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2.オレのプロローグ

ブクマありがとうございます!

晴海視点の話です。

 プロローグ。物語の発端、始まり。

 これは25年目の付き合いになる幼馴染からまさか攻略されようとしていたとは、後から聞いて笑ったそんなお話。



「八草くーん。お昼ご飯行きましょー。」

「は〜い。」


 オレが一仕事終えて、息をついたタイミングで金髪のチャラチャラした先輩が声をかけてくる。

 こう見えて、有名大学の首席らしいから侮れない。彼の名前は藤島啓吾(ふじしまけいご)、オレの直属の先輩だ。

 はじめは少し苦手かな、と思ってたんだけど、空気は読めるし距離感はちょうどいいし、ペースや趣味も合うもんだから何かと仲良くしている。まー、女遊びが激しいのはいただけないと思うけど。

 オレが席を立つと、彼はにっこりと笑う。


「今日は機嫌がいいね。先週は鬼みたいな形相してたのに。」

「好きでもない人にベタベタされて嬉しい人いな……いや、藤島さんはそんなことなかったですねー!」

「そうだねぇ。だって受付の根本さんでしょ? あの人美人だし胸大きいし役得じゃない?」

「サイッテー。」


 オレの明け透けない批判に彼はふふ、と笑った。

 ちなみにこの人は入職初日でオレの猫被りに気づいたからもう繕うことはしていない。


「でも、彼女押しが強いって噂だし。よく家に押し入られなかったね。結構酔ってたから危ないかなって思ったけど。もしかしてあの幼馴染ちゃんに会えた?」

「……。」

「図星かぁ。」


 藤島さんは愉快そうに笑いながら食券を選び始めた。



 遅れたけど、オレは八草晴海(やくさはるみ)

 ある製薬会社の研究部門に所属している。

 身長は170cmちょっと、細くはあるけどたぶんそれなりに筋肉はある方だと思う。茶髪の天パで抗いようがない癖っ毛。

 勉強も、運動も、基本的にはあることを除いて苦手なことはない。趣味はゲーム、頭使うのからFPS、あ、でも育成ゲームとかは嫌いかも。嫌いなものは距離感測り間違えた不躾な人、この前の言い寄ってきた人とか本当嫌。

 性格は、優しくて真面目、人当たりがいい、とオレの本性を知らない人からは言われる。仲良い人からは捻くれ者、ガキ、猫被り、腹黒って言われる。まぁ、実際そうだし。



「幼馴染ちゃんに勘違いされなかった?」

「今更、って言いたいけど珍しく拗ねてて面白かったですよ。」

「面白かった、って。嬉しくないの?」


 そう、オレは幼馴染の九重美里が好きだ。

 でも、期待はしていない。


「どーっせ、いつもの遊び相手がいなくなって寂しい止まりですよ。」

「本当に報われないね。」


 強めに食券機のボタンを押したオレを見て、はは、と藤島さんは笑う。

 色々あってこの人は美里ちゃんと知り合いで、オレの片想いもすぐに見抜いたから、一切隠すことがない。




 オレの片想い相手は九重美里(ここのえみさと)

 同じ病院で生まれた家が隣の女の子。

 高校で成長期が来た時に随分と距離が空いてしまうような、小柄な女の子だ。肩くらいの黒髪をふわふわと揺らした、ぱっちりとした目が可愛い子。

 運動は苦手だけど、好きなことに対する集中力は凄い。やりたいことのためなら嫌いな勉強だって頑張れる。

 面倒くさがりでズボラ、枯れたところもあるけど、そこさえもチャームポイントのように思うから末期だと思う。


 彼女を好きになった瞬間はよく覚えている。

 初めて会ったのは、母さんが仕事で忙しかった時、美里ちゃんの家に預けられたのがきっかけ。当時からゲームをしていた。

 当時のオレは人見知りで、部屋の隅っこでベソをかいていると、彼女が困ったような顔をしながらトランプを持ってきたのだ。一緒に遊ぼ、と。

 ただこの時はスピードか何かをやってボコボコにされてオレが大泣きしたけど。ちなみにそのあとやり返して泣かした。


 好きになったのは幼稚園の年中に上がってから。

 オレの晴海、という名前を女の子みたいだと年長の子から揶揄われていた時、美里ちゃんが自分より大きくて数も多い子達に無鉄砲にも喧嘩を売りにいった。


『人の名前はママに貰う大切なものなの! バカにしちゃだめ!』


 それを聞いたオレは子どもながらに、絶対にこの子を幸せにしようと誓った。そして、一緒に喧嘩して大泣きしながら帰ったのも懐かしい。

 お互いに、美里ちゃん、晴、と呼び合っていると小学校の頃はからかわれた。でも、オレは恥ずかしいなんて思わなかったし、マイペースな彼女も何でと首を傾げているだけだった。

 中学の時は、お互いに良い友人達に恵まれて特に何事もなく過ごしていた。ただ、この辺から美里ちゃんがモテるようになって告白されてたけど持ち前の鈍感さと、オレの牽制とでどうにかなった。

 高校も同じ感じ。ただ、彼女は勉強がついていけなくなってきたらしい。それなりにいい高校に入ったのに、不貞腐れたように専門学校に行くなんて言い始めたもんだから、死ぬ気で勉強に付き合った。

 まさかあそこまで成績が上がるとは思わなかったけど、おかげで大学も一緒だった。


 それから色々あって今の家ー隣の部屋ーでお互いに一人暮らしをすることになったのだが、オレも流石に我慢がしきれなかった。

 15年、ずっと片想いしていた。なのに、何てことのないようにオレの部屋に来て、自分の部屋に招いて無防備な姿を見せてくるのだ。

 どうもオレは捻くれ者なところと、ヘタレな部分があり、ずっと遠回しにアピールしてきたが、それが無駄なことだと悟り一念発起した。


『あの、さ、美里ちゃん。』

『どうしたの?』


 オレの部屋に2人きり。

 緊張しすぎてゲームも珍しくミスが多かった。オレにしては、頑張ったと思う。


『その、好き! 付き合って!』

『……。』


 彼女はきょとんとしていたが、オレの言葉を咀嚼したらしく頷いた。


『……そっか、ずっと気にしてたんだね。わかったよ、付き合う!』

『本当?!』

『いつも私のこと優先してくれてたもん。もちろん。』


 この時のオレは多分浮かれていた。返答がおかしいことに気づいていなかった。

 週末ね、と言われてデートだ! と浮かれていたら、なぜかその週の金曜日にスキー場の情報と宿のデータが送られてきた。

 ここでオレは気づいた。

 彼女はオレがスキーに付き合ってほしいと言ったと勘違いしたことに。ちなみに宿は2人で一部屋だったし、もちろん恋人になどなってはいなかった。ムカついたから転んだところを滅茶苦茶馬鹿にしてやった。オレは悪くない。ハードモードすぎじゃん。


 それと同時にオレのガラスハートは一瞬で割れた。

 でも、諦めるつもりはない。こうなったら何が何でも美里ちゃんに恋人を作らせず、婚期に遅れさせてやる。そして手強めにしてやると。15年も待った、なら20年も30年も変わらない。

 これを中学の親友に酔った勢いで言ったら苦笑いしていたけどそんなもん知るか。

 もちろん、本当に好きな人ができたなら諦める。でも、オレの腹黒さは侮らないでほしい。




「でも、このままでいいの?」

「……進めるなら進みたいに決まってる。」


 でも、抱きついたって、酔った勢いでおでこにキスまでしても気づかない。手を握るのも日常茶飯事。オレ達は近すぎたんだ。もう何をすれば意識してもらえるのか分からない。

 オレが不貞腐れたのを感じ取ったのか、藤島さんは苦笑した。


「ごめんごめん。好きで甘んじてるわけないよね。」

「そーですよ、藤島さんには分からないかもしれないですけど!」


 日替わり定食を受け取り、2人でいつもの席に座った。


「でも、案外状況はふとしたことで変わるかもしれないよ?」

「ふとしたことって何だよ〜。」

「あのー、相席いいですか?」

「どうぞ。」


 オレが頭を抱えていると、総務の女の子達が相席を申し出てきた。

 女の人を侍らすのが趣味の藤島さんはあっさりと席を空ける。オレは興味ないから作り笑いを貼り付けた。


「あのー、良ければ今日飲みに行きませんか?」

「そうなんです。私たち暇してて。」

「オレは暇だよ。八草くんは?」


 それを聞くか?

 腕を絡められそうになったのを察して、オレは食事を中途半端にしたまま席を立つ。


「すみません。オレ食欲ないので。」


 では、と足早にその場を去る。

 視線を感じたが、ほんっとーによろしくない気分だった。




 今日は運の悪い日だ。

 空腹で苛々しながらも、少し残業して仕事を終えると先程の女性達と藤島さん、あとは他の研究チームの何人かがフロアにいた。

 たぶん、あの人底意地悪いからオレのことを待っている気がする。自分で言うのもアレだけどオレがいる方が会話を回しやすいからね、その後女の子を持ち帰りやすいから利用する気だな。

 全くいい性格してるよ。


 ま、こんな時は逃げるが勝ちでしょ。


 オレは猛ダッシュでフロアを抜ける。

 背後であ、と声が聞こえた気がしたけど知らない。オレの名前が呼ばれている気もするけど知らない。

 自動ドアが開くのが遅いなんて人生で思ったことなんてない。そこだけは歩いて行くしかないが、後ろから足音と気配がする気がする。


「早く出……。」

「晴!」

「うぉ!」


 自動ドアから出るのと同時、不意に手を掴まれた。

 オレが妙な声を出したせいか、その呼び声の主は目を丸くしていた。


「どうしたの、そんなに急いで。」

「いや……ちょっと。何でここにいるの、美里ちゃん。」

「……。」


 ものぐさな彼女がオレの会社を知っていたことも驚きだが、足を運んでくれるなんて。

 思わぬ出来事にオレは開いた口が塞がらなかった。

 最早背後の人たちなんていないような感覚。

 しかも、続く彼女の言葉はさらに驚くべきものだった。


「……先週みたい会社で綺麗な人侍らせて遅刻されたら嫌だし。」

「……!」


 それって嫉妬?

 まじで? いや、こんなことあるわけない。

 余程先週の巻き込まれたことが不快だったんだな。


 浮かれそうになる心を鎮めて、オレは素直ににんまりと口角をあげた。


「バッカだなー! オレが美里ちゃん以上に優先することなんてないに決まってんじゃーん! ほら、かわいい嫉妬してないで行くよ。」

「かわっ……!」


 意外とちょろいところあるんだよなこの子。

 オレは予想通りのリアクションをもらったことに満足した。


 前言撤回、今日の運は悪くなさそうだ。

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