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これは新神のうた(今、俺は曲がり角でヒロインにぶつかった)  作者: トビラバタン
これから、俺は闇の中で時空の神とぶつかる
18/24

(8)吹き溜まり



 高山さんはトランクから出したバケツと柄杓(ひしゃく)を持つ。


「カモフラージュな。おまえは俺の墓参りについて来た(てい)だ。着いてこい」


 そう言って最後に花を手に持ち、墓地の方へ進む。


「なあ、河野千歳(こうのちとせ)は向こうに帰ったんだろ。理由はなんだ?」


「魔法の加護を森の精霊王に返して、お姉さん5人の魂を解放するって言ってました」


「それはいつ聞いた?」


「去年の6月の終わりです」


「そうか……」


 墓地は山の裾に広がっていた。ずんずんと高山さんは進み、一番奥の林の手前で立ち止まった。

 近くの林を見ると、小振りな岩が立ち並んでいた。岩には何も書かれておらず、苔むしている。たしか無縁仏って言ったか。てか、ここが土産物屋だとしたらだいぶ怖いんだが。


「この奥だ。見えるか?」


 高山さんが指した方向は林の奥だ。けもの道が伸びている。その先にユラユラと何か黒いものが揺れている。


「あれって、あ……!」


 悪魔だ。俺が倒したガーゴイルだ。あっちは、シンティラか? 影のような煙が浮かんでる。なんで……。


「悪魔のなれ果てだ。あっちに行くと、クソガキが肝試しに使う自殺スポットがある。まあ、そう言っても年に1人2人だがな。引き寄せられるように、あの奥で首吊ったりするんだ」


「あれは、実体ですか?」


「いや、魂っぽいな。詳しくはわからん。あっちの世界は悪魔がいるが、こっちの世界にはいないだろ? こっちの時空の神が認めてないんだ。つまるところ悪魔には魂の還るところがない、と推測される。だからこういう吹き溜まりに集まるってな」


「……いつ、知ったんですか?」


「委託執行者になって、2年くらい経ったときだな。久しぶりに墓参りに来て、見つけた」


 コルノがこれを許すはずがない。


「コルノには言わなかったんですか?」


「そのとき12歳だぞ。時々頼りなくベソかきながら悪魔倒してる子供に、お前らはこっちの世界で自殺スポット作ってるなんて言えるか?」


「言えない、です」


 今、こだわることじゃないけど、泣きながら……か。俺にはそんな態度しなかった。ほんと俺って頼りなかったんだな。


「まあ、異世界の奴らもいずれ片付けるつもりかもしれん。イギリスの奴らは解決策を与えられているのかもしれん」


 ふっと閃く。


「もしかして、エアメールのアドレスって、解決策のことを教えるつもりだったんじゃ」


「それは充分考えられるな。でも邦人女性失踪の手がかりに加わった。この世界で生活してるなら、バカでも消すよ。そこは責めない。でも今、ここは放ったらかしだ。近づかなきゃいいんだが、俺は職業柄、見過ごせねえんだよ」


 意外と、真面目だ。と思ったら、デコピンされる。


「な、なんで⁉︎」


「失礼なことを思っただろ」


 なんでわかるんだよ。そのとおりだよ。


「で、真面目な俺ちゃんは時々、ここに来てたんだ。そして河野千歳に出会った。一年前の7月の頭だ。その日はけっこうな雨が降ってるから、誰もいないだろうと足を運んだのに、家族で墓参りしていた」


 時期的に、留学前の墓参りか。びっちりスケジュールを組んだと言っていた。雨の中でも消化したんだ。


「彼女は悪魔のなれ果てを見て愕然としていたな。そのときはアレが見えるのなら、魔法の素質があるんだろう、とだけ思った。俺は見つかりたくねえから、その場を離れたんだか、戻って来ると黄金の蔦(アウルム へデラ)で封印されていた。衝 突 (コリジオン)以外の魔法を使えるのは、コルノだと思った。まさか時間がズレて転生しているなんて思わなかった。そしてコルノは一度、この世界で死んだことを知った」


 高山さんは新しいガムの包みを開けて口に入れる。ガリッと歯で噛む音が聞こえた。


「家族が手を合わせていた墓石の名前から、河野千歳(こうのちとせ)だと調べが付いた。そして直後にイギリスへ行く。最初はお前が言った渡河理由だけだろうが、アレ見て増えただろうな。コルノは王国が、自分がこの世界に何をしてきたのか、知らなかったんだ」


 最後に戦ったグラトニーは、異世界はこの世界をクズ捨てにしてるって言ってた。それはこのことだったのか。


「コルノに直接関わる手がなくなって、俺は様子見することにした。お前に接触してもよかったが、コルノの転生を知らなかったら、大騒ぎするかもしれねえだろ? 林の中でわんわん泣いてた奴なんだからな。俺は事が荒立つの大嫌いなんだよ」


 くっ、知らなかったらパスポート取ってイギリスに行ってる自信がある……。


「そもそも河野千歳に前世の記憶がある確証もなかった。だから彼女が帰ってくるまで待ったんだ。SNSをマークして帰国するタイミングはわかったが、何故か父親と探偵が張り付いて、過密スケジュールで穴がなくてな。2回帰国したのに、接触できずだよ。過保護すぎるな、あの親父。無理矢理に有給使ったのによ」


 高山さんが顔をしかめる。

 俺が原因の一端であることは隠そう。マジで鼻フックされる。


「そして今回の失踪事件だ。パリのホテルで家族の元から忽然と消えた。自分と姉の財布から紙幣だけ抜き取って、スマホもパスポートも着替えも持たずにだ。向こうじゃドラッグやってたんじゃないか、って言われてる」


「そ、そんなわけねえだろ」


「わかってる。捜査をそっち路線に仕向けるためだろうよ。さらに父親の口からお前の名前が出てきたんだ。中橋凛郎はヨーロッパに知り合いがいるってな。それでめでたく俺がここにいるわけだ。知り合っていたとは、予想の範疇だったが、父親の話を聞く限り、山火事から一カ月で知り合ってるみたいだな」


「はい。偶然でしたけど」


「で、コルノの渡河はどれくらいの予定だったんだ?」


「5日間です」


「そうか……。イギリスの委託執行者と連絡が取れないのが、本当に痛いな」


「……どれくらい待てばいいと思いますか?」


「その5日間だよ。留学の一年かけて渡河の日程と方法を詰めたんだろ?」


「はい。そのとおりです」


「それが覆ったんだ。向こうで何かあったとしか思えない」


 高山さんは吹き溜まりを見る。


「黄金の蔦は渡河後に無くなった。コルノはこれを放っておくような奴じゃない。何かあったのかはわからん。だが戻れなくなってるんだ」


 ニヤッと高山さんは笑う。


「さて、凛郎くん。これで異世界へ行く決心は揺るぎないものとなったかな?」


 ぐっと拳を握る。


「もともと行くつもりですから」



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