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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ウェディング~殺人鬼~(wedding)

作者: チェリー・ボウイ

 2008(ねん) 4(がつ) 日本 横浜市中区(よこはましなかく) 23()54(ふん)

 この日は(あめ)()っていた。バイト(がえ)りのさゆりは(かさ)をさしながら 今日(きょう)(なに)()べるか(かんが)えていた。ダイエットなど関係(かんけい)あるまい、(かえ)ったら料理(りょうり)をして明日(あした)のお弁当(べんとう)(つく)り シャワーを()びて映画(えいが)()る。ポップコーンを片手(かたて)時間(じかん)(わす)れコメディを()るのが 残業(ざんぎょう)(つづき)きの(つか)()てたさゆりのストレス発散(はっさん)だった。(おな)毎日(まいにち)()(かえ)し、今日もいつも(とお)りの(かえ)(みち)(いた)って変わりはない。いつもと(ちが)うとすれば、(あめ)()()まず、(こころ)(すこ)()()んでいるだけ。あとも(さき)()わりはない。だかしかし、この()だけは(ちが)っていた。さゆりは(うし)ろにいる人物(じんぶつ)()がつかなかった。(あめ)のせいか、退屈(たいくつ)毎日(まいにち)(おも)(なや)まされているせいか、次第(しだい)(ちか)づいてくる足音(あしおと)はおろか、(のど)()()かれるその瞬間(しゅんかん)まで()がつかなかった。

 ()()むさゆりは死の直前(ちょくぜん) 最後(さいご)犯人(はんにん)姿(すがた)を見た。

 犯人(はんにん)黄色(きいろ)いレインコートに瞳孔(どうこう)(ひら)いた(くろ)く大きな()痙攣(けいれん)しながらニヤリと(わら)うその犯人(はんにん)は さゆりの遺体(いたい)(ひだり)クスリ(ゆび)緑色(みどりいろ)風船(ふうせん)(むす)()けた。()()犯人(はんにん)

 (あた)りは誰もいない。緑色(みどりいろ)風船(ふうせん)()たる雨音(あまおと)だけが(なが)れている。ー


 数時間後(すうじかんご)ー2()刑事(けいじ)現場(げんば)到着(とうちゃく)した。

1()一善透(いちぜん とおる)。見た()(てん)パでタラコ(くちびる)(ひげ)も少々()女性(じょせい)には(しり)()かれるタイプ。そんな(おとこ)だが、仲間(なかま)には()かれている。一善は事件(じけん)となると(あたま)()える。興奮(こうふん)し、(よる)(ねむ)れず、解決(かいけつ)するまで、一生(いっしょう)パズルのピースように()がかりを1()1()はめていき、次々と事件(じけん)解決(かいけつ)(みちび)いていく。その執着(しゅうちゃく)さ。仲間思(なかまおも)い。そして(なぞ)大好物(だいこうぶつ)

そしてもう1()橋本愛梨(はしもと あいり)。ビジュアルは()いが性格(せいかく)がなんとも(かた)い。(おとこ)など()ってはくるもののすぐにその()から()()ってしまう。性格(せいかく)真面目(まじめ)(しん)(かた)く、()がった(こと)(だい)(きら)い。チャラい(おとこ)などもってのほか。(この)みは(さわ)やかでマッシュヘアの()()(わか)男性(だんせい)。それかマッチョで()(わら)男性(だんせい)。とにかく絶対条件(ぜったいじょうけん)常識人(じょうしきじん)であること。

こんな()うはずもない2()だが、(なに)かの化学反応(かがくはんのう)か、コンビを()んだ瞬間(しゅんかん)から事件解決(じけんかいけつ)()(りつ)()がっているのだ。

そんな(ちまた)でちょっぴり有名(ゆうめい)な2()今回(こんかい)事件(じけん)()ばれるのだが、この(さき)どんなに(おそ)ろしいことが()っていようとは(おも)うまい。

各出口(かくでぐち)警官(けいかん)を配備しておきました」

 ある刑事(けいじ)が2()報告(ほうこく)をした。

「なんだこれは」

 一善が現場(げんば)を見るや(いな)やその光景(こうけい)にあっと言わされる。

「ひどいわね」

 愛梨にとってもこんなひどい事件(じけん)(めずら)しい(こと)だった。(なん)仰向(あお)けに腹部(ふくぶ)滅多刺(めったざ)しにされ左手(ひだりて)薬指(くすりゆび)には緑色(みどりいろ)風船(ふうせん)がつけられていたからだ。

「しかも外灯(がいとう)(した)での犯行(はんこう)か」

 一善が(つぶや)く。

(ほか)被害者(ひがいしゃ)にも風船(ふうせん)が?」

「はい全員(ぜんいん)です」

 愛梨の質問(しつもん)先程(さきほど)刑事(けいじ)がこたえた。

「まるで美術品(びじゅつひん)(よう)だな、」

「ちょっと不吉(ふきつ)なこと()わないでくれる?」

「いいじゃん (おも)ったことを()っただけじゃん」

「それがダメだって()ってるの」

 また(はじ)まった。2()喧嘩(けんか)はちょっとした(ちまた)での名物(めいぶつ)みたいなものだった。(まわ)りにいる刑事(けいじ)警官(けいかん)たちがニヤニヤと(たの)しそうに見物(けんぶつ)していた。

左手(ひだりて)()けてる風船(ふうせん)意味(いみ)なんだと(おも)う?」

 愛梨がしゃがみ()んで風船(ふうせん)()ながら質問(しつもん)をした。

左手(ひだりて)薬指(くすりゆび)だから、結婚指輪(けっこんゆびわ)のつもりかな?」

多分(たぶん)そうね。でも(なん)風船(ふうせん)なの?」

心理学(しんりがく)では、緑色(みどりいろ)風船(ふうせん)は"(おだ)やかな(やす)らぎ、または成長(せいちょう)再生(さいせい)意味(いみ)する"っていうのがあるから自責の念を持つ人物かも。それかタダの(あそ)(ごころ)かもね」

 一善が(たの)しそうに(はな)した。愛梨が(なに)かを()いたげな(かお)で一善を()つめている。(なに)かまた空気(くうき)()めないことを()ってしまったのだろうか。そんな不安(ふあん)が一善の笑顔(えがお)(しずめ)めた。

(ほか)被害者(ひがいしゃ)との共通点(きょうつうてん)(さが)して。(なに)意味(いみ)があるのかも」

 愛梨の()(こと)をメモに()刑事(けいじ)

「わかりました」


 翌朝(よくあさ)被害者(ひがいしゃ)(かよ)っていたエンジェル女学院大学(じょがくいんだいがく)学生(がくせい)たちに集会(しゅうかい)(ひら)いてもらった。ここで名物(めいぶつ)コンビが到着(とうちゃく)する。

学部長(がくぶちょう)山手警察(やまてけいさつ)一善透(いちぜん とおる)さんと橋本愛梨(はしもと あいり)さんです」

 担任(たんにん)先生(せんせい)廊下(ろうか)学部長(がくぶちょう)紹介(しょうかい)挨拶(あいさつ)()わしたあと、さっそく学生(がくせい)たちの説明(せつめい)()()かる。

「さゆりさんのご両親(りょうしん)のお(はなし)では、葬儀(そうぎ)本牧(ほんもく)(ほう)(おこな)われることに、遺体(いたい)今日引取(きょうひきとり)りにくる予定(よてい)です。もしご家族(かぞく)挨拶等(あいさつとう)したい(かた)()ってください 」

 ここで説明(せつめい)をしている途中(とちゅう)()いている学生(がくせい)(となり)(すわ)っていた女学生が愛梨の(はなし)(さえぎ)(よう)(はな)しを(はじ)めた。

一体何(いったいなに)をしてたの?」

 一善と愛梨が女学生を()つめる。

警察(けいさつ)もいるのになんで(ころ)されたの?ねぇ、」

「こらっ、ちょっと」

 担任(たんにん)先生(せんせい)(ちい)さな(こえ)注意(ちゅうい)をした。

警察(けいさつ)がいるのに(あか)るいところで(ころ)された」

 ここで一善が(はな)しだした。

犯人(はんにん)大学関係者(だいがくかんけいしゃ)警官(けいかん)被害者(ひがいしゃ)(あや)しまれない格好(かっこう) または、人物(じんぶつ)だ」

被害者(ひがいしゃ)全員独身女性(ぜんいんどくしんじょせい)犯人(はんにん)意図的(いとてき)(ねら)っているはず」

 愛梨も(はな)しに(くわ)わった。

 女学生たちは恐怖(きょうふ)不安(ふあん)()られ、(となり)にいる学生(がくせい)たちと()()()った。


 1(とお)説明(せつめい)()わったあと、廊下(ろうか)()担任(たんにん)先生(せんせい)と一善、愛梨3人で(はな)しをした。

学生(がくせい)たちの安全(あんぜん)をとりたい。学部長も学校(がっこう)閉鎖(へいさ)すると()っていますわ」

「いえ、学校(がっこう)閉鎖(へいさ)逆効果(ぎゃくこうか)だと(おも)います もし犯人(はんにん)内部(ないぶ)人間(にんげん)なら、学校(がっこう)再開(さいかい)()ってまた(ころ)しだすと(おも)います」

 愛梨の意見(いけん)先生(せんせい)(おどろ)いた表情(ひょうじょう)をみせた。では一体(いったい)どうしたらいいのかと不安(ふあん)表情(ひょうじょう)をみせる。

「ですが(いま)(なん)とも()えません」

 一善の一言(ひとこと)がまた、先生(せんせい)不安(ふあん)(あお)った。

「わかりました、では学部長にお(つた)えします」


 学校(がっこう)()一旦(いったん)のひと休憩(きゅうけい)。一善が(からだ)()ばした。

犯人(はんにん)女性(じょせい)だと(おも)う?」

「いーや、わからないね警官(けいかん)教師(きょうし)か、でもこういうことするのは(おとこ)(おお)いからな」

「ほとんどはでしょ?今回(こんかい)ばかりは女性(じょせい)だと(おも)うわ」

「じゃあ、()ける?」

 一善の(わる)ノリに愛梨は(はら)()ち、一善のお(しり)()ってやった。

「イタッ」

(なか)いいですね」

 コーヒーを片手(かたて)に2()正面(しょうめん)から()たのは昨夜(さくや)後藤刑事(ごとうけいじ)だった。

「あっ!昨日(きのう)(ひと)だ」

(じつ)はお2()にお(つた)えする(こと)がありまして 昨日(きのう)愛梨さんから被害者(ひがいしゃ)共通点(きょうつうてん)調(しら)べる様頼(ようたの)まれまして」

 そう()って後藤刑事(ごとうけいじ)はジャケットの(むね)ポケットからメモ(ちょう)()()した。

(なに)かわかりましたか?」

「はい遺体(いたい)調(しら)べた結果(けっか)刺傷(さしきず)共通(きょうつう)していたんです」

 愛梨の質問(しつもん)に後藤刑事はメモ(ちょう)()みながらこたえた。

死因(しいん)心臓(しんぞう)への一刺(ひとさし)し。胸骨(きょうこつ)(つらぬい)いていてその後過剰(ご かじょう)()()したそうです。回数(かいすう)は9(かい)。そして防御創(ぼうぎょそう)がなく抵抗(ていこう)もしていないそうです。どの被害者(ひがいしゃ)にも共通(きょうつう)しています」

「なるほどね、9(かい)って数字(すうじ)()っかかるわね」

 愛梨は一善の(ほう)()つめた。

「サディストだな」

「ええ(わたし)もそう(おも)うわ」

「さ、サディストですか?」

 2()()った(こと)理解(りかい)ができなかったのか、後藤刑事の(あたま)には「?」マークが()かんでいた。

被害者(ひがいしゃ)滅多刺(めったざ)しにして性的興奮(せいてきこうふん)(おぼ)えるんだ。最初(さいしょ)心臓(しんぞう)(ねら)い、そのあとに(おも)存分(ぞんぶん)()す」

「おそらく9(かい)(ふか)意味(いみ)もなく、ラッキーナンバーって(かん)じね」

「その(とお)り!()かってきたじゃん!」

 愛梨はまたもやその()()わないお調子者(ちょうしもの)(しり)()ってやった。

「はあ、」

 後藤刑事はまだ理解(りかい)程遠(ほどとおく)く、2()会話(かいわ)(あたま)(はい)って()なかった。

「あっ、あともう1つ!」

 後藤刑事が(おも)()したようにメモ(ちょう)のページを(めく)りだした。

「1人目撃者(りもくげきしゃ)がいたようで、おそらく犯人(はんにん)女性(じょせい)だったと証言(しょうげん)しています」

「ほらー()ったじゃん、(わたし)()ちね!」

()ちとか()けとか関係(かんけい)ないですー しかも()けをダメだって()ったのあなたじゃん!」

「そんなの()らなーい、あとでご飯奢(はんおご)ってもらうからね」

「はあ?無理(むり)だって」

「ごちそうさまで~す!」

 ここで学校(がっこう)のチャイムが()った。そろそろお昼頃(ひるごろ)だ。

最後(さいご)にもう1つお(はなし)ししたい(こと)がありまして。先程(さきほど)学部長と()ってきたんですが、2日後(かご)学校(がっこう)閉鎖(へいさ)すると言っていました。それをお2()にお(つた)えしてくれと」

「なんだって?」

 一善の声が裏返(うらがえ)った。

「まずいわね。その(まえ)(つか)まえないと」

(わたし)たちは一体何(いったいなに)をすれば?」

 後藤刑事が質問(しつもん)をする。

校内(こうない)にカメラの設置(せっち)は?」

「もうすぐ完了(かんりょう)するかと」

人員(じんいん)()やさないと、それに犯人(はんにん)大学関係者(だいがくかんけいしゃ)なら閉鎖(へいさ)すると知ってすぐにでも(うご)()しそうね」

私服警官(しふくけいかん)(しの)ばせておいて」

「わかりました」


 17時頃(じごろ) ここで帰宅(きたく)のチャイムが()った。1()警備員(けいびいん)(もん)()(はじ)める。その警備員(けいびいん)(わか)くて、(すこ)しばかりのイケメン。身長(しんちょう)は170cm(センチ)程度(ていど)。パーマがかかっていてしかも童顔(どうがん)。なぜこの仕事(しごと)をしているかというと、就職(しゅうしょく)はしてみたものの 長続(ながつづ)きはしない。とても()(しょう)(ひと)とのコミユニケーションも苦手(にがて)彼女(かのじょ)出来(でき)たことは数回(すうかい)、あまり(ひと)(かか)わる仕事(しごと)がしたくなくて求人募集(きゅうじんぼしゅう)(さが)したところ運良(うんよ)大学(だいがく)警備員(けいびいん)にしてもらったのだ。もちろん女学生たちはそんな(こと)()らずに学生(がくせい)たちの(あいだ)ではイケメンがいると(うわさ)(ひろ)まっており、片思(かたおも)いをしている()もたくさんいた。

「あのーすみません」

 1()学生(がくせい)(はな)しかけてきた。

(わたし)磯山(いそやま) せなって()うんですけど、あの、これ、()()ってください」

 (もら)ったのは手紙(てがみ)だった。ラブレターをもらったのは何年(なんねん)ぶりだろうか。(おんな)()()ずかしそうに(はし)って()ってしまった。

「ダメだよママ、そんな事言(ことい)わないで、あの()(なに)(わる)くないんだから」

 ブツブツと1人囁(りささや)いていた。そのあと妄想(もうそう)世界(せかい)(はい)ってしまった。(かれ)妄想(もうそう)世界(せかい)(はい)り、自分(じぶん)()たいものだけを()て、精神(せいしん)安定(あんてい)させていたのだ。だが自分(じぶん)(あやつ)ることはできない。自分(じぶん)でも()らない(あいだ)世界(せかい)(はい)ってしまうのだ。

現実(げんじつ)世界(せかい)(もど)ってきて10(ぷん)、20(ぷん)経過(けいか)していたことはザラではない。今彼(いまかれ)()(まえ)()えるのは怪獣(かいじゅう)。そして(ぼく)はスーパーヒーロー。(てき)(とら)らわれてしまった磯山(いそやま)せなちゃんを(すく)わなきゃ。

「ここでぼくの必殺技(ひっさつわざ)だ」

 その()(たか)()び、(てき)顔面(がんめん)一直線(いっちょくせん)()りをお見舞(みま)いしてやった。

 (たお)れる(てき)磯山(いそやま)せなちゃんはこちらへ(はし)ってくる。(すく)われたせなちゃんは(ぼく)(こい)をする。ニヤニヤが()まらない。ここでハッ!と現実(げんじつ)世界(せかい)(もど)ってきた。

 (ぼく)はいま、現実(げんじつ)世界(せかい)何分固(なんふんかた)まっていたのだろう。時計(とけい)()ると、5(ふん)(あま)りだった。(あた)りを見渡(みわた)す。そこである(ひと)()があった。女学生3(にん)がこちらを()いて(わら)っているのだ。コソコソ(ばなし)しをし、またクスクスと(わら)()す。1()でニヤニヤしていたのが()られたのか、(きゅう)()ずかしくなってきたのと同時(どうじ)に、(にく)しみを(おぼ)えた。


 ー18時頃(じごろ)

 (めい)コンビは山手(やまて)警察署(けいさつしょ)(もど)警察官(けいさつかん)、そして学校(がっこう)職員(しょくいん)たちを()れて犯人(はんにん)について説明(せつめい)(おこな)った。

(みな)さん(すわ)ってください」

 一善が()びかける。

現時点(げんじてん)でわかっていることについて説明(せつめい)します。犯人(はんにん)大学(だいがく)自由(じゆう)出入(ではい)りできて(だれ)にも(あや)しまれることはなく、この数日(すうじつ)で5(にん)被害(ひがい)がおきています。被害者(ひがいしゃ)全員(ぜんいん)独身女性(どくしんじょせい)。おそらく特定(とくてい)女性(じょせい)(おとこ)がいないというのが()(がね)だと(おも)われます。学生(がくせい)職員(しょくいん)可能性(かのうせい)もあります。」

 ここで愛梨も説明(せつめい)(くわ)わる。

「おそらく、犯人(はんにん)()(かえ)人生(じんせい)拒絶(きょぜつ)(あじ)わってきたと(おも)われます。その証拠(しょうこ)()んだあとも()(つづ)けています」

緑色(みどりいろ)風船(ふうせん)独身(どくしん)女性(じょせい)だと()っていながら左手(ひだりて)薬指(くすりゆび)(むす)()けているのは犯人(はんにん)皮肉(ひにく)()めたメッセージかと。犯人(はんにん)殺人(さつじん)をゲーム感覚(かんかく)でいて、妄想癖(もうそうへき)のある人物(じんぶつ)です」

目撃(もくげき)証言(しょうげん)だと犯人(はんにん)女性(じょせい)身長(しんちょう)170cm(センチ)~175cm(センチ)

 一善、愛梨と交互(こうご)(はな)している途中(とちゅう)、ここで1()教員(きょういん)()()げた。

身長(しんちょう)がそんなに(たか)くて、女性(じょせい)教員(きょういん)(わたし)たちの身近(みじか)にはいないと(おも)うんですが、」

「たしかにな」

 一善が(つぶ)いた。

「じゃあ、学生(がくせい)犯人(はんにん)か?」

 1()警察官(けいさつかん)(つぶ)いた。

「ええ、(いま)その(せん)捜査(そうさ)(おこな)っています」

 愛梨が(こた)えたあと(しょ)のエレベーターが点滅(てんめつ)しだした。

 チーンッ

 エレベーターの(とびら)()こうから(あらわ)れたのは昼間(ひるま)()った後藤刑事だった。2()(ほう)()(あし)でやってくる。

刑部(けいぶ)(あたら)しいことがわかりました!」

 後藤刑事の(いき)(あら)(みだ)れていたので、何事(なにごと)かと2()は、いや、(まわ)りの(みな)も後藤刑事の(こえ)(みみ)(かたむ)けただろう。

犯行(はんこう)使(つか)われた(もの)がわかりました!」

(なに)っ!?」

 一善の(こえ)裏返(うらがえ)った。(かれ)はびっくりすると(かならず)(こえ)裏返(うらがえ)ってしまう。

一体(いったい)(なん)だったの?」

 愛梨が()いた。

「スタンガンでした」

「スタンガン!?」

「ええ、腹部(ふくぶ)にアザがあったんですが刺傷(さしきず)()かりにくく時間(じかん)がかかってしまいました。(もう)(わけ)ありません」

「いやいや、(あやま)らなくていいですよ」

 一善が(なぐさ)めた。

「スタンガンってことは、()っているのは警備員(けいびいん)だけじゃ、」

 ここである1()教員(きょういん)(くち)()したが、1つ疑問(ぎもん)(のこ)る。

「たしかに警備員(けいびいん)はスタンガンを携行(けいこう)しているけど、身長(しんちょう)170cm(センチ)~175cm(センチ)女性(じょせい)警備員(けいびいん)って(だれ)だ?」

 一善が(おお)きな(こえ)()った。興奮(こうふん)してきた証拠(しょうこ)だ。(おお)きな(なぞ)()(まえ)にある。「やった」「(たの)しくなってきたぞ」(こころ)には歓喜(かんき)(こえ)ばかりが(ひび)いている。

「では、警備員(けいびいん)のリストを」

 愛梨が指示(しじ)をだした。

「それならこれを」

 後藤刑事がすぐにリストをだしてくれた。

「さすがね」

 そのリストを一善とみた。

「どう(しぼ)ります?」

 後藤刑事が質問(しつもん)をする。

(すべ)ての現場(げんば)(ちか)いのは捜査(そうさ)介入(かいにゅう)するためだな!」

 一善が(はな)す。

「5(けん)すべてに対応(たいおう)した警備員(けいびいん)(さが)してくれないか?」

了解(りょうかい)しました」

「あと、警備員(けいびいん)たちの犯罪歴(はんざいれき)調(しら)べて!」

了解(りょうかい)です」

「ちょっと(こえ)デカいよ?」

「えっ?ごめん!」

 愛梨は(あき)れた(かお)をしてため(いき)をついた。

「ところでさ、コーヒー()まない?」

「え?」

「ほら、ちょっと(つか)れちゃったし休憩(きゅうけい)しようよ」

「あなたはいつも(やす)んでるじゃない」

「まあいいじゃんいいじゃん、(あたま)(すこ)(やす)ませないと()(あん)()せないよ?」

「はいはい」

「はいは1(かい)!」

「ムカつく」

 愛梨は眉間(みけん)にシワを()せながら一善と2()で、署内(しょない)にあるコーヒーマシンの(まえ)でひと休憩(きゅうけい)をとった。

 一善はいつも(どお)りのコーヒーを()れている。ここ山手(やまて)警察署(けいさつしょ)でのイチオシは(なん)といってもこのコーヒー。ベトナムコーヒーだ。(なに)美味(おい)しいかって、普通(ふつう)のコーヒーとは全然(ぜんぜん)(ちが)う。普通(ふつう)のコーヒーは砂糖(さとう)とミルクを(この)みに()(かお)りを(たの)しむが、ベトナムコーヒーはここに練乳(れんにゅう)追加(ついか)されている。ほんのり(あま)く、(かお)りも()い。クッキーやドーナツを片手(かたて)にコーヒーと(とも)にするのが1(いちばん)幸福(こうふく)(なん)とも(しあわ)せそうな(かお)をしているのか。いま、(かがみ)(うつ)自分(じぶん)()たらきっと()ずかしくなって(あな)(かく)れたい気分(きぶん)になるだろう。そのくらい(へん)(かお)をしていた。その(かお)(よこ)()ている愛梨。少々ナルシスト要素(ようそ)のある一善を軽蔑(けいべつ)()()つめていた。そこに後藤刑事がやってくる。

「5(けん)(すべて)てに(かか)わっている人物(じんぶつ)がわかりました」

 一善がリストを()()り愛梨と(とも)()ると、1()名前(なまえ)がそこに()いてあった。後藤刑事が説明(せつめい)をする。

城木(しろき) (のぞむ)23(さい) 身長(しんちょう)173cm(センチ) 犯罪歴(はんざいれき)はありませんでしたが、軽度(けいど)発達障害(はったつしょうがい)()っており障害(しょうがい)手帳(てちょう)()っているそうです」

「こいつだ」

 一善が確信(かくしん)()たかのような、力強(ちからづよ)(こえ)(はな)した。

「でも男性(だんせい)よ?」

 愛梨が質問(しつもん)をした。

「たしかにそこなんだよな。女装癖(じょそうへき)とかあるのかも。解離性(かいりせい)同一(どういつ)性障害(せいしょうがい)とかは()ってなかったかい?」

「いえ、調(しら)べたんですがそのようなものは、ちなみに、解離性(かいりせい)(なん)とかとは一体(いったい)(なん)ですか?」

簡単(かんたん)にいえば多重人格(たじゅうじんかく)よ」

「そういうこと。(むかし)いたビリー・ミリガンという(おとこ)は24の人格(じんかく)()っていて クリスティンというイギリス(じん)少女(しょうじょ)やアダラナ。エイプリルなど。(おとこ)でも多重人格(たじゅうじんかく)なら(おんな)にでもなれるってことさ」

「なるほど、そんなものがあったとは、」

 後藤刑事が一善の(はな)しに感心(かんしん)をした。

「でも多重人格(たじゅうじんかく)女装癖(じょうそうへき)はまた(べつ)じゃない?」

 愛梨が一善に()う。

「あーそっか、たしかにな、」

 2()(あたま)(かか)える。

「まぁ()ってみるしかないさ」


 3(にん)が城木 望の(いえ)()かう準備(じゅんび)をしている(なか)、城木は外出(がいしゅつ)支度(したく)をしていた。

(かあ)さん、今日(きょう)もまた手紙(てがみ)をもらったよ。磯山 せなちゃんていってね、とても可愛(かわ)()だったよ。このあと()いに()こうと(おも)ってね。(ぼく)もモテモテだよ」

「その(まえ)にあの()はどうするのよ」

「あの()?」

「ほら、今日(きょう)あなたを()てクスクスと(わら)っていた()たちよ」

「ああ、あの()たちか、あれは多分(たぶん)勘違(かんちが)いだよ」

「いいえ、あなたをバカにしてたわ。バカにする()(ゆる)せないわよ」

(かあ)さん(ちが)うよ、もしかしたら被害(ひがい)妄想(もうそう)なだけかもしれないよ」

「いいえ、あれは絶対(ぜったい)悪口(わるぐち)だったわ、うちの大事(だいじ)息子(むすこ)傷付(きずつ)ける(ひと)絶対(ぜったい)(ゆる)さない」

 ナイフを片手(かたて)(いえ)()()ってしまった。

 ()かった(さき)本牧(ほんもく)山頂公園(さんちょうこうえん)。ここはよくドッグランとして使(つか)われていて普段(ふだん)(ひと)(おお)くいるのだが、現在(げんざい)時刻(じこく)(よる)21()(あた)りは森林(しんりん)(かこ)まれていて(あさ)昼間(ひるま)とは(ちが)人気(ひとけ)(まった)くない。その()わり学生(がくせい)たちやカップルが何人(なんにん)かいた。そのうちの3(にん)は、夕方頃(ゆうがたごろ)、1()ブツブツと(しゃべる)る城木をあざ(わら)いながら()ていた女学生たち、「リコとほのかと(まい)」だった。(いえ)本牧(ほんもく)宮原(みやばら)(ほう)。この山頂(さんちょう)公園(こうえん)まではそんなに時間(じかん)もかからない。この3(にん)普段(ふだん)から(なか)()く、(いえ)近所(きんじょ)だったためいつも(あそ)んでいた。この()もいつも(どおり)りイオンの5(かい)にあるゲームセンターでプリクラを()って、1(かい)にあるスーパーでおやつを()い、(うら)にある山頂(さんちょう)公園(こうえん)でお(しゃべ)りをして(よる)22時頃(じごろ)帰宅(きたく)するというのが日課(にっか)だった。そこで城木が()いた。城木は女学生を()つめる。城木は女性(じょせい)大好(だいす)き。だが、どうコミユニケーションをとればいいのか()からない。(なに)かミスをしでかしたら彼女(かのじょ)らはすぐに悪口(わるぐち)()う。城木は女性(じょせい)(こわ)かった。そして(にく)かった。それを城木の母親(ははおや)(ゆる)さなかった。女性(じょせい)(まったく)(ちか)づかせなかった。いつも(どおり)りお(しゃべ)りをする女学生たち。外灯(がいとう)(した)()つめる城木。

「ねぇ、アレ()て、」

(なに)アレ?」

「なんかこっち()てない?」

「ねえやばいんだけど!」

「ウケる」

「え?(こわ)くない?」

「なんかヤバそうだね」

「ちょっと(はな)れようよ」

 そうこう()っているうちに城木は(もう)ダッシュで女学生たちの(ほう)()()せてきた。

「ねえ!ヤバいって!」

 女学生たちは悲鳴(ひめい)()げて(はし)った。途中(とちゅう)でリコがパニックをおこし(こし)()かした。突然(とつぜん)恐怖(きょうふ)()てなかった。呼吸(こきゅう)(あら)い。ハア、ハア、

「ちょっとリコ!(はや)()げるよ!」

「ハア、ハア、ハア」

 (こえ)(まった)()こえてなかった。

 もう1()のほのかは(すで)()げていた。ほのかは中学(ちゅうがく)高校(こうこう)では陸上部(りくじょうぶ)だったので(はし)るのには自信(じしん)があった。だが、恐怖(きょうふ)()じっていると(おも)うように(はし)れない。(あし)(おも)く、体力(たいりょく)(つづ)かない。途中(とちゅう)(ころ)んでしまった。

「ねえ、なんでよ!」

 (あし)(おも)いっきり(たた)くが(あし)(まった)()うことをきかない。

 そのうちもう1()が、(まい)がこちらへ()げてきた。

「ハア、ハア」

「ねえリコは?」

「、わからない」

 2()(うし)ろから悲鳴(ひめい)()こえた。

(はや)()こ!」

「もうダメ、」

(なに)()ってるの!?」

(あし)(うご)かない、」

 ほのかも()()がれなくなっていた。人間(にんげん)とは(もろ)いものだ。いくら体力(たいりょく)があろうとも精神面(せいしんめん)がダメになればもうそこまで。(なに)もできやしない。本能(ほんのう)(からだ)硬直(こうちょく)しだしたのだ。

 そこに城木が(あらわ)れた。()()はカツラを(かぶ)っており長髪(ちょうはつ)(かお)化粧(けしょう)をしている。スカートを()いて()のついたナイフを片手(かたて)(いき)(あら)くした。だがこの(とき)ほのかと舞には城木だと認識(にんしき)はできなかった。

「ねえ、なんで(わたし)たちを(ねら)うの、」

 (ふる)えた(こえ)でほのかが(かた)りかける。()げきれず、恐怖(きょうふ)(からだ)硬直(こうちょく)してしまった(なか)人間(にんげん)最後(さいご)にとる行動(こうどう)といえば攻撃(こうげき)だ。(すわ)りこんでいる2()本能(ほんのう)()覚悟(かくご)していた。(あたま)には本能的(ほんのうてき)反撃(はんげき)(かんが)えしかなかった。そこまで精神(せいしん)()()められていた。2()()つきが()わる。ほのかが城木に(なぐ)りかかった。が、(むな)しく首元(くびもと)にナイフを()()され、頸動脈(けいどうみゃく)()られ(たお)()む。(のこ)った舞は放心(ほうしん)状態(じょうたい)になってしまった。瞳孔(どうこう)(ひら)き、もう(なみだ)もでるまい。

「よくも息子(むすこ)をバカにしたわね」

 (おお)きな()(くび)()めた。(もだ)える舞。元々呼吸(こきゅう)(あら)く、酸素(さんそ)充分(じゅうぶん)()っていないせいか、すぐに失神(しっしん)してしまった。城木がナイフを(にぎ)()めた。そのあと、失神(しっしん)した舞の腹部(ふくぶ)滅多刺(めったざ)しにした。何回(なんかい)も。何回(なんかい)も。()せるだけ()した。()()びとても(あたた)かった。興奮(こうふん)した。達成感(たっせいかん)があった。もはや(にく)しみは()えた。

 これで安心(あんしん)。しかし、一息(ひといき)つく(まえ)にパトカーのサイレンが()こえた。

 その()から()()る。

「ママ、(まも)ってくれてありがとう」

「いいのよ。(わたし)はあなたのためなら(なん)だってできるから」



 一方(いっぽう)その(ころ)、一善と愛梨、後藤刑事3(にん)は城木の(いえ)訪問(ほうもん)しに()っていた。

「コンコンッ」

 返事(へんじ)がない。

居留守(いるす)か?」

「後藤刑事裏へ(まわ)って」

 愛梨が(ちい)さな(こえ)で後藤刑事に指示(しじ)()した。それに後藤刑事は()()(こた)えた。拳銃(けんじゅう)(かま)え、緊張(きんちょう)空気(くうき)(はし)る。

「城木さん、山手(やまて)警察(けいさつ)です。()けてください」

「・・・」

 返事(へんじ)がない。

「ダメね。()ちましょ」

 愛梨が拳銃(けんじゅう)仕舞(しま)おうとすると、

「しっ!」

「どうしたの?」

(なに)()こえた?」

「え?(なに)()こえなかったよ」

「いーやいま銃声(じゅうせい)がしたね」

(なに)()ってるの?」

 一善がまた(へん)(こと)()()した。

()てて」

 ドーンッ!! 一善がドアを()(やぶ)った。

「さっ (はい)ろ」

 愛梨がなぜかニヤニヤしていた。(なに)面白(おもしろ)いことがあったのか、それとも(あき)れて(わら)っているのか。すると(おと)にびっくりした後藤刑事が(うら)から玄関(げんかん)(もど)ってきた。

(なん)(おと)です?」

 ()うや(いな)や、後藤刑事はその光景(こうけい)をみて(おどろ)いた。

(かれ)、こういうところ最高(さいこう)なのよ」

 愛梨が(めずら)しくノってきたのだ。

「あの(ひと)ねたまには(おも)()りのある1(めん)()せてくれるの」

 愛梨も(いえ)(はい)って()く。後藤刑事は呆気(あっけ)にとられながら(いえ)(なか)の へ()んだ。

「クリア!」

 一善が()う。

「こちらもクリア」

 (つづ)いて愛梨が。

「クリアです!」

 最後(さいご)に後藤刑事が()った。あともう1つ(かぎ)のかかった部屋(へや)があった。

「これはどうする?」

()けるっしょ」

()って!」

 一善がまたもや(とびら)蹴破(けやぶ)ろうとしたところに愛梨が()めた。

(わたし)にやらせて」

「・・・どうぞ」

 愛梨は(かま)えた。(うし)ろで一善と後藤刑事は(おとこ)同士(どうし)見合(みあ)って(かた)をすくめた。

 ドーンッ!! (とびら)(たお)部屋(へや)様子(ようす)()えた。だが、そこには異様(いよう)光景(こうけい)()えた。ベッドの(うえ)には死体(したい)があったのだ。ちゃんと首元(くびもと)まで毛布(もうふ)()けていて、大事(だいじ)保管(ほかん)されている。ネックレスや(ふく)まで()せてあった。(にお)いは(まった)くしない。防臭剤(ぼうしゅうざい)をかけているのであろう。部屋(へや)のカーテンはちゃんと()めていて観葉(かんよう)植物(しょくぶつ)()いてあり、(まど)戸締(とじま)りもしっかりしている。ベッドの(となり)には綺麗(きれい)整頓(せいとん)された本棚(ほんだな)があり、その(うえ)(みず)(はい)ったコップが()いてあった。

「ねえ()て」

 愛梨が本棚(ほんだな)(ゆび)()した。そこには手紙(てがみ)()いてあった。一善が()()る。

「ラブレターか」

全部(ぜんぶ)城木 望宛ね」

 愛梨も手紙(てがみ)()()った。(ふう)()(なか)(はい)っている手紙(てがみ)()()した。

「ねえ一善、これって」

「ああ、このさゆりって()昨夜(さくや)被害者(ひがいしゃ)だ」

「こっちのみずきって()もそうよ」

「てことは、これ全部(ぜんぶ)被害者(ひがいしゃ)?」

 本棚(ほんだな)にあった手紙(てがみ)全部(ぜんぶ)で6(まい)

「そうね、でも1(まい)(おと)くない?この磯山せなって()はまだ遺体(いたい)発見(はっけん)されてないはず」

「いや、()つかってないんじゃない。これからだよ」

 2()手紙(てがみ)()にしている(あいだ)(うし)ろでは、後藤刑事がその()(くち)()けたまま仁王立(におうだ)ちでいた。遺体(いたい)(やま)ほど()てきたが、そのまま保管(ほかん)して さも()きているかのような遺体(いたい)(あつか)いに理解(りかい)ができなかったのだろう。

 ここで後藤刑事の携帯(けいたい)がなる。一善と愛梨はその(おと)()(かえ)り、後藤刑事はここでハッ!と(われ)(かえ)った。

「後藤です、」

 このタイミングでの連絡(れんらく)(なに)かいやな予感(よかん)が、そんな不安(ふあん)がその()空気(くうき)(おお)()んだ。

 後藤刑事が(おどろ)いた表情(ひょうじょう)でこちらを()つめる。

(あら)たな被害者(ひがいしゃ)です」

 一善、愛梨は「まさか」と()いたげな(かお)をしていた。


 ー17分後(ふんご)

 本牧(ほんもく)山頂(さんちょう)公園(こうえん)にたどり()いた一善、愛梨は現場(げんば)での調査(ちょうさ)(はじ)める。後藤刑事は一善の指示(しじ)のもと、城木の(いえ)にいた遺体(いたい)検視(けんし)にまわし、城木の家宅捜索(かたくそうさく)(おこな)っていた。

 現場(げんば)で3(にん)遺体(いたい)()つめる一善。城木の犯行(はんこう)であろうと(おも)われるのだが、(いま)までとは(ちが)何点(なんてん)不審(ふしん)なところがあった。

「スタンガンではなく鈍器(とんき)使(つか)ってるわね」

「しかも刺創(しそう)(ふか)い」

殺意(さつい)(つよ)いから多分(たぶん)(いか)りね」

「9(かい)って数字(すうじ)無視(むし)されて、21(かい)()してるらしい」

風船(ふうせん)もないし、どういうこと?」

「・・・」

 これには一善も(あたま)(なや)ませた。

「パターンも(くず)れてるし別人(べつじん)なんじゃないの?」

 愛梨が()う。

「いや、憎悪(ぞうお)犯罪(はんざい)なら知人(ちじん)(おお)いし 城木の(せん)はまだ()い。しかも(いま)までは自責(じせき)(ねん)()内向型(ないこうがた)だったのに

 これはタイプが(ちが)う」

「じゃあやっぱり、」

二重人格(にじゅうじんかく)だな」

「え?二重人格(にじゅうじんかく)?」

 ここで一善が1()警察官(けいさつかん)()んだ。

被害者(ひがいしゃ)たちの名前(なまえ)は?」

若山(わかやま) リコ 佐藤(さとう)ほのか 伊藤(いとう) (まい) (みな)20歳のエンジェル女学院(じょがくいん)大学(だいがく)生徒(せいと)です」

「あれ?磯山せなって()は?」

「いえ、そのような()はいませんでしたが」

 一善は愛梨の(ほう)()つめる。

「あの()(あぶ)ない」

 愛梨もわかったようで、()(いろ)()わった。

「愛梨行こう」

 一善と愛梨は(いそ)いでパトカーの(ほう)()かい、すぐに後藤刑事へ連絡(れんらく)をした。

「あ、もしもし、一善さんですか、ちょうど()かった。今遺体(いまいたい)身元(みもと)確認(かくにん)されたところです」

(なに)がわかった!?」

「はい、それが、あの遺体(いたい)は城木望の母親(ははおや)だったことがわかりました」

(なに)!?」

 声を裏返(うらがえ)しながら一善は(くるま)急発進(きゅうはっしん)させた。

母親(ははおや)遺体(いたい)枕元(まくらもと)日記(にっき)があったんですが、それを()むと城木 望 本人(ほんにん)母親(ははおや)殺害(さつがい)したようで」

「ほかには?」

「はい、3年前(ねんまえ)母親(ははおや)愛人(あいじん)(つく)っていたそうで 「(ぼく)見捨(みす)てられた」と()いてあります」

「なるほど、そういうことか」

「ほかにも・・・」

「いや、日記(にっき)はあとで()せてくれ。その(まえ)に磯山せなっていう()住所(じゅうしょ)(いそ)いで(おく)ってほしい」

「わかりました」

 ここで通話(つうわ)()わった。

(なに)かわかったの?」

遺体(いたい)は城木の母親(ははおや)だった」

 愛梨は(おどろ)いた表情(ひょうじょう)()せた。

日記(にっき)には母親(ははおや)愛人(あいじん)(つく)り、自分(じぶん)見捨(みす)てられたと(かん)じて」

(ころ)した」

「その(とお)り。マザコンだな」

 ここで愛梨はため(いき)をついた。

「おそろしいわね」

多分(たぶん)城木のもう1()人格(じんかく)母親(ははおや)だろう」

「だから女装(じょそう)を・・・」

目撃(もくげき)証言(しょうげん)女性(じょせい)だってのも説明(せつめい)がつくね」

 ここで一善の携帯(けいたい)()る。後藤刑事からメールが(とど)いた。運転(うんてん)をしながら確認(かくにん)をする。

本牧町(ほんもくちょう)1丁目(いっちょうめ)だってさ」

「それって反対(はんたい)方向(ほうこう)じゃないの?」

「え?」

 目的地(もくてきち)である本牧町(ほんもくちょう)1丁目(いっちょうめ)反対(はんたい)方向(ほうこう)である根岸(ねぎし)方面(ほうめん)()かっていた愛梨を()せた一善のパトカーは(つぎ)信号(しんごう)交差点(こうさてん)でUターンをした。

()ってやりたいわ」

 愛梨が愚痴(ぐち)をこぼす。

「まあまあ文句(もんく)()うなって」

 一善は天然(てんねん)()してしまったことに()(わら)いをしながらパトカーを(はし)らせる。


 その(ころ)磯山せなの携帯(けいたい)に1(つう)電話(でんわ)(はい)った。

電話(でんわ)くれたんですね!」

「ぼくだよ、(いま)から()えない?」

「え、(いま)からですか?・・・」

「うん、(いま)()いたい」

「わかりました、ちょっと()っててくださいね」

「ぼくはもう(した)にいるよ」

「え?」

 ここで通話(つうわ)()れた。不審(ふしん)には(おも)ったものの()きな(ひと)自分(じぶん)()いに()てくれたと(おも)うと(うれ)しくなり、簡単(かんたん)身支度(みじたく)をして(いえ)()()った。玄関(げんかん)(とびら)(しず)かに()け、そしてゆっくりと()じた。

「やあ、」

 突然(とつぜん)背後(はいご)からの(こえ)にびっくりして(こえ)()なかった。そのあと城木の姿(すがた)確認(かくにん)した磯山は(ちい)さな(こえ)(しゃべ)りだした。

「びっくりした、(おど)かさないでくださいよ、」

「ごめんね。でも(はや)()かないと」

()くって?」

「ママが()ってくるよ」

「え、いや、ウチの家族(かぞく)はもう()てるし、」

(ちが)うよ。ぼくのママだよ」

「え、?」

「さあ(はや)く!」

「あの、そこに()がついてますけど、どうしたんですか、?」

()にしないで」

城木はこの(とき)私服(しふく)着替(きが)えていた。いつもの(よう)にネイビーのYシャツに(くろ)いズボン、腕時計(うでどけい)をしており (なに)もおかしな格好(かっこう)はしていなかった。だが、それが裏目(うらめ)()余計(よけい)目立(めだ)ったのであろう。()には()がこびりついており、(あら)っても(あら)っても()ちない。それを(かく)すように(そで)()(こう)まで()げていた。いわゆる"()(そで)"というやつだ。(かく)そうにも(かく)しきれず、()不自然(ふしぜん)(うご)きになり、余計(よけい)目線(めせん)注目(ちゅうもく)()びた。()()不審(ふしん)(おも)った磯山は()危険(きけん)(かん)じて後退(あとずさり)りした。

「あ、あの、やっぱり(かえ)(こと)にしますね、ほ、ほら、お(かあ)さんに()つかったら(こわ)いし、また今度(こんど)にしましょう」

「・・・」

「ねっ?今日(きょう)はもう(おそ)いし、」

「・・・」

城木は(だま)()んでいる。

「じ、じゃあね、」

 磯山が玄関(げんかん)(とびら)()けようとした瞬間(しゅんかん)、城木が(うで)(つか)んだ。

「ねぇやめてよ、ねえ(はな)して!」

 (うで)()(はら)おうとしたが、力強(ちからづよ)(おお)きな()で磯山の(しろ)(ほそ)(うで)(にぎ)()めて(くるま)無理(むり)やり()()んだ。誘拐(ゆうかい)目撃(もくげき)した近隣(きんりん)住人(じゅうにん)警察(けいさつ)通報(つうほう)しているのと同時(どうじ)に、(そと)騒音(そうおん)()()めた磯山の両親(りょうしん)玄関(げんかん)(とびら)()けた。

「パパ、ママ!」

 城木の(くるま)後部(こうぶ)座席(ざせき)から磯山 せなが必死(ひっし)(まど)(たたき)き、こちらへ(たす)けを(もと)めている。

「せな!」

 父親(ちちおや)大声(おおごえ)()し、母親(ははおや)(うし)ろで絶句(ぜっく)していた。()(まえ)(むすめ)拉致(らち)されたと理解(りかい)した父親(ちちおや)(はし)()して()(むすめ)(もと)()()ったが、サイドミラーで()ていた城木は(あせ)り、(いそ)いで(くるま)発進(はっしん)させた。

「せな!!」

 父親(ちちおや)(あと)()いかけるが()いつかない。するとすぐ(うし)ろでパトカーのサイレンが()(ひび)いた。磯山家へ()まる一善たち。

(むすめ)拉致(らち)された!(はや)()って!」

「どちらです?」

()こうです!」

 父親(ちちおや)(ゆび)()(ほう)急発進(きゅうはっしん)させた。城木の(くるま)はそのまま大通(おおどお)りへ()根岸(ねぎし)方面(ほうめん)(むか)かった。

 (よる)22時27(ふん)住宅街(じゅうたくがい)(なか) サイレンの(おと)()(ひび)く。

 パトカーが()せる緊急(きんきゅう)走行時(そうこうじ)のスピード制限(せいげん)は、一般道(いっぱんどう)または、片側(かたがわ)1車線(しゃせん)高速道路(こうそくどうろ)場合(ばあい)80km/h。

 だが、そんな(こと)は一善も無視(むし)して最高(さいこう)速度(そくど)180km/hに(ちか)いスピードを()し、車間(しゃかん)距離(きょり)を段々と()めて()く。一方(いっぽう)、城木が()乗用車(じょうようしゃ)最高速度(さいこうそくど)100km/h出()せるが、次第(しだい)(うし)ろにいる一善、愛梨に()いつかれてしまう。

「城木くん、城木くんその(くるま)()めたまえ。さもなくば、」

 運転(うんてん)をしながらまた、一善は(わる)ふざけをしだした。こんな緊急時(きんきゅうじ)にマイクパフォーマンスをしている(ひま)があるのかと(いか)(ひま)もない愛梨は、一善の(あたま)(たた)いた。

()して!」

 拡声器(かくせいき)を一善から(うば)()った。

「城木 望 もう()げられないわ (くるま)停止(ていし)しなさい」

 愛梨が拡声器(かくせいき)()びかける。

「もう1()()うわ (いま)すぐ(くるま)()めなさい」

()まらないね」

「ダメね」

()いつかれてしまった(こと)(あせ)りを()せる城木。バックミラーに何回(なんかい)何回(なんかい)()をやり、(くち)半開(はんびら)きになって(ひたい)には(あせ)()らしている。呼吸(こきゅう)(あら)くなってきた。車内(しゃない)には城木の呼吸音(こきゅうおん)()こえる。さっきまで(さけ)んでいた磯山は(うし)ろにいる(たす)(ぶね)希望(きぼう)()せて(しず)かにしている。

ここで城木がバックミラー()しに磯山に目線(めせん)(うつ)し、(はな)しかけた。

「あなたは(だれ)にも(たす)けられないわ」

(おどろ)いた表情(ひょうじょう)()せた磯山はこちらを()つめていた。理由(りゆう)は、(こえ)(ちが)っていたからだ。先程(さきほど)まで(しゃべって)っていた人物(じんぶつ)とは(あき)らかに(こえ)(ちが)う。口調(くちょう)(ちが)う。表情(ひょうじょう)(ちが)っていた。

「あなた、だれ、?」

磯山が(ちい)さな(こえ)質問(しつもん)をする。すると、城木がゆっくりこちらへ()(かえ)(なに)()()した。

「ごめんね、」

また(こえ)(ちが)う。(いま)はあの(とき)の城木 望だ。()きだった(ころ)人物(じんぶつ)だ。さっきの(おんな)口調(くちょう)人物(じんぶつ)ではない。本能的(ほんのうてき)には()かっていたものの、状況(じょうきょう)(あたま)がついてこない。もう1つ磯山を混乱(こんらん)させた理由(りゆう)がある。

「ごめんね、」のあまりの不意(ふい)一言(ひとこと)言葉(ことば)()なかった。(なに)をごめんねと(あやま)っているのだろうか。(わたし)がなぜこんな(こと)になっているのだろうか。(かんが)えれば(かんが)える(ほど)わかからなくなってくる。と、ともに(はら)()ってきた。無性(むしょう)に。

ここで磯山が反撃(はんげき)()る。城木の(かみ)()(おも)()()()った。

「うわっ!」

城木が(あわ)てた様子(ようす)でハンドルが()(うご)き、(くるま)不安定(ふあんてい)走行(そうこう)をみせた。それを()た一善と愛梨は(すこ)車間距離(しゃかんきょり)()いた。

「あれ?どうした?」

不自然(ふしぜん)(おも)った一善が(つぶや)いた。

(なに)かあったのかも」

愛梨も(おどろ)いた表情(ひょうじょう)()せていた。

(あば)れてるんだ」

事故(じこ)()こしたらあの()(あぶ)ないわ」

(たの)むから(あば)れないでくれ」

()こえるはずもない(しず)かな一善の(ねが)いは、城木の車内(しゃない)では騒々しい(おと)にかき()されてしまった。

「なんで(わたし)がこんな(おも)いをしなきゃなんないのよ、!」

()(なみだ)()かべながら必死(ひっし)反撃(はんげき)をする磯山。両手(りょうて)交互(こうご)に城木の(あたま)(たた)き、感情(かんじょう)のままに(うった)える。

だが、城木は(なに)抵抗(ていこう)はしなかった。ただ(まえ)()いている。なんとも(かな)しい(かお)をしていた。彼女(かのじょ)同情(どうじょう)していた。


(わめ)(つか)れたのか、磯山が反撃(はんげき)をやめてしまった。椅子(いす)(こし)をかける。そこで城木がまたゆっくりと(うし)ろへ()(かえ)った。

「ごめんね、」

「ねぇ、なんで(あやま)るの、(あやま)るのやめてくれない?うざいから」

「ごめんね、」

「だから!」

(いきどお)りで無意識(むいしき)(こし)()がった。そこである(もの)()(うつ)る。助手席(じょしゅせき)には()まみれのスカートにカツラ、ナイフがあり、ナイフには(なが)(かみ)()()いていた。

「キャーッ」

(おも)わず悲鳴(ひめい)()げてしまった。その(こえ)()いた一善、愛梨は2()(かお)()わせパトカーのスピードを最大速度(さいだいそくど)まで()げた。

「ヤバいぞ」

一瞬(いっしゅん)にして城木との(くるま)(なら)び、窓越(まどご)しに一善、愛梨は城木と()()う。しかし、一善と愛梨はここである光景(こうけい)()にする。

城木が(なみだ)()かべていたのだ。

先程(さきほど)、磯山にやられたからではない。

(なに)かを(うった)えかける()をしていた。いや、(なに)かを決意(けつ)した(かお)だった。

「まさか」

一善が(つぶ)いた。

(ぼく)だって色々(つら)かった、」

城木が(しず)かに(しゃべ)る。

「ごめんね、せなちゃん。(あぶ)ないから()(まる)くして(あたま)(まも)って」

車内(しゃない)(ただよ)雰囲気(ふいんき)に、磯山は正直(しょうじき)(したが)った。これから(なに)()こるのかわかっていたのだろう。

 突然(とつぜん)城木がハンドルをきった。磯山 せなを()せた(くるま)(おお)きく(みち)(はず)れそのまま()()()んでしまった。

一善たちはパトカーを急停止(きゅうていし)させた。前面(ぜんめん)大破(たいは)してしまった城木の(くるま)()(あし)(ちか)づく一善。ドアを()け、城木へ(こえ)をかけた。

「おい!大丈夫(だいじょうぶ)か!」

車内(しゃない)にはシートベルトの補助(ほじょ)装置(そうち)であるエアバッグに(たお)()む城木の姿(すがた)

「愛梨!(うし)ろの()(たの)む!」

愛梨は(うし)ろのドアを()け、()をかがめて()いている磯山を(なぐさ)め、ゆっくりと()きかかえた。一善は(いそ)いで救護班(きゅうごはん)要請(ようせい)していた。

「おい!大丈夫(だいじょうぶ)か!返事(へんじ)しろ!」

 (ふたた)び城木へ(こえ)をかけるが、返事(へんじ)がない。



このあと、およそ10分程(ぷんほど)救急車(きゅうきゅうしゃ)消防車(しょうぼうしゃ)、パトカーが夜中(よなか)(しず)かな街中(まちなか)で、サイレンを()らし現場(げんば)到着(とうちゃく)した。




 ー(よる)22()53(ぷん)事件解決(じけんかいけつ)




 「さあ、まだまだやることがあるぞ」

一善は(おお)きく背伸(せの)びをして(おお)きなあくびをかいた。

「一善コーヒーお(ねが)い」

「あ、(わたし)もお(ねが)いします」

「あいよ」

一善は愛梨と後藤刑事、そして自分(じぶん)へコーヒーをついだ。

「一善刑部」

ここで1()警察官(けいさつかん)がきた。

「そろそろお(ねが)いします」

「もうそんな時間(じかん)か」

()調(しら)べの時間(じかん)だ。最後(さいご)(のこ)った(おお)きな(もの)だった。これが()わればあとはゆっくりできる。

「ちゃっちゃと()わらせますか」

面倒(めんど)くさそうにユラユラと(ある)く一善の(うし)ろで、コーヒーを片手(かたて)に愛梨と後藤刑事も(ある)()す。


ここである医者(いしゃ)()調(しら)(しつ)(とびら)(まえ)()っていた。

精神科医(せいしんかい)田代(たしろ)です」

「はじめまして。一善です」

一善が握手(あくしゅ)()わした相手(あい)は、()()はハゲていて、頭皮(とうひ)にはそばかすが、(はな)がデカく (ふち)のない眼鏡(めがね)白髪(しらが)(ひげ)。まあ、いかにも「Dr.」といった(かん)じの人物(じんぶつ)だった。

「さあ、はじめますか」

一善と医者(いしゃ)田代(たしろ)(とびら)()け、()調(しら)(しつ)(はい)っていった。

愛梨と後藤刑事は、マジックミラーで()調(しら)内容(ないよう)をモニタリングしながらコーヒーを()んでいた。

「城木、全部(ぜんぶ)(はな)してくれないか?」

一善が(しず)かに(はな)()す。

「・・・」

(ちから)になりたいんだ」

あの(とき)(なみだ)()ていた一善は、(すこ)同情(どうじょう)していたのだろう。(なに)自分(じぶん)(ちから)になれることはないか、それも(ふく)めて今回(こんかい)医者(いしゃ)()んでいた。

「ぼくは、(ころ)してないんだ、」

城木が(はな)()した。

「わかっている、」

「・・・」

ドンッ!

城木が(つくえ)()り、(あき)らかに動揺(どうよう)していた。

「なんでぼくは()んでないの?」

(きみ)(たす)かったんだ」

「・・・」

「あの(とき)(きみ)()()てわかったんだ。()にたかったんだろう。

でも、(きみ)(うん)がいい」

「・・・」

城木は(した)()き、右手(みぎて)()んでいた。

「タバコは()うかい?」

「・・・いらないわよ」

一善が(むね)ポケットからhi-lite(ハイライト)()()すのと同時(どうじ)に、(こえ)変化(へんか)()づいて(となり)医者(いしゃ)()()わせる。

「一善さん、ここからは(わたし)が、」

医者(いしゃ)田代(たしろ)遠回(とおまわ)しに(せき)(はず)様頼(ようたの)んだ。

「・・・わかったよ」

一善はゆっくりと()()がった。

「タバコ()ってくる、」

(とびら)から()()(さい)一言(ひとこと)そう()げていった。

一休(ひとやす)みするかあ」

また、(おお)きく()()びとした。



翌朝(よくあさ)

一善と愛梨、後藤の3(にん)山手(やまて)警察署(けいさつしょ)(ちか)くにあるモスバーガーで(あさ)食事(しょくじ)(たの)しんでいた。

「はあ~ぁ」

(おお)きなあくびをする一善を、愛梨はコーヒーを()みながら()ていた。

呑気(のんき)でいいわね」

愛梨の()(こと)に、(ねむ)たそうに目元(めもと)がおぼつかない様子(ようす)でタバコに()をつけて()いている一善。

「それで、お医者(いしゃ)(さま)はなんて?」

「ちょっと()って、」

カバンの(なか)から(なに)かを(さが)()す愛梨。

(わたし)ちゃんとメモに()ってあったから」

カバンのポケットからメモ(ちょう)()()して、ページを(めく)()す。

医者(いしゃ)によると二重人格(にじゅうじんかく)だったみたい」

「やっぱりね」

()(つむ)り、満足気(まんぞくげ)(かお)でタバコを(ふか)す一善。

「それと医者(いしゃ)も城木 望の日記(にっき)()たみたいで、要約(ようやく)すると、

父親(ちちおや)()まれる(まえ)にすでに死亡(しぼう)しており、母親(ははおや)と2()だけの世界(せかい)()らしてきたが、3年前(ねんまえ)母親(ははおや)愛人(あいじん)(つく)り城木 望は自分(じぶん)見捨(みす)てられたと(おも)い、母親(ははおや)とその愛人(あいじん)殺害(さつがい)してしまった。それ以来(いらい) (こころ)(なか)半分(はんぶん)(かれ)母親(ははおや)()められ、自分自身(じぶんじしん)母親(ははおや)の2()人格(じんかく)形成(けいせい)されたのである。そこで、息子(むすこ)女性(じょせい)から(とお)ざけようとする母親(ははおや)人格(じんかく)が次々と殺害(さつがい)(おこな)ってしまった。

こんな(かん)じね」

「なるほどね」

教育(きょういく)大切(たいせつ)だと()()みました」

「それもあるけど、心理的(しんりてき) 社会的(しゃかいてき)要因(よういん)影響(えいきょう)するよ」

後藤刑事の(ひと)(ごと)反応(はんのう)する一善。

「城木 望も可哀想(かわいそう)だよな。()きな(ひと)みんな母親(ははおや)(ころ)されちゃったし」

()きな(ひと)?」

「うん。城木は恋愛経験(れんあいけいけん)(すく)なかったからね、ラブレターをくれた(おんな)()たちに(こい)をしてたみたいだよ。日記(にっき)()てもそうだけど、緑色(みどりいろ)風船(ふうせん)も"成長(せいちょう)再生(さいせい)"。自責の念も含めた意味だったね」

「なんであなたにそんな(こと)がわかるのよ」

「うん?だってこれに()いてあるじゃん」

 ここで一善が(ほん)()()した。

(なに)それ?」

 愛梨が質問(しつもん)をする。

「それって」

 3(にん)(せき)()(なか)にいた後藤刑事はその(ほん)()(おどろ)いた。

「ん?これ?日記帳(にっきちょう)ー」

「あなた()ってきたの?」

「これ面白(おもしろ)いからね。()ってきちゃったよ」

 愛梨が(けわ)しい表情(ひょうじょう)をしている。それを()た一善はゆっくりと(せき)()(はじ)めた。

「ちょっとそれ証拠品(しょうこひん)でしょ!」

 ハンバーガーを(つつむ)むビニール(せい)(まる)めた(もの)を一善に()げつける。

()(おわ)わったら(かえ)すね!」

 小走(こばし)りをしながら(みせ)()()く一善。それを()う愛梨。

 ニヤニヤと()みを()かべている後藤刑事。ここである(こと)()がつく。

「これ、(わたし)(おご)りですか、」

 レシートを片手(かたて)にコーヒーをすする。なんとも(かな)しい(かお)をしていた。


ーENDー


ー チェリー・ボウイー












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