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第二話 グレートボア

今日も今日とて俺は魔の森を行く。


今回の依頼は『巨大猪グレートボアの討伐』だ。昨夜、要塞都市の見張りを担当する衛兵数人が防壁近くまで接近するグレートボアを発見したらしい。通常現れない巨大な魔物が現れたとのことで、ちょうど依頼を終えて冒険者ギルドに来ていた俺に白羽の矢が立ったというわけだ。


基本的に大きな魔物は魔の森の奥から外へは出てこない。これにはいろいろな説があるが、俺が支持しているのは森の奥の方が魔力が濃いから、という説だ。魔力が多く含まれる食材は軒並み旨いというのは有名な話で、同様に魔物のえさとなる植物や動物も森の奥の方が旨いのではないかと思うからだ。

植物に関しては味を確かめたことはないが、森の奥にいる魔物は浅い所にいる魔物よりも旨いことを俺は知っている。防壁近くにいるオークと魔の森の奥にいるオークでは後者の方が圧倒的に旨い。

何が言いたいかというと、防壁近くまで来るようなグレートボアというのはとにかく珍しいということとこの依頼は討伐が重要で、その遺体はこちらで回収することができるというわけである。


「さて、とっとと見つけて旨い飯にありつくとするか。」


俺は武器を担いで森の中を散策する。デカい魔物を討伐することが多い俺だが、巨大な魔物を好んで狩る理由は旨いだけではない。今回のように発見報告だけを頼りに探す際、見つけ出すまでが小さい魔物を探すよりも数段簡単だからというのもある。


実際、今日の依頼だって簡単だ。衛兵が見たという位置から、だいたいの行動範囲は絞れているのでそのあたりを見て歩く。するとほら見つけた。


「こいつはぁデカい。軽く5トル(メートル)はあるじゃねぇか。」


見つけた痕跡はおそらくグレートボアの通り道で、木々をへし折って進むトンネルのように木が散らばっていた。その高さはこの間のキュクロープスよりは小さいものの、グレートボアにしては異常なほどに大きい。

衛兵が勇み足で対処に乗り出していた場合、まず間違いなく被害は甚大なものになっていたことが想像に難くない。グレートボアは魔の森においてはあまり強い魔物ではない。駆け出しを抜けたくらいの冒険者であれば難なく狩れるレベルの魔物といえばわかるだろうか。ゴブリンやスライムのように雑魚ではないが、しっかりと対処法と弱点を把握していれば簡単に倒せる魔物なのである。


基本的な攻撃手段は助走をつけた突進のみ。その鋭く太い牙で突かれたら大けが間違いなしだが、その突進は限りなく一直線で、フェイントも何もなく目的を目指して突き進むだけ。ソロなら突進をよけて横から攻撃をし続ければ倒せるし、パーティでも同様で一人が魔法などで挑発しつつ囮になり逃げ続け背後から他のメンバーが攻撃して倒すのが、ギルドに推奨される倒し方である。この狩り方は冒険者ギルドの初心者講習でも教えられる。一般的な冒険者パーティでグレートボアに苦戦するということはそうあることではないのだ。


ブルルル


「お?お出ましか。実物は山みてぇだな。それについてるぜ。」


俺が冒険者ギルド主催の講習に思いを馳せていると前方から牛や猪のような鼻を鳴らす音が聞こえてきたので、そちらに目を向ける。そこには案の定、グレートブルが鼻を地面すれすれに寄せていた。何かを嗅いで探しているようだ。これはグレートボアの習性で、地中に埋まる魔力を保持した何かを探すのだ。何かといってもだいたいは大したものじゃない。キノコや根菜類、屑魔石ってところだ。まぁ、魔力を保持する食物ってだけで小遣い稼ぎくらいにはなるので、ラッキーなわけだ。もちろん冒険者ギルドで買い取ってくれる。


ブルルルル、グル、グルォオオオオオ


夢中で地中を探していたグレートボアは俺に気が付くと大きな方向を挙げて威嚇する。そして二度三度と地面をけるような動作をすると俺をめがけて突進した。

5トル級のグレートボアの突進は小さな山が迫ってくるような圧迫感がある。これを受けるのが駆け出しを抜けた程度の冒険者であれば結果は悲惨なものになっただろう。


しかし、俺はこれでもBランク。それに巨獣狩りが専門とも言っていい冒険者だ。抜かりはない、もっと大きな同系統の魔物を仕留めたこともあるし、慣れたものだ。

大楯を構えて待ち構える。その時にはもちろんスキルを発動させた。【巨大化】は魔力を消費して自分や自分が触れたものを大きくさせる。魔力を物自体に浸透させるスキルの構造上、所有物のように日ごろから魔力をなじませることができないと魔力の消耗が大きくなるのがちょっとした欠点だ。


スキルを発動させた俺の体はぐんぐんと大きくなり、グレートボアの体高を超えて6トルほどで止まる。だんだんと目標が大きくなってもグレートボアは止まらない。所詮は獣なのでこちらが大きくなったところで的が大きくなっただけとか、近づいただけと錯覚しているのだろう。メキメキと周囲の木々を弾き飛ばしながら突撃するグレートボアが俺へと襲い来る。


ブルルルルァアアア


ドガァン「ふん、ヌァアアア!!」


グレートボアはその勢いのまま、俺の大楯にぶつかる。ドガァンと大きな音が響くと俺は大楯を掬い上げるように上へと弾く。グレートボアの勢いを正面から受け切ったことで、グレートボアにも尋常ではない衝撃が伝導する。


ボキン、グワン、ドスン


巨木をなぎ倒すような威力の突進は相応の威力を持っていたようで、楯で反射して返った衝撃は派手な音を立ててグレートボアの首の骨をへし折り、その勢いのままバク転するかのように背中から落ちた。

まぁ、こんなもんか。【巨大化】はただ見た目が大きくなっただけではなく、その質量なども併せて大きくなるので、グレートボアのような重量級の魔物の突進すらも跳ね返せるほどの力も得ることになったわけさ。


「ふぅ。とりあえず、これで依頼は完了か。これ以上にデカいグレートボアなんぞいてたまるか。」


一つ愚痴をこぼすと俺は懐から一つ袋を取り出す。魔物を倒しても使い道がなければその場に置いて帰るが、グレートボアの肉を筆頭に使い道がある素材は余すことなく持ち帰るのが冒険者の流儀だ。そのために必要な道具は常に携帯しているのがふつうである。

しかし、俺の運搬用の道具は少し特別だ。一般的な運搬道具は、馬車や荷車などの大きなものだ。だが、物事には例外もある。それが俺の持つこの袋。これは“魔法袋”という魔道具で、魔物の素材を持ち運ぶのに便利な付与がされている。


「“入れ”」


グレートボアに手を触れた俺が発動キーをつぶやくとグレートボアの巨体が吸い込まれるように消える。この袋には空間魔法が付与されており、見た目以上に物が収納できる。俺が所持するこれはなかなかの大きさで、5トル級のグレートボアが6頭入れることができる。このサイズの魔法袋は王都で屋敷が買えるくらいの価値がある。


「さて、帰るか。」


これで依頼は完了したので、帰路に就くことにする。これ以上何かを求めて移動する意味もないし、なんだかんだでそろそろ昼も過ぎた頃合いだ。要塞都市の外にいると、時間を示す鐘の音が聞こえないので正確に時間を把握することが難しいな。

冒険者ギルドに戻った時間次第では、もう一つ依頼を請け負っても良いかもしれない。




一つ目の防壁を超えて要塞都市に近づくとそこにはいつも通りの行列が三本出来ていた。それは要塞都市へと入るための行列で、二つ目の防壁を超えて要塞都市の本当の中へ入るためにはこの行列を乗り越えなくてはならないのだ。


(ま、俺は冒険者だし、待つ必要はないんだがな。)


ああやって並ぶのは基本的に商人連中だけだ。というのも、あの行列は彼らの持つ商品の検閲が主な理由だからだ。要塞都市は魔の森からの魔物の襲撃を防ぐための防壁を兼ねており、それはつまりクライ王国における魔物との最前線を意味し、敵国からするとちょうどいい爆弾になる。要塞都市を落とすための布石として商人を使うという事件も過去にはあったのだそうだ。

というわけで、何かをもって要塞都市に入るものは基本的にあの行列を通る。しかし、依頼帰りの冒険者は例外で、魔物の討伐証明部位こそ確認されるが、それ以上の確認は最低限でいいのだ。どうせそういう連中は一目で魔物を持っているとわかるわけだしな。


「おう。これを。」


「よく帰った。無事で何より。」


俺は魔法袋を衛兵に渡す。こちらの門でも魔道具を持っている場合はこうして申告が必要で、さらに魔法袋がある場合は中身の確認を済ませてからしか入れない。

魔道具を所持したまま門を通ろうとすると、どういう仕組みか門に設置されたブザーが鳴り響いて中から衛兵がわらわらと出てくるというわけだ。

俺には仕組みがわからない。一応、王城などに設置されているという金属を探す魔道具と似た仕組みなのではないかと推測しているのだが、さすがに教えてもらえなかった。


「ふむ。グレートボアの異常種か?これは大きいな。昨晩発見された奴だろうが、昨日の今日でよく討伐してくれたな。感謝する。」


「いや、これが仕事だからな。むしろ回してくれてこっちが感謝したいさ。」


「お互いさまということか。さて、魔法袋も魔道具も問題はなかった。返却する。行っていいぞ。」


「確かに。じゃあな。」


衛兵と軽い会話をしながら門をくぐると問題がないと魔道具を返却されたので、確認をしてから歩き出す。毎度のことだが、多少時間がかかるのが面倒なんだよ。


とにかく、これであとは冒険者ギルドに戻って報告をすれば完了だ。想定していた通りの魔物だったが、どれくらいの報酬になるだろうか。グレートボアなので達成報酬が少ない可能性もあるが、その場合は買取報酬に期待したいもんだ。





拙作を読んでいただきありがとうございます.


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