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幼馴染の攻略がこんなに難しいなんて聞いてない!  作者: ぼんばん


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38.最終作戦:攻略完了

「美里ちゃん、大事な話があるんだ。」


 うん、知ってるよ。

 ずっと何か話したいって顔をしてたもんね。

 だから、私もあなたを攻略するために、ある必須アイテムを持ってきたんだよ。





「2人とも、プロポーズってどうすればいいと思う?!」

「「プロポーズ?!」」


 職場で放った私の突拍子もない相談に光莉さんと百合さんは目を丸くする。

 まぁ、そりゃそうだよね。うん。


「実は今度の有休、2人で石垣島に行くんだけど。」

「……八草の提案?」

「ううん。私。今度作るゲームのグラフィックとかシステムの参考になるかなって。」

「あ、そう。」


 百合さんが少しだけ呆れたような顔になった。

 でも、私はお構いなしに話し続ける。


「でも、私は閃いたしまったんだよ。あれ、石垣島ってプロポーズに絶好の場所じゃないかなって。そして、私の晴攻略作戦最終章に突入すべきじゃないかって!」


 私はこの時まで名案としか思っていなかったが、流石にそろそろ学んでいた。目の前の2人は確実に困惑している。


「もちろん指環を買っていこうとかは思ってないよ。 晴の性格考えるとたぶん準備したがるし。」

「そ、そっか……。」


 ちなみにこの時光莉さんが珍しく大人しかったのは、晴が狛柴さんに、まさにその相談を少しばかりしたことを知っていたからだそうだ。後から知った。

 そんな光莉さんを尻目に百合さんが尋ねてきた。


「なら、その最終章とやらは何をするの?」

「婚姻届持ってこうかなって!」

「婚姻届?!」

「……それって準備を入念にするタイプの八草と被るんじゃ?」


 確かに晴はそういう準備とか計画的にするタイプだ。

 でも、この時の私はどうもそんな気はしなかった。


「うーん……。何となく私の行動は読まれてる気がするから大丈夫、と思うよ?」

「それもそうだね! そういうところ以心伝心だから大丈夫だよ!」

「そうそう。」


 私の考えにあっさりと光莉さんが同調してくれたので、私も自分の考えに勢いがつく。

 ちなみにこの時点で百合さんはすでに匙を投げており、特に止めるだとか別案を提案するだとかはないようだった。


「八草も婚姻届渡されて嫌な気持ちにはならないでしょ。被ったとしても笑い話になるし。」

「そうだよね!」


 この時の私は重複以外のトラブルなんてすっぽぬけており、2人に背中を押されるがまま、仕事後に慌てて役所に駆け込んだ。

 晴が遅くなる日を見計らって証人欄や晴が書く欄以外を埋める。

 案外彼は現実的だから、プロポーズは受けてくれても、いや今の時期じゃないから、なんて冷静に返される可能性もあるし。決まってから埋めてもらえばいいもんね。

 私はうんうん、と頷きながら何枚かミスをしつつどうにか1枚書き終えることに成功した。



 明日は透子と旅行の買い物を行く約束をした日だ。

 昼休みに2人に作戦を告げた私は順調に仕事を進めていると、やや疲れ気味の狛さんがコーヒーを飲みながら弱々しく微笑んできた。


「機嫌良さそうだね。」

「分かります?」

「今にも鼻歌歌いそうだったよ。旅行、楽しみなんだね。」

「もちろん! 聖地であり、プロポーズというイベントを経て、晴を完全攻略する予定ですからね!」

「……?」


 一瞬、狛さんはスペースニャンコになっていたけど、身震いするように首を横に振る。


「えーと、いわゆる逆プロポーズ?」

「はい!」


 なぜか狛さんは何とも言えない顔で自分の眉間を揉んでいる。


「あーと、それって八草くんのプランとすれ違うんじゃ……。」

「どうしました?」

「いや、何でもないよ。」


 何かを諦めたようにため息をついた狛さんは遠い目をしながら呟くように言ってきた。


「まぁプロポーズの前に旅行、楽しんできてね。」

「もちろん! 抜かりなく聖地とグラフィックに役立ちそうな風景の写真を撮ってきます。」

「……うん。」


 この時の狛さんの気持ちなんてつゆ知らず。私は鼻息を荒くして拳を握り込んだ。





 翌日、約束通り透子と買い物に向かった。

 ラッシュガードとか、洋服、一応水着も。幸い食べる方ではないから腹の肉は大丈夫そうだけどあんまり露出はないものがいい。

 そんなことを透子に言うと、「あの人は自分の彼女は隠しに隠しておきたいタイプだから問題ないです。」って真顔ーにしては怖すぎるーで答えてくれた。


「それにしてもいよいよお2人が結婚とは……。嬉しさ半分悲しさ半分……!」

「何回言ってるの。それに断られる可能性だってあるんだよ? まだ早いとか。」

「愛しの美里さんからの告白を断るなら、あの男沈めます!」


 目が本気だ。答えに関しては晴の自由にしてくれればいいけど沈められないでほしいものだ。


「……でも、八草さんは沈ま、じゃなかった断らないでしょうね。」

「そうかな?」

「ええ。むしろ遅すぎたくらいですからね。」


 付き合った後聞いた話であるが、透子は高校時代からずっと晴の片想いには気づいていたらしい。それに全く気づかず周りをヤキモキさせていたことも、そのためのグループチャットがあったことも。何だか改めて聞くと恥ずかしい話だ。

 何も返せない私がまごついていると、透子は珍しく穏やかに微笑んだ。


「でもね、美里さん。八草さんは遅かろうが早かろうが、加えて今付き合ってなかったとしても、貴女がいるだけで幸せなんです。」

「そう、なのかな。」

「はい。彼は何が何でもあなたの隣を死守してきた人間です。間違いありません。10人に聞いて10人がそう言いますよ。」


 私は晴が一緒にいてくれて私は幸せだ。でも、もっと、もっとと欲張ってしまう。隣にいるための関係に名前と縛りをつけたいほどに。

 もし、透子の言う通りだとして、晴も同じ気持ちを持っていてくれるといいんだけど。


「私からのアドバイスは当たって砕けです! 応援しています!」

「ありがとう。」

「終わったら1発入れに行きますんで!」


 ああ、何だろう。

 最近思うのは、透子は晴とか藤島さんを怒る時が1番生き生きしてる気がするんだよね。

 私は内心で2人の無事を祈った。





 そして、当日。

 私は荷物の中に記入済みの届を忍ばせた。もちろん証人とは晴の意見も聞きながら選びたいから自分の分だけの記入。うんうん、気が利いてるね。


「み、見たことある空港……!」


 聖地! ここが聖地!

 荷物を引っ張りながら私は感動に打ち震え、隣の晴の袖を引く。


「晴、晴! 見て、いきなりクライマックスなんだけど!」

「ああ、空港?」

「うん! いきなりここから見られるなんて!」


 晴は私の行動に呆れることなく、視線に合わせて同じく画角から空港を見つめる。

 私は興奮止まぬまま話を続ける。


「というか、飛行機も初めて乗ったから楽しかったよ!」

「大学の卒業旅行は行ってないんだっけ?」

「うん、サークルの友だちと1週間引きこもりどう森やってた! しかも、なぜか季節外れのインフルエンザにも罹ったし……。」

「あの時か。」


 思い返すと苦い思い出。

 正直、何で一生に一度の機会をインフルエンザごときに奪われなければならないんだとベッドの中で恨みに恨んだ。ただ。


「でも、飛行機乗るのも晴とが初めてだったね。何しても晴が初めてになるんだもんね。」


 そのおかげで初めての飛行機は晴と一緒だった。

 それは悪くないのかもしれないって思う。



 でも、その後は色々あった。

 せっかくだし、晴の負担を少しでも減らせたらと思って運転席に乗ってみたけど、開始数分で車酔いした。私が。

 その時の晴は本気で可哀想なものを見る目だったから居た堪れない。

 もう絶対運転しない。今後の人生、運転だけは晴におんぶに抱っこで生きていくと決意した。


 何とか目的地の洞窟に辿り着く頃には多少気分は落ち着いていて、無事にシュノーケリングする体力は戻っていた。

 私は全く泳げないってわけではないけど苦手だから殆ど晴に引っ張ってもらっていた。自分で泳ごうとしても互いの体力の無駄と学んだからだ。というか、昔から知ったことではないかと反省した。

 今回の旅行は、スキー事件のお詫びも兼ねて晴の好きそうなものをとことん詰め込んだ。

 正直、どこで燃料切れを起こすかと思っていたけど、想像以上に彼と見る世界は綺麗で楽しかった。


 時々晴は不審な目で私を見てきていたけど、彼も楽しめていたと思う。

 なぜ落ち着かない、とかでなくてそんな感情になっていたかなんて私に走るよしもないけど。




 それから、私達は勝負の場に訪れた。

 星の見える海岸線、随分と私らしくないロマンチックな場所に来てしまった。晴はたぶんここで勝負を仕掛けてくる。負けるわけにはいかない。

 私は届出をポケットに入れてホテルを出た。


 晴も緊張しているのか、ほとんど話さないし、話したとしてもどこか上の空だった。

 もちろん私も私で緊張していて。身体の火照りが少しでも落ち着くようにと、海岸で波と戯れる。春先の冷たい夜の海水が身体を少しだけ冷やしてくれる。


 何分経っただろう。

 海との戯れが楽しくなってきた頃だった。


「美里ちゃん。」

「ふぉいっ?!」


 うわ、声が裏返った。

 恐る恐る晴の方を振り返ると、晴は目をまん丸にして驚いていた。小さい頃から変わらない表情だ。

 でも、ここからは昔の私の知らない大人びた表情になった。


「大事な話があるんだ。」

「待って!」

「うん?」


 間髪入れずに私が止めると、拍子抜けしたような反応が返ってきた。

 まずい、先手を撃たれる。


 私はポケットに突っ込んでいた紙を取り出しながら晴の目の前に駆けた。

 焦りもあって少しだけ紙を開く手は乱雑だったかもしれないけど、無事届を開いて晴の目の前に掲げられた。



「晴、私と結婚してください!」



 言った! 先手を打った!

 さぞかし驚いているのだろう。

 少しの期待と、大きな不安と。

 反応の返ってこない晴の顔を見るべく恐々と頭を上げ目を開いたと同時だった。


 晴が噴き出したのは。


「あっはははは! そんなこと、美里ちゃんッ、ふふ、詰め甘すぎ!」

「えっ?」


 これは予想外の反応だ。

 晴は夜でも分かるくらい顔を真っ赤にして、腹を抱えて笑っている。どういうこと?

 目を白黒させる私に、ごめんごめんと軽く謝りながら届を手から抜き取り私の方に向けてきた。


「はぁ〜。見てみなよ、これ。」

「あっ!」


 届を見て気付いた。

 波と戯れて服が濡れたところから滲みたらしく届の文字はもはや読めないものになりかけている。


「やっちゃった!」

「まさか、ふふ。読めない届を貰うことに、ふっ、なるとは。」

「笑いすぎだよ!」

「ごめんごめん。」


 私は恥ずかしさのあまり、顔を上げられなくなった。

 作戦失敗。みんなにどんな顔をすれば……!

 顔を手で覆ってしまおうと動かした時、不意に手が引っ張られ、それは叶わなかった。


 なぜならその手は晴に婚姻届ごと掴まれていたからだ。


「先を越された敗北感と安堵感が凄まじいね。」

「私は羞恥心しかないのですが。」

「そうかもしれないけどさ、まぁ顔あげてよ。」


 私が顔を上げると、晴の空いている手には小さな箱と、指輪が収まっていた。

 ああ、もう。せめてたくさん迷惑かけた分、今回こそ私が格好つけようと思ったのに。

 いろんな感情が混ざりあって目頭がじわじわ熱くなってきた。


 顔を上げると、照れ臭そうな、でもどこか安心したような穏やかな笑みの晴がいた。



「もう答えは聞いたようなもんかもしれないけどさ。結婚しよう。それで、これからもなんてことのない日常を一緒に生きていこう。」



 ああ、私が好きになった理由を彼はよく理解してくれている。

 願わくば、と祈ったことを続けようと言ってくれた。


 私はそのまま晴の胸に飛び込んだ。

 晴は指環を落とさないように箱を閉めたのだろう。数瞬遅れて背中に手を回してくれた。


「……私が、晴を攻略する予定だったのに。」

「されちゃったって? でも、残念。そもそも君が自覚した時点でオレはすでに攻略されてたんだからゲームとして成り立ってないんだよ。」


 ふふ、と晴は嬉しそうに笑った。


「晴。」

「ん?」

「……これから幸せにするね。」

「うん、よろしくね。」


 婚姻届は書き直し。

 私の攻略作戦はうまくいったのかは分からないけど。

 でも、攻略できたってことでいいのかな。


 私の薬指にぴったり収まる指環を見て、言い表すことのできない幸せに包まれていた。


本編はここまでとなります。

次回、少し時間が経った後、最終回のエピローグです!

よろしくお願いします。

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