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これは新神のうた(今、俺は曲がり角でヒロインにぶつかった)  作者: トビラバタン
今、俺は曲がり角でヒロインにぶつかった
1/24

(1)



————次の角を右に曲がります。


 今日で一ヶ月だ。


——しばらく道なりに進んでください。


 この土地に引っ越して来て、新しい高校に転校した。


——突き当たりを左に曲がります。


 運良くクラスには馴染めたし、授業にも付いていけてる。


——右の路地を進んでください。1分の近道です。


 でも毎日遅刻ギリギリだ。その理由を方向音痴とするのはもう難しいだろう。なんせ一ヶ月も通っている。


——次の横断歩道が赤になりますよ、もっと急いでください。


「うるさい!」


 と俺は俺のスマホに向かって言う。通行人が振り返ったので、慌てて「イヤホンの音量、うるさいなぁ」と取り繕う。


——あなたのためにナビゲートしているのに。ひどい。モラハラです。


「モラハラなんて言葉覚えやがって。おまえがやってることはパワハラだからな」


——あなたが承諾したのです。あなたがやりたい、と言ったのです。私は話を持ちかけただけです。責任の所在をわたし一人に押し付けるのは、社会性の欠落に繋がります。


 くーっと俺は奥歯を噛む。全力ダッシュでこれ以上酸素は無駄にできない。ちくしょう!

 たしかにこいつの話を聞いて飛び付いた。いや飛び付かない奴がいるのか?

 突然部屋に現れた賢者を名乗る光に、この街の守護執行者として戦ってくれ、なんて申し出。

 受けなかったら爺さんになってもグチグチ思うだろう。あの時の話を受けたらどうなってたんだろう、と。

 ただ、ただもう少し話を詰めて聞くべきだった。


——次の曲がり角を右です。本日の対象指定(コミタート)がいます。5、4、3、2、1、さあ、ぶつかってください。


 曲がり角の直前、俺はスピードを落とす。合図ともに右へ曲がる。

 どすん、と俺にぶつかったのは、ポニーテールの女子高生だ。俺は背中に手を回し、彼女が尻餅を付くの防ぐ。


「いったーい! ちょっと、前見て歩きなさいよ! 危ないでしょ!」


「……すいませんでした。急いでまして」


 肩で息をしながら謝り、抱き止めた手を離す。彼女の顔が少し赤くなった。

 ちなみに俺はイケメンでもなんでもない。黒い学ランに身を包み、駅のホームに立てば風景となるような、ありきたりな顔をしている。

 シチュエーションが彼女を赤くしているだけだ。一ヶ月も同じことをしていれば、それくらいは理解できる。


「あ、ありがと……」


 今日はポニテのツンデレ風か。

 あー、初日はもっとドキドキしたのにな。何の感情も湧いてこなくなってしまった。

 赤面の女子高生に見つめられる中、俺の足元に魔法陣が引かれ、光が弾ける。住宅街が輝きに包まれる。


——中橋凛郎(なかはしりんろう)、対象指定への衝突により、委託執行者コリジオンへ変性完了しました。


 この意味のない出逢い。

 世界一、無駄なボーイミーツガール。

 それによって俺は魔法使いへと変身する。



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