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幼馴染の攻略がこんなに難しいなんて聞いてない!  作者: ぼんばん


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18.作戦⑤:押し倒す

『うわっ!』

『大丈夫、はる?』


 私だって子どもの頃は外で遊ぶのが好きだった。

 晴に身長を抜かれる前、小学校の高学年くらいまでは力も私の方が強かった。昔ーといっても幼稚園くらいまでだけどーは私の方が足が速かった。

 

 だから、追いかけっことかしたら晴がいつだって後ろから追いかけてたし、手押し相撲とかは私の方が強かったから今みたいに砂場にひっくり返ってしまっていた。


『はる、こーいうゲーム弱いよね。』

『はっきり言わないで……。』


 あからさまにしょんぼりする晴を見ながら私は手を引っ張って立たせた。それさえ不服そうだったけど。

 そんな晴を揶揄い半分、お姉さんの気持ち半分で抱っこしてみせた。


『ちょ、美里ちゃん!』

『はるはかわいいね〜! みさとでも抱っこできる!』


 ふふ、と頬をすり寄せながら私は言った。


『はるが泣きたくなった時はいつだってこうやって慰めてあげるよ!』

『でも、いつかはオレの方が大きくなるよ!』

『それでも泣きたくなる時はきっとあるよ。』

『うーん。』


 私に頬擦りされる晴は納得いかなそうにしていた。

 抱っこからおろしてあげると私を抱っこし返そうと抱きついてきたが、身長差のあるせいで持ち上がらない。晴は諦めたようにため息をついた。


『泣き虫だったとしても、少なくとも美里ちゃんを抱っこくらいはしてみせるから!』

『ふーん、楽しみ。』


 何でこんなことを今頃思い出すんだろう。

 私の目の前にあるのは、見慣れた天井と、少しだけ緊張したような大人の晴の顔だった。





 私はとあるアウトレットに来ていた。

 もちろん晴と一緒に。


 今日は狛柴夫婦の引っ越し祝いを買いに来たのだ。

 最近2人は職場から少し離れたところにマンションを買ったらしい。そのせいもあって忙しそうにはしているけど、2人とも幸せそうだ。

 光莉さんは期限があった方がいい、といってみんなで部屋でご飯を食べようと息まいていた。と、いっても準備はおそらく狛さんの仕事なんだけど。


 呼ばれたのは私と晴、それにゲーム仲間の藤島さん、百合さん。

 あの2人のプレゼントのセンスは天元突破しているから下手なものは持っていけない。何となく情報を聞いてみたら、百合さんはキッチン周り、藤島さんは夫婦品を準備するって言ってた。

 晴は潔いもので、狛さんに聞くと2人でお酒と当日何品かつまみを購入するのと、料理を手伝ってほしいとのことだった。


「でも、良かったねぇ。美里ちゃん料理の腕を買われてるじゃん?」

「うーん……でもお酒詳しくないけどね。」

「美里ちゃんは飲めるくせに舌馬鹿だもんね〜。」

「もう、余計な一言。」


 実際そうだから否定できない。

 日本酒とか全く味が分からない。

 曰く、オレは限界があるからいいものを飲みたい、そうだ。確かに家で飲む時は高そうなお酒だもんな。そもそも1人で飲んでるところは知らないけど。


 晴の言葉のまま何本か見繕い、2人でぶらぶらとしている。他にも靴を買いたいやら、余計な買い物をしてしまう。

 ふと歩いている時にシーズン尻切れの水着が売っているのに気付く。


「そう言えば、今年は水着とは無縁に生きてきたなあ。」

「夏は暑いって引きこもってるじゃん。」

「晴もでしょ。」

「残念、オレは今年川遊びしてきました〜。」


 また大学の友だちとか。

 今年の盆も一緒に私の実家に帰ったけど、晴は少し早めに実家から出た。その時か。

 ちなみに晴が帰ったあと、私の化粧と服を見て勘づいた母親がやっと、と言って感動しており、父親が号泣していた。付き合えたらどうなってしまうんだろう。歳の離れた弟だけは不思議そうにしていたけど。

 毎年百合さんに誘われたりしたけど、あの美人でナイスバディな百合さんと行って私がナンパから彼女を守れるとは思えないから、大体狛さんと光莉さんも一緒に行く。

 でも、今年は誘われなかったな。


「どうしたの?」

「今年は百合さんに海へ誘われなかったなって。」

「ああ、狛柴夫婦が忙しいからかって思ってたけど。でも、雑賀さんも最近疲れてるんでしょ?」

「うん……。」


 ここ最近疲れ切った顔をしているのだ。

 忙しいという割にはさっさと帰っていくし、外食もほとんど見ない。


「疲れている彼女には溺れる君を助けることはできない、とか?」

「確かに泳げないけどちゃんと浮き輪持ってくよ!」

「持ってくんだ?」


 はは、と晴が笑っている。

 つまりは揶揄われたということ。

 私が頬を膨らましていると、横から人差し指で突かれた。口から空気がぷすーと抜けてしまう。


「そういえば晴とはプールとか海とか行ってないね。」

「あー、小学校の時以来?」

「……プールとか海で浮き輪引っ張れる?」

「引っ張らせる気?」


 私が頷くと呆れた顔をした。

 何でか百合さんは引っ張るのが好きみたいでよくやられるんだけど、晴も速そう。

 ちなみに百合さんが犬の散歩の気分でやっていることは私は知らない。


「ま、いいけど。転覆するかもね?」

「鬼!」


 この男やりかねない。やっぱりやめよう。

 そんなことを考えていると目的のゲームセンターにたどり着いた。


「転覆させられる前に、まずはこれで晴をボコボコにしちゃおうかな。」

「ふーん、よく言うね。」


 大人しくやられるだけではない。私は手始めに荷物からばちを取り出して口角を上げた。



 ゲーセンは私の勝ち越し。

 でも、ギターのやつとスロットだけは負けた。妙なところ器用なんだよね。


「そろそろ帰ろっか?」

「そうだね!」


 流石の晴も少し疲れたようで汗を拭っていた。クーラーがかかってるとはいえ、本気でやると汗が止まらない。

 ふと、チャイルドエリアで遊ぶ子ども達が目に入る。


「おっ、懐かしいね。あれ。」

「手押し相撲だね。」


 昔は私の方が身長が高かったから大体勝っていた。

 そこで、ふと思い立った。


「家帰ってからもうひと勝負しない?」

「ゲーム?」

「ゲームはゲームだけど。」


 私は得意げに指を立てた。





「何で?!」

「いや、体格差と君の運動能力の低さを考えれば想像つくでしょ。」


 帰ってから私はオセロを取り出した。

 懐かしい、と言いながら2人でやってみたけど、恐ろしいことにまっったく勝てなかった。試しに将棋もやってみたけど負けた。五目並べも負けた。

 追い詰める時の晴の悪い笑顔は本当に腹が立った。

 確かに頭脳戦と言われたら私は弱いけども!


 やけくそになった私は指相撲を申し込んだ。散々弄ばれて親指をあっさりと摘まれた。

 そして、今さっき座布団相撲をやって転がされたところだ。


「よしよし、じゃあ手押し相撲!」

「えぇ〜。」


 晴の背中側にベッドを配置させる。


「……君、負けたら頭を打つよ?」

「いいでしょ、体格ハンデ! 私の頭を打たないようにさせようとする心理的ハンデ、だよ?」

「ふーん。」


 一瞬だけ悪い顔をしていた気がしたけど気のせいか。

 晴は言われた場所に素直に立つと、にんまりと笑って掌を私に向けた。



「「いざ尋常に、勝負!」」



 私はジャブ程度の晴の攻撃を避けてみせる。

 ヒュウ、と口笛を吹くなど余裕か。

 ムッとした私は何度かチャンスを窺いながら晴に攻撃を仕掛ける。


「ここだ!」


 つい言葉に出てしまうほど、集中していた。

 だから、晴の不審な動きに気づかなくて。

 後方に重心を傾けた晴はそのままベッドに倒れていく。もちろん手を押している私も吸い込まれるように晴の上に倒れるわけで。


「うわっぷ!」

「あっははは! 体幹弱いねぇ!」

「わざと倒れないで!」


 見事に晴の胸に飛び込んでそのまま倒れてしまった。

 晴もベッドを背に寝たまま、手を叩いて笑っていた。試合に勝ったのに勝負に負けた、そんな感じだ。


「もー、だから大人しくベッド側にしたんだ?」

「当たり前じゃん、本気出したらオレの方が強いんだからさぁ。諦めなって。」

「分かってるんだけどさぁ……。」


 私はしぶしぶ体を起こす。

 ここでやっと晴の体に跨っていることに気がついた。


 以前感じた手の大きさの差。

 それに先程飛び込んだ硬い胸板、抗いようのない力の差、腕だって私のぷにぷにのものと違う。

 ふと晴を見てみると、彼はひどく穏やかな顔をしている。

 私が彼の顔を凝視していると、晴が私の腕をやんわりと掴んだ。

 

「……晴?」

「……そんな顔、しちゃっていいのかなぁ?」

「え。」


 視界がぐるりとひっくり返った。

 先ほどまで晴の後ろにはベッドがあったはずなのに、いつのまにか私の後ろにベッドがある。

 私の手を縫い付ける晴の手の力は逃げられるか逃げられないかの力加減。なのに、彼はまるで逃げないでというような視線を送ってくる。


「美里ちゃん。」

「……。」


 たぶん、私、顔真っ赤だ。



「……美里ちゃん、オレーー。」



 晴が何かを言いかけるのと同時。

 テーブルにある私のスマホが電話音を響かせる。

 私と晴は目を丸くすると改めて顔を見合わせた。


「ほら、電話。」

「む、むり……。」


 晴は私の上からどくと、私のスマホの画面を見た。


「雑賀さんだよ?」

「出ていいよ……。」


 今出たから呆れられる。

 私がベッドの上で身悶えしていると、晴は遠慮なく通話ボタンを押したらしい。

 だが、その瞬間彼は表情を変えると、返答をすることなく顔色を変えて私に無理やりスマホを押し付けてきた。

 珍しい行動だな。

 私は首を傾げながらも、電話に出た。


「もしも……『美里……ッ、』


 もしかして泣いている? いや、もしかしなくても泣いている。

 私は慌てて身体を起こした。


「どうしたの?!」

『美里……助けて……。』

「助けてって?!」


 晴を手招きして呼ぶと、そっと耳を近づけてくれた。

 何やら電話の向こうで人の声がする。

 どうやら百合さんから誰かに代わったようだ。


『もしもし、雑賀さんのご友人の方と伺っております。私、警察署の者です。実はーー。』


 その言葉を聞いて、私と晴は血相を変えた。



 だって、あり得そうであり得なかったことだったから。

 百合さんがストーカーに遭ってて、ついさっき襲われかけた、だなんて。


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