第4話「我こそハーレム大納言」
「何してるの、ハインリッヒ」
クロワッサンを皿に乗せたヴァレリーが、錠の隣に腰かけた。
食堂の片隅で、挙動不審に周りを見渡したか思えば、熱心に物書きに励む彼が気になったのである。
この声掛けがちょうど良い休憩のタイミングと思ったか、錠は一度筆を置く。
そしてまるで一仕事終えたと言わんばかりに、空に向かって両腕をぐっと伸ばした。
一つ深呼吸挟むと、満面の笑みでノートを見せつけた。
「眼鏡君、
ちょいとカンニングよ」
「カンニング?
食堂でかい」
「眼鏡君には分からんだろうよ。
この異世界のヒロイン候補をこうしてカンニングしてんだ。
顔の造形、髪の色、声質等から、ちょいと観察すれば誰がヒロイン候補かモブかは一目瞭然。
初会話前にスリーサイズを調べてこそプロ、
そこらの雑魚とは訳が違うのさ」
「(他人のフリしてれば良かった)」
この場を去りたい一心で、クロワッサンを食べる速度を加速させるヴァレリー。
そうはさせじと、錠は慣れ慣れしく肩を組み、自身のメモを自慢げに解説し始める。
そしてまさかの18人目のヒロイン候補メモを指差した所で、
急に熱と集中力が切れてしまったように錠はため息一つ、ゆっくりと天井を見上げた。
「しかし困ったもんだぜ。
校内にいるヒロイン候補はカンニングできても、
獣人美少女までは網羅できねぇんだよな」
特段、このぼそっと呟いた言葉に反応して欲しかったわけではない。
むしろ、目が虚ろになっているヴァレリーに聞こえているとも思っていまい。
それは所謂、独り言、愚痴。
だが、これが悪夢の契機。それからすぐのこと、錠は人の気配を感じた。
「困った顔して、
どうしたの子猫ちゃん?」
「俺様の前で構って欲しそうな顔してんじゃねぇか」
「どうしたのさ!
へへっ、俺がいつでも相談に乗ってあげるぜ!」
狐に摘ままれたように、二人は顔を見合わせた。
何処からともなく現れたこの男達、当然錠にとって初見の人々。
それがどうやら要約すると、錠の助けになりたいと駆け付けてきた面々らしい。
なぜ男の密度を高めねばならんのかと、錠は煩わしさを全面に押し出す。
「な、なんだお前ら。
男が寄ってたかってむさ苦しい。
眼鏡君の知り合いか?」
「う、ううん。
でもハインリッヒ、奥の方を見て。
何だか・・・バーゲンセールみたいになってるけど」
何処か畏怖の表情浮かべるヴァレリー。
その震える視線の先、そこは方角的には話しかけてきた謎の男達の背後。
思わずうっと声が漏れる。
そこには何十人もの男達が、こちらに甘い視線を向け待機しているではないか。
そんな油断をしている錠の耳元を吐息が襲い掛かる。
「ほら、どうしたの。
俺に何でも聞かせてごらん」
歯が溶けてしまいそうなほどの甘い声に、錠は全身の体毛が逆立つ。
錠は敵を威嚇する猫の如く、瞬時に背後に後退し、
ファイティングポーズを取って臨戦態勢を整えた。
「か、顔を近づけんな、気持ち悪ぃ!
(何でこんなに野郎達が大集合してんだ!?
しかもご丁寧にどいつもこいつもイケメン高身長で・・・
ん?
・・・高身長、イケメン・・・)」
『困ってるだけで長身イケメン・イケボだらけの学校でモテまくる魔法少女の力を持つ女転校生』
「(ま・・・まさかっ・・・!!!)」