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聖女になったら初恋の人と結婚できたけれど、代わりに嫌われてしまいました。   作者: 新 星緒


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第3話・兄オスヴァルトと聖女

 ふと目について、鏡の中の自分を見た。


 癖の強いダークブラウンの髪。青い瞳が浮かぶ目は切れ長で、兄曰く『理知的』らしいけど可愛げはない。唇は薄くて鼻筋はシャープすぎる。

 侍女たちは私の顔は『綺麗系』なのだと言うけれど、そういうのはアレッシオの元婚約者、カリーナ様のことだ。私は素材は悪くはないけど女性としては魅力のない顔をしている。

 その上そばかすもある。お化粧で隠しているけど、貴族としてはありえない。義母は子供のころに外でたくさん遊んだからだと言い、私のチャームポイントよと慰めてくれるけど、カリーナ様の白雪のような肌と比べると、とてもではないが長所とは思えない。

 せめて兄の十分の一でいいから、美貌があれば……。


「また自分の顔は可愛くないと落ち込んでいるのかな」

 背後から掛けられた声に振り向く。

「お兄様!」

 私室の入り口に侍女とオスヴァルトが立っていた。

「いらっしゃい。待っていたのよ」

「なかなか会いに来れなくてすまないね」

「いいえ、忙しいのに約束を守ってくれてありがとう」

「可愛いリンデのためだからね」


 私たちは部屋の中央に置かれた長椅子に向かい合って座った。


 オスヴァルトは今、本来の仕事の他に、長男相続制の撤廃に向けての活動をしている。貴族の長男たちからの反発が大きく苦労しているようだけど、代わりに次男や女性からの支持は大きい。その両者の対立を煽らないよう、オスヴァルトは平和的な解決を目指して忍耐強くがんばっているのだ。


「しかし参ったよ。どこに行っても『思い人』のことを訊かれるんだ」

 ため息交じりのオスヴァルト。

 アレッシオが根拠のない発言をしたその日の夜には、宮廷中がその噂で持ちきりになった。

「そんな相手はいないと言っても信じてくれない」

「お兄様は浮いたお話がひとつもなかったから、余計に興味が引かれるのでしょうね」

「義父上にまで『相手は誰だ』と訊かれたよ。しかも嬉しそうにね!」

 思わず吹き出してしまう。

「お父様もお兄様が結婚しないことに引け目を感じているから」

「そうなんだ」とオスヴァルトはうなずく。「ぬか喜びをさせてしまって申し訳ないよ。今の僕は恋愛なんてしている暇はないとはっきり伝えたら、がっくりしてしまってね。いっそのこと本当に好きな女性がいれば良かったよ」


 オスヴァルトは昔から異性に対して淡白なようだ。誰かに恋したとか気になるとか、そういったことがないらしい。どうやら少年のころに女性に幻滅することがあったせいのようだけど、詳しくは教えてもらっていない。

 元々結婚する気もないものだから、二十三歳だというのに妻どころか婚約者もいない。貴族の長男としては珍しいことで、だからこそ今回の噂にみな飛び付いてしまったのだ。


「さっき下でアレッシオ殿下に会ったから、抗議をしておいた」

「彼はなんて?」

「『事実を言っただけだ』と拗ねてしまわれたよ」オスヴァルトは苦笑する。「どこから聞いた事実かと問い詰めたけど、答えてくれなかったしね」

「彼は『事実』と信じているということ? それなら信頼できる方から聞いたということね」

「彼は確証のないことを軽々しく口にするような軽率な方ではないから、そうなのだろう。まったく、何が何やら」

「お兄様の活動に反対している人の陰謀……にしては地味ね」

「ああ。僕には何のダメージもない」


 うぅむとふたりで唸っていると、侍女のリリアが

「あの、お相手の女性に関しては、ひとりだけ思い当たる方が」

 と声を上げた。

「え、僕にそんな方がいる?」

 驚き目を見張るオスヴァルト。

「はい」リリアはおずおずとうなずくと私を見た。「ディートリンデ様です」


「リンデ……」

「私……」


 兄と私は絶句して、それからふたり揃って笑いだしてしまった。

「だって彼女は妹だよ!」

「リリアは面白いことを言うのね」

「ですが」と彼女は食い下がった。「ディートリンデ様はオスヴァルト様が唯一親しくしている女性で、妹とはいえ血の繋がりはありません」


 オスヴァルトと私は顔を見合わせた。血が繋がっていないことは確かだけど、それを越えた家族の繋がりが私たちにはある。だけどはたから見たら、そういう考えも生まれてしまうのだろうか。


「……だとしてもアレッシオ様は、そんな誤解はしないわ」

 今はほとんど会話のない私たちだけど、昔はたくさん話をした。彼は、私と兄のことを、ちゃんと理解してくれている。

 そもそも母と兄ができると知ってうろたえていた私を励ましてくれたのは、アレッシオだ。


「……そうでしたか。失礼しました」

 リリアは自説をあきらめたようで一礼して口を閉じた。



 オスヴァルトと私はお互いに大切な兄妹。

 だけど実を言えば、私たちは結婚する予定だった。彼が気後れなくバイルシュミット家を継げるようにとの父の配慮で、兄は私に遠慮をしていたけれど、私は彼の役に立てるなら構わないと思っていた。私は好きな人がいたけど、彼には素敵な婚約者がいたから誰と結婚しようが同じだったからだ。


 結局その話が決まったすぐあとに私は聖女になりアレッシオと結婚することになった。私たち兄妹の結婚話は誰に伝える間もなくたち消えとなり、両親以外に知る人はいない。



 あのままオスヴァルトと結婚していたら、アレッシオに嫌われることはなかっただろう。そう考えるといつも悲しくなる。


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