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7.君は男の人

ブクマありがとうございます!

引き続きよろしくお願いします!

 土曜の朝。

 もうあと数週間もすれば梅雨かなぁなんて思いながら、珍しく自分から衣替えやら夏布団の準備やらをしていると隣から騒がしい音がする。

 大概1人でいるときは物静かに生きている晴がそんな風にするのは珍しい。たぶん来客だろう。


 のんびりしているとドタドタと足音がしたと思いきや、我が家のインターホンが鳴る。

 確認するよう何度も晴から言われている。

 モニターで見ると、見覚えのある人がにこにこ笑いながら立っていた。


『オーイ、九重久しぶり! いんなら遊ぼうぜ〜!』

「……。」


 モニターに近すぎて鼻しか見えないけど、この声の主は。


「顔近すぎて見えてないよ、朝比奈。」

『お、いんじゃん! 相変わらずだなぁ!』


 離れると、全体が映った彼は無垢な笑顔で敬礼をしてみせた。そして、その背後の晴は呆れたようにため息をついていた。




 彼の名前は朝比奈涼(あさひなりょう)

 中学3年間だけであるが、同じ学校で学んだ友人だ。決して彼は勉強は得意でないが、運動は校内トップ。唯一晴に体力テストで勝ち越していた人物だ。

 今見せた笑顔の通り、正義感が強く真っ直ぐな性格で、面倒見が良く物事の芯を捉えるのが本能的に上手い。

 そんな彼は現在警察官。うん、適材適所を体現した男だ。


「2人に会いたかったんだよ〜。相変わらず一緒にいんだな。」

「オレは別に会いたくなかったけど。」

「冷たいこと言うなよ。運動で張り合った仲じゃねーか。」


 気安く肩を組みながら晴に寄りかかる。

 相変わらずパーソナルスペースが狭い。


 朝比奈はいつも晴に張り合っており、親友と豪語している。晴は否定しているけど、たぶんアレだ。似すぎて嫌だってやつ。いざって時には本当に息ぴったり。

 話さなくても通じる、以心伝心。声はしょっちゅうハモるし、体育祭の二人三脚は息が合いすぎてほぼ1人で走るのと同じ速度だった。あれは伝説だよ。

 あと好きなエピソードは、たまたま晴といる時にひったくり犯を捕まえたのがきっかけで警察を目指し始めたらしいんだけど、試験合格した時は両親や当時付き合ってた彼女を差し置いて晴に報告に来た。そのまま彼女に伝え忘れて振られたのは記憶に新しい。


「なー、今日暇?」

「暇なわけないじゃんー。」

「私は暇だよ?」

「なら晴海も暇だな?」


 晴は露骨に舌打ちをした。

 2人とも彼が何でここに来たのかは薄々分かっていたのだ。大概彼が予告なしで来る時は用件が決まっている。


「パーッと遊んでパーッと飲みに行こうぜ! な! オレがちょっと多めに出すからさ!」

「えー、面倒くさ。」

「行こうよ、晴。2人が勝負してるの見たい!」

「やだよ、オレ負けるもん。さすがに現役に勝てるわけないじゃん。」


 中学の時もサッカーの選抜に選ばれていたような彼に帰宅部で張り合っていた癖によく言う。

 晴も基本的には負けず嫌いなのだ。

 でも、魔法の一言がある。


「晴が勝ってるの、かっこいいのにな。」


 唇を尖らせていた晴はぴたりと動きを止めた。

 たぶん、朝比奈も自分以外がそう言えば勝負に乗ってくることに気づいているから私の部屋を訪ねてきたのだ。

 晴はため息をつくと自室の扉を開いた。


「……美里ちゃんも動きやすい格好で来なよ? オレも荷物とってくるから。」


 パタン、と閉じた扉を見ながら私と朝比奈は顔を見合わせた。


「いつもお世話になっております。」

「いいえ。ジュースね。」


 そういうと、彼はめちゃくちゃいい笑顔で親指を立てた。




 私たちはスポーツができる施設にやってきた。

 休みの日に運動なんて久しぶりだなぁ。

 苦手だけど嫌いではない。晴もそれは同じで、まじめに施設一覧を見ている。


「まずはボウリングな! 九重がバテる前にやろうぜ!」

「はーん、前回オレに大差で負けたの忘れたの? 出鼻挫かせてやるよ!」

「同僚と練習してきたからな。そうもいかねぇぜ!」


 どちらかと言えば、晴は手広く、朝比奈は特化型って感じだ。

 ちなみに私は自慢でないが、運動も苦手、得意なものははっきり言って、ない。


「美里ちゃんはいつぶり?」

「高校ぶり。その時ほとんどガーターだったよ。」

「……本当苦手なんだね。そもそもボールちゃんと合ってるの選んだ? 指が5本入るやつ。」

「それ子供用じゃん!」


 晴はケラケラ笑っている。

 まぁ、その後ちゃんと私に合うボールを選んでくれたから許してあげよう。

 2ゲーム、順番はじゃんけんで朝比奈、私、晴の順番。


「よっしゃ、開幕ストライク狙うぜ!」

「力みすぎて隣のレーンに投げんなよ〜。」

「うっせ!」


 朝比奈が投げたボールは真ん中から少し逸れて9ピン。悔しそうにしながらもスペアをとるあたりさすがだ。


「よっし、次は私だ!」

「オメーも隣投げんなよ〜。」

「投げる力ないから安心して!」


 私は先ほど聞いた晴のアドバイスを思い出す。

 ただ真っ直ぐに投げればいいと。余計な捻りを入れないよう力を抜いて投げてみる。

 ボールはドン、と痛そうな音を立てたが、のろのろと亀の歩みのごとくボールは真ん中に吸い込まれた。


「やったー!」

「さすが美里ちゃん。」

「やっべ、あれでストライクかよ。」


 さすが晴。教えるのはお手のものだ。

 わーい、とハイタッチをした時にふと違和感を覚える。彼はそのままレーンの方に向かうとあっさりと、しかもカーブボールでストライクを取ってきた。


「うっわ、嫌味かよ! つーか今日レベル高いな。」

「お前に負けっかよばーか! 美里ちゃ〜ん、ハイタッチ!」

「お前、オレをアウェイにしようとしてんな!」


 晴はハイタッチをした私の手を握ったまま、喧嘩をしている。そのせいで気づいてしまった。

 朝比奈がレーンに向かい始めると、晴はやっと私の手を離した。


「全く口だけは元気だよね、アイツ。……美里ちゃん? どうしたの?」

「いや……その、男の子の手だなぁって。」

「何それ今更。オレは男だよ。」


 彼が出してきた手は思っていたより骨張っていて、私より一回り大きい手だ。

 思わず重ねると自分の手が酷く小さく見えた。晴はどこか嬉しそうにすると私の手を緩く握った。


「美里ちゃんの手はちっちゃくて細っこい、女の子の手だ。」

「……へ。」

「オイ、見たかオレのストライク!」

「見てませーん!」


 そう言うと再び手を離し、2人はぎゃんぎゃんと口喧嘩を再開した。

 たぶん、私今顔真っ赤だ。



 その後は晴が1回を除き、ストライクとスペアだった。

 朝比奈も頑張ってたけど流石に勝てなかった。私はというと前にやった時よりは良かったけどドキドキしてそれどころでなかったし、何なら1回ボールを後ろに投げて、2人を爆笑させた。

 ちなみにその直後に、笑いすぎた晴はミスした。


 ボウリングが終わってからは、バッティング、キックターゲット、バスケでは朝比奈に軍配が上がり、ラケット系やダーツ、ガンシューティングは晴が勝っていた。

 私はボウリングで満身創痍であり、ほとんど休憩をしていた。私の軟弱さを舐めないでほしい、というかこの2人の体力がおかしいと思う。





 遊び終わればいつの間にか夕方。

 その流れで居酒屋に向かい、酒を入れる。

 だけど、そこからが本番だった。


「だってよぉ、オレだってデートしたかったんだよぉ〜!」

「「……。」」


 いつものこと、この2人は何かと飲み比べをするのだが、大概朝比奈が負ける。ちなみに私はザルを通り越してワクだから別に平気。隣の晴も強い方だとは思うけど、潰れないわけではない。さすがに顔が赤くなっていた。

 朝比奈の何が面倒か、はじめで少し触れたけど、予告のない訪問は大概彼女に振られたか喧嘩したかで、今回は前者らしい。

 加えて泣き上戸なもんだから、なお面倒。


「今回の彼女は旅行に行くために仕事を詰めに詰めたらどっちが大事なのよって言われた本末転倒パターンかぁ。3回目だね。」

「皆までいうなぁ!」


 おっと、つい口にしてしまった。

 隣では朝比奈なんていないもののようにお冷やを頼んでいる。

 晴に無視されていることをお構いなしにべそをかく朝比奈は口を開いた。


「しかもさ、お前らも水くせーぞ!」

「酔って頭おかしくなったな。早く寝落ちしなよ。」

「そしたら晴が持ち帰るんだからね。」

「オイ、無視すんな!」


 頬を膨らませても可愛くないぞ。

 さらに酔った朝比奈は驚くべきことを言うのだ。



「大体付き合ってんなら言えよ! 傷に塩塗りやがって!」

「「……は?」」



 この言葉に私と晴は顔を見合わせた。

 晴はますます冷たい目になるが、反対に私は変な汗が出てきて顔が赤くなってきた。

 朝比奈は妙に鋭い所があるから、たぶん私の変化を機敏に察知したのだろう。まずい、この男どうにかせねば。


「まじで今回飲み過ぎなんじゃない?」

「お前ら隠しても無駄だ。ボウリングの時、手繋いでたろ!」

「別に今までもあったでしょ。」

「いいや、今回は違うね! だって九重が……、」


 私は咄嗟に彼の目の前にジョッキを出した。


「そんなにおしゃべりする余裕があるならまだ飲めるよね?」

「お、珍しいな! たりめーよ、お前もだ!」

「えぇ……。」


 良かった、単純な人で良かった!

 私と朝比奈の視線が耐え難かったのか、晴も渋々といった様子でジョッキを掲げた。


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