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第8話「モンスターと妖精ちゃん」


陽が沈む頃、時間帯にして午後18:08分。

錠と愛は自室にあった所有物をできるだけリュック・カバンに詰め込み、

この広大な学園領敷地外目指して歩みを進めていた。

目的地は甲子園という名、この世界でいう「交死園こうしえん」。

ある意味で、この呪縛から逃れる光を目指し始めたと言って良いのにも関わらず、

特に吉田愛はさきほどからため息しかつかない。


「はぁ。

 本当はイケメンに囲まれた学園生活を送ってたハズなのに、

 何でゲリラみたいな事しなきゃいけないのよ」


「ずべこべ言うな。

 俺だって華やかな無双生活を満喫してたハズなんだ」


愚痴をこばさないと歩いてすらいられないとばかりに、

愛はマシンガンのように不平不満を垂れ流す。

我関せずと錠はこの学園領地を抜けた先の確認として、リュックに閉まった地図を探し始める。

愛は、そのリュックの隙間から何か薄い布切れが落下するのを目撃した。


「ちょっと山田。

 何であんた水着なんて持ってきてんのよ」


「当たり前だろ。

 異世界ハーレムものは、突如水着回がやってくるんだからよ」


「キモッ!

 命令するわ、私の半径5km以内で息をしないで」


「仕方ねぇだろ!

 異世界ものってのは、人命よりも水着回が優先されてんだよ!」


顔を赤らませながら、母親に成年雑誌を見られた少年の如く、見苦しく水着を拾い上げる。

さきほどより愛が気持ち数メートルほど自分から距離を離して歩くのが

どうにも気に食わないが、錠は愚痴をこぼしながら歩き進めるのであった。

まさにその次の瞬間であった。

愛が急に立ち止まったかと思うと、一点を指差し声を上げる。


「ちょ、ちょっと。

 何よアレ!」


「えっ!

 もう水着ギャルか!?」


愛を押しのけて、現場に突入する錠。それは猪も顔負けのパワー・スピード。

だがどうにも不思議なのだ。自分の視界には水着ギャルもいなければ、そもそも人間も映らない。

いや、正しくは錠の目線では。

錠も何か違和感を感じ、目線をゆっくり下げる。

そこにはつたに絡まって藻掻もがいている『何か』がいた。


「・・・よ、妖精・・・?」


それから錠と愛の二人は一度足を止め、この羽の生えた手の大きさ程度の生き物を調べることにした。

蔦から解放してやると、うれしそうに空中を2回転、3回転させる。

外見は人間そのもの、年齢で言うなら小学生くらいの年頃に見える。

誰が言うまでもなく、これぞ『妖精』の姿形。

その妖精もようやく興奮が収まったか、空中を旋回し、二人の目の前で器用に停止する。


「助けてくれて、どーもありがとうございますっ!

 二人はママかパパの友達ですか?」


「衝撃の事実だろうが、俺は妖精と友達になったことはねぇんだ。

 俺の名前は山田錠。

 んでこっちは吉田愛ことシャーペン・ゴリゴリ何とかだ」


「シャーロット!

 シャーロット・ゴールドスタインよ、この奇人っ!!」


通常の感覚であれば、『妖精』がこうして現れ、日本語を話し、

律儀に自分達へ頭を下げている光景など、信じられるハズもない。

だが、ここはまさに自分達が選び、臨んだこの異世界転生。

目の前のそれを受け入れるのは容易かった。


「可愛い妖精さん。

 お嬢ちゃんの名前は何ていうのかしら?」


「9・Rあーる・レクシィっていうの!

 歳はね、えっとね、うんとね、わくわく園のキリンさん組っ!」


「キリンさん組?園児ってことか。

 どうしてこんな所で遊んでたんだ?」


「レクシィ、お使い頼まれてたの!

 そしたらね、実はね、何とね、うーんとね・・・忘れちゃった!」


「大方迷子になって、おつかいに失敗したってとこか」


「え、おっぱい?」


「言ってねぇよ、んなこと」


胸の単語に瞳ときめかせる辺りは、まだ幼児レベルの精神と見える。

するとレクシィは何か思い出したかのように手を叩くと、

自分の懐から一枚の紙を差し出し、二人の前に広げた。


「この人、そう、この人!

 レクシィね、この紙の人を探してるの!」


「(ち、小さすぎて見えん)

 何者なんだ、そいつは」


「うん!

 伝説の魔法少女アイリスQ´!」

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