様の可愛らしさにまいるだろうよ」
「かもな、奥様そっくりの美人になるぞ、お嬢様は」
「うむ」
次には笑いながら、作業を始める。
それをさらに遠くからみつめるジャンの姿もあった。
「おい、ディーン」
ジャンの呼び掛けにディーンは振り向いた。
「お、大旦那様!」
「フィーを宜しく頼むよ」
「は、はひっ!」
「あら、パパだわ」
「うん、あんまり遠くへ行くんじゃないぞ」
「はーい」
手を振るフィーナにジャンは同じように手を振ってかえした。
ディーンはさらに緊張する。
「ふふっ」
「な、なんだよ」
「おかしなディーン、パパの前では全然普通ね」
「そ、そりゃぁ・・・」
フィーナの春らしい微笑みは周囲を和やかにしていた。
さしもの暴れん坊のディーンもフィーナの前では、ただの子供になってしまうようだ。
フィーナはさらに森へと進んで行くようだった。
「お、おい、ダメだぞ」
「あら平気よ、私にはボックル達がいるもの」
「ボックル?」
「そうよ、みんな、私の大事な友達よ」
「ホラ」
かしげるディーンの目の前であらよとフィーナはボックル達を招いてみせた。
その様子を見たディーンは驚きと感動を隠せなかったようだ。
「わ~・・・っ」
「ね」
ボックル達はディーンを見て驚くが、フィーナを見て囲むようにして踊り出した。
ディーンはボックルそのものを見たこともなく戸惑うばかりであった。
「こ、こいつら、お前の下僕なのか?」
「下僕?
知らないわ、いつも一緒に遊んでくれるのよ」
ボックル達はディーンを見て一層騒がしくなる。
ディーンは一瞬、驚く。
「どったの?」
フィーナはボックルに尋ねた。
フィーナはなにやら、ボックルと会話していた。
その様子をじっとみるディーン。
「あらら、ディーンったら・・・」
「な、なんだよ?」
「ボックル達に下僕と言ったらダメだよ?」
「え?」
ディーンはきょとんとして、ボックル達を見る。
「こいつらの言ってる事が判るのか?」
「判るって言うか、何を伝えたいのか感じ取れるのよ」
「わ、悪かった」
ディーンは平謝りに謝った。
その様子を見たフィーナはボックル達を諭すように話す。
そしたら、ボックル達はフィーナとディーンを囲むように歌い出す。
「な、なんだ?」
「許すって、その代わりにみんなで歌おうって」
「お、おぅ」
ディーンは照れながらも輪の中に入って、共におそるおそる歌い出す。
「お前って変な奴な」
「そう?」
「気に入ったぜ、これからは許可は要らないぞ。
その代わり、俺と一緒にいるんだぞ。
でないと許さないからな!」
「いいわよ、それから、私はフィーナ。
お前じゃないからね」
「判った、フィーナ」
「うん、ディーン、一緒にボックル達と遊びましょ」
そうして、フィーナは周囲に春を届けるかのように過ごしていた。
まさしく、春の妖精のようでもあった。
そう、凍てついた心を溶かすように微笑みをまき散らしていた。
どんな人でも例外はなかったように。