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25.作戦⑥:藤島さん視点

ブクマありがとうございます!

引き続きよろしくお願いします!

「……八草くん顔すごいよ。」

「……オレを殺してください。」

「物騒すぎる。」


 最近は機嫌の良かった八草くんは隣のデスクで物言わぬ仕事ロボになってしまった。

 オレは藤島啓吾。八草くんと同じ会社に勤める研究者だ。一応直属の先輩なんだけど、八草くんより仕事できない自信がある。

 彼はほんっと優秀。仕事に限れば人当たりはいいし、納期も完璧、クオリティも常に高い、リスク管理も素晴らしい。

 まー、人付き合いについては少しお堅いところはあるけど、パーソナルスペースの広い人なら仕方ないだろうね。


 そんな仕事でき男の彼がこんな状態になるのは十中八九、幼馴染の九重さんが絡むときだ。

 長き片想い、スルーされた告白。本当に気の毒だなって思ってたけど最近の話を聞く限り、両片想いになっていることは間違いない。

 付き合うのは時間の問題、と思っていたら拗れたらしい。


「何があったんすかね。」

「……ざっくり言うとブチギレながら告白されました。」

「えぇ?!」


 オレの大声に周りの視線が集まる。

 まずいと思って辺りにへこへこ頭を下げながら声を潜めて八草くんに尋ねた。


「ちょっと、どういうこと。」

「オレもよく分かってないし考える気が全くないので放っておいてください。」


 いや、このままだとダメでしょ。

 オレは無理矢理昼食に連れて行ったり休憩中食べ物を口に突っ込んだりして、なんとか健康を保ってあげようと思った。

 でもダメだ。この子、最低限の生命活動と仕事をするマシンになっている。


 そういう日に限って飲み会に誘われる。

 八草くん目当ての女の子もいる。今のこの子を行かせたらあっさり持ち帰られる。まずい。

 オレは無理矢理家に帰らせて、オンライン飲みをすることを提案した。八草くんはあっさり了承してくれたけど、画面を繋いだ瞬間、近くに積み上げられている酒の量に驚かされた。

 大丈夫これ、急性アル中にならない?


 いざ飲み始めると普段見ない勢いで酒を開けていく。

 強いなぁ……じゃなくて本当にまずい気がする。


「あの、八草くん。」

『なんですか。』

「良ければ、なんすけど九重さんと何があったか教えてもらっても……?」


 ダメ元で聞いてみると、八草くんは据わった目をこちらに向けて不貞腐れたようにしながら答えた。


『……この前、美里ちゃんが合コンに騙されて行った話したじゃないですか。あと、ストーカー問題に巻き込まれて恋人のフリしてたって。』

「ああ、しばらく朝残とかしてた時期ね。」


 かなり無茶なスケジュールにも関わらず、見事にこなしていたあたり化け物だなと呑気に思っていた。


『問題が決着した後あたりから何か美里ちゃん、元気なくてこの前原因を聞いたんですよ。その時にタイミング悪く合コンにいた男が美里ちゃんをデートに誘ったってこも聞いちゃったんですよ。』

「えっえっ、何でそうなるの。」

『オレが聞きたいよ〜。』


 そう言いながら度数の高い酒を煽る。


「何か、そしたらもうオレ駄目で。元気つけたくてご飯誘ってたんですけど、それよりその男のデート優先されたことや恋人のフリ嫌だったって聞いてたのもあってちょっとキレちゃったんですよね。

 そしたら、オレが雑賀さんに言った好きな人とちゃんと付き合いたいって言葉を曲解してたみたいで。なぜか、オレの事好きって言った後オレの隣を空けられないって言われて何が何だか。』

「んんん?」


 酔っ払いのせいか時系列も少しぼんやりしている。

 つまりは、ストーカー事件で恋人のふりをした。その時にした雑賀さんとの雑談か何かを九重さんに聞かれた。九重さんは何かを勘違いして、八草くんに別の好きな人がいると思い込んだ。だから、八草くんを想ってその人のために隣を空けなきゃと思っていた。

 そんな状況で八草くんは九重さんを元気つけるためにご飯に誘っていたけど、九重さんは何かをきっかけに仲良くなった合コン参加の男の予定を優先させた。たぶん、告白されて律儀に向き合おうとしたんだろう。

 それを聞いた八草くんは怒ってしまい、九重さんもパニックで告白してしまった。そういうことか。


 よし、纏まった。


「……ならさ、怒ったことは八草くんから謝るべきじゃない? それに2人は付き合ってるわけじゃないんだから、八草くんには留める権利はないし。」

『分かってますよそんなこと。』


 理性的な部分では分かっているけどどうしようもないんだろう。

 八草くんはまた酒を煽った。横にある缶がそろそろまずい量になってきたと思うんだけど。八草くん、吐かないタイプだから翌日ダウンだろうなぁ。


『……美里ちゃんが選んだ道なら応援しようって思ったんです。でも、最近まるでオレに気があるみたいなことばっかりするから舞い上がってて。と思ったらデート行っちゃうし。でも、告白してくるし何が何だか。』


 マイペースにトイレ、と千鳥足で画面から出て行く。

 拗らせすぎた結果っすねぇ。

 オレは画面を見ながらため息をついた。


 とりあえず今のまま放っておくと八草くん脱水とかで死んじゃいそうだから、九重さんに様子見をお願いしとこう。

 メッセージを送ると意外にもすぐに返信が来た。


『分かりました。この時間に潰れたんですか?』

『いやね、飲み始めたのは8時半からなんだよ。家にいるの?』

『いいえ、でももう最寄駅です。』


 おや、思ったより早い帰宅だな。

 初めてだから相手が早めに帰らせたのか、それとも九重さんがちゃんと帰ってきたのか。

 そんなことを考えていると、九重さんから返信が来た。


『とりあえず水持って行きますね。』

『よろしく!』


 もう余計なことは考えまい。

 スマホを閉じると、うー、と唸りながら八草くんがそのまま床に寝た。もう駄目だなこの子は。


「八草くーん。もう少ししたら九重さんが水持ってきてくれるからね。」

『寝言も大概にしてくださいよ〜。』


 いや、寝言言ってんの君だから。

 もう何を言っても無駄だと、オレはチャイムが鳴った後そっと画面を切った。





 翌日昼過ぎ。

 オレは日用品を買って帰ってきた辺りで、八草くんから連絡がきていた。


『昨晩は寝落ちしてすみません。ウチに来てくれました?』

『昨日夜から行ったのは九重さん。脱水になったら困るからお願いした。』


 淡々と事実を送ると、八草くんから電話が来た。


『オレ、またまずいことしました。』

「何なに。」

『楽しそうな声出さないでください。』

「実際楽しいし。あ、ゲームしながら話そう? あんな抜け殻だったなら買い物もしてないだろうし、昼ご飯後にでも。」

『……はい。』


 少しだけ不機嫌そうだけど、昨日の罪悪感があるのか素直に従った。

 数時間後、ある程度身なりを整えた八草くんが顔を出した。モンをハントしながら雑談を交わす。


「で、言い訳は?」

『いや、その、夢だと思ったんですよ。』

「なに、押し倒した?」


 オレが口角を上げると、珍しく八草くんの顔が真っ赤になった。


「え、やっちゃった?」

『やってません!』


 話を聞くと熱烈な本音をぶつけた上、告白スルー事件についても本人にぶちまけた。

 加えて告白、押し倒し、うんうんいいじゃん?

 でもヘタレの性根か、はたまた酒を飲みすぎたせいか、特に進展することなく寝落ちしたらしい。起きたら明日出かける予定と約束の時間が書かれたメモ、そして体調を案じる言葉が書かれていたそうだ。

 なかなか格好悪い、それなりにプライドのある八草くんには耐えられないだろうなぁ。


「1つ言えることは、ちゃんと素面の時に怒ったことも昨晩のことも謝って、そんでもって潔く告白しな。」

『そう……ですよね。腹括ります。』


 ふぅ、と大きく息を吐いた。

 今週の腑抜けた八草くんはどこへやら、いつもの冷静な彼が顔を出した。

 それから彼はメッセージを送って、何戦かゲームしていると、八草くんの注意が外に向いた。


「行ってきたら?」

『はい。』


 てこてこと八草くんは外に出て行った。

 これで解決するといいけど。




 そんなことを思っていると、なんだか腑に落ちないという顔をした八草くんが戻ってきた。


「どうしたの?」

『謝ろうとして顔合わせたら、二日酔いでダメダメだから大事な話は明日って言われました……謝るくらい良くない……?』

「なら、謝ることは気にしてないんじゃない?」


 八草くんはオレの言葉の意味が分からないらしく、不思議そうにしながら椅子に座った。

 変なところ鈍いんだから、九重さんが手こずるのも分かるよ。うんうん。


「だから、簡単。九重さんが求めてる答えっていうのは謝罪じゃなくて、君が素面で九重さんをどう思ってるかってことなんだよ。」

『は、』


 目の前の八草くんは息を呑んだ。

 ほんっと、九重さんが絡むと色んな顔が出てくるな。


「ま、明日頑張りなよ。」

『……。』


 週明けが楽しみだ。

 オレがニコニコしているのを悔しそうに睨みつけると、もう一戦! と子どもみたいにら八つ当たりするもんだから笑ってしまった。

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