(10)
それから俺は泣き腫らした。
字面の如く、目にものもらいができたと仮病を使っても許されるくらい、泣き腫らした。
感じたくもない達成感と喪失感を同時に食らった俺の心は無力化し、地元の消防団に保護されるまで林の中で泣き続けた。
山火事の犯人かもしれないと警察に引き渡されたが、火元となった火柱からは明らかに離れており、無罪放免となった。
親が迎えに来て家に帰っても、気を取り直すなんてご都合主義は行われない。
朝が来るたびに習慣的に起き、画面の割れたスマホをずっと見た。喋り始めるかもしれないと信じ、朝が終わり昼になると、また残りの一日を泣いた。夜、また泣き疲れて眠り……。その繰り返しだ。
しばらく経つと、イギリスから7通のエアメールが届いた。イギリスに知り合いなんて、委託執行者しかいない。おそらくコルノがネット通販の住所を控えていたのだろう。
ご丁寧にどれも短文で、中学英語でわかる内容だった。
凛郎、王国は平和です。素晴らしい日に、感謝を。
だからなんだ、それでどうした、と聞きたい。
どうやったって、涙は出てくる。たぶん一生出る。枯れることなんてない。悲しみがいつか無くなるなんて戯言だ。
ひと月後、さすがに心配した両親や教師から尋問が始まると、俺は答えに窮して学校に行くことにした。
はじめてまともに歩く通学路だが、足取りは重い。何もかもがくすんで見える。伸びっぱなしの前髪の合間から、サイクルロードを眺めて思い出した。
自転車通学だったけ。
……巻き付いている黄金の蔦はもうないよな。
また目が熱くなる。
やっぱダル過ぎる。
休むと親に連絡を入れようとスマホを取り出したとき、曲がり角から誰かが飛び出してきた。
女の子はたぶん同い年くらいか。まだ抜けきらないクセで抱き留めてしまう。
「ごめん」
「いえ……こちらこそ、すいません」
その声に心臓が掴まれる。
幾度となく人にぶつかってきたが、はじめての感覚だ。
俺を見上げた彼女の瞳で直感する。似ても似つかないのに確信する。
今、俺は曲がり角でぶつかった彼女を離してなるもなるものかと、抱き寄せた。