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幼馴染の攻略がこんなに難しいなんて聞いてない!  作者: ぼんばん


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16.作戦④:やきもち

 今日はぼっち飯だ。

 百合さんは有休で、光莉さんは業務の関係で少し遅れるらしい。

 フロアで珍しく作ったお弁当を食べていると広報部の人たちに声をかけられた。


「ねぇねぇ九重さん。今いい?」

「はい。」

「良かったぁ。実は相談があって。」


 相談? 仕事関連のことだろうか。

 広報用のゲームの試作画面とかの準備なら上を通してほしい。私は渋々身体の向きを変えた。


「実はね、今日取引先と飲み会があって参加してほしいんだよね。」

「え、私要ります?」

「向こうがシステムエンジニアの人がいてほしい、っていうもんだから!」

「なら先輩に頼めば……。」

「頼みにくいんだもん、お願い!」


 勢いが凄まじい。

 取引先との飲み会とか古い気がする。というか、営業の人の仕事ではないのか、それ。時間外労働じゃん。

 どう断ろうかと思案していると、遠目に光莉さんが見えた。

 なら、光莉さんも誘ってみるか?


「ひ「と、とにかく今日! 業務後18時にここね!」

「今日?!」


 私の予定もガン無視で3人は脱兎の如く逃げてしまった。

 今日金曜日なのに〜。


「あれ、どうしたの? さっきの子達すごい速さで逃げちゃったけど?」

「実はですねぇ、面倒なことに巻き込まれまして……。」



 私が内容を話すと、光莉さんはみるみる顔を青くした。そんなに重大な内容ではないと思うけど。


「もしかして、面倒な会社なんですかここ?」

「面倒、というかその取引先と飲み会しないよ。普通。」

「えっ、そうなの?」

「うん。」


 何だろうきな臭い。

 同じ職場の人間でそういうことを隠すメリットは何だろう。謎解きゲーム以上に難解だ。


「私、その飲み会はブッチしていい気がするなぁ。」

「ブッチ? 何で?」


 理由がわからない。光莉さんは何かを察しているみたいだけど。


「うーん……、断るつもりだけど。」

「なら内線で連絡することをお勧めするよ!」

「うん?」


 取引先との飲み会っていう話だし、内線使ってもいいのか? うーん、でも、直接誘ってくれたわけだし、断るのも直接の方がいいよね。


「分かった、とりあえず断るね!」

「……そう。」


 光莉さんは心配そうに目を細めた。

 子どもの誘拐じゃあるまいし。





 そう思っていた時代が私にもありました。

 仕事がノリにのってしまい、連絡のことを忘れて仕事に没頭していた。晴とのご飯に関しては、いつも連絡しなくても大丈夫だったから、気にしてなかったのだ。


「今日は結構進んだね。この辺にしておこうか。」

「そうですね!」


 隣の席の狛柴さんも作業がひと段落したらしく、大袈裟に背伸びをしていた。やっぱり華金最高だ。


「今日も八草くんと?」

「はい! 今日は何と何と、お弁当だけでなく料理の下準備もしてきたんですよ?」

「へぇ、凝ってるね。」

「はい。やってみると、なんかゲームみたいで楽しくて。ほら、積みゲーと放置ゲー的な?」

「……?」


 残念ながら狛柴さんには伝わらなかったらしい。

 とにかく早く帰らねば。


「じゃあ、お「ちょっと九重さん! 遅いんだけど!」


 お疲れ様でした、と挨拶して帰ろうと部屋から顔を出した瞬間、女性に腕を鷲掴みにされた。

 あ、そうだった。断るの忘れてた。


「あと5分で18時! 遅刻だから!」

「遅刻……というか、そもそも私参加するって言ってな「いいから行きましょ!」


 両サイドからガッチリ拘束された私は話も聞いてもらえず、連行される宇宙人の如く連れていかれた。

 見事に私はフラグを回収したのだ。


「……これは、連絡した方がいいよな?」


 ちなみにこの様子を写真に撮られていたことなどつゆ知らず。






 そしていざ飲み会。

 道中何回断ったか。しかも呼ばれてきたところは確かに取引先の人もいる、けど、大切な仕事の延長線には見えない飲み会。

 経験不足な私でもわかる。

 これは合コンというやつだ。

 かわるがわる男性が絡みにきて、はぁとかへぇとかで乗り切った。乗り切ったって言えるのかなこれは。

 しかも肝心のゲームのゲの字も出てこない。本当に時間の無駄。


 もう絶対あの人達と口きかない。

 私は隙を見て逃げるべくお金をポケットに控えた。誘ってきた2人は取引先に狙いがいるらしく、そちらに夢中だ。

 そろそろ帰れるか。

 壁の花と徹してきた私の周りには幸い人がはけている。


 私が席を立とうとした時、隣に人が座った。


「九重さん、オレのことわかります?」

「……どなたですか?」

「オレ、営業部2年目の坂之上って言います。よろしくお願いします。」

「はぁ……。」


 何だ、同じ会社の人か。

 帰りたいから早く退いてほしい。


「ずっと九重さんと話してみたかったんです。ゲーム、お好きなんですよね?」

「うん……まぁ。」

「良かった〜。オレも好きで。」


 彼は子犬のように目を輝かせてふにゃりと笑う。

 出会ったのがここでなければ少しときめいたかもしれない。でも、今の私は好きなゲームの話でさえ乗り気にならないほどに冷め切っていた。

 ああ、私ってここまで不機嫌になれるんだなって思うくらいに。


 さっきからずっとスマホも鳴ってるし。

 私は話の最中でスマホを見ようと鞄から取り出したーーが、その手を坂之上に抑えられた。

 何が起きたのか。私は意味が分からず目を丸くして、顔を見上げると思ったより近くに坂之上がいてびっくりした。


「な、に。」

「あの、今九重さんと話してるのはオレですよね?」


 乙ゲーならときめくところ。

 はい、好感度上がるところ。

 でも、現実ではそんなことなくて。



 頭が真っ白で私が固まっていると、その背後の扉が開いた。ドアベルがけたたましく鳴ったこともあり、一部の者はそちらに視線をやった。

 そこで、私は声を弾ませてしまう。


「晴!」

「なーに人との約束ブッチして飲み会に参加してるのさ。」

「違……、私は無理矢理……!」

「知ってるよー。そこの人らに宇宙人の如く連行される写真が送られてきたもん。」


 送信元は狛柴さん。

 写真撮ってる暇あるなら助けてほしかった。

 私たちが呑気にそんな話をしていると、ズイと坂之上が間に入ってきた。汗を拭く晴は露骨に不機嫌な顔を見せたため、彼が一瞬怯んだのがわかった。


「急に来て何なんですか、アンタ。こっちが先約ですよ。」

「はぁ? 今日の昼にとってつけた約束の何が先約だよ。オレの方がむかーしからとってるっての。」

「……っ、大体アンタは九重さんのなんなんですか?! 彼氏とかじゃなきゃ納得できませんよ!」


 幼馴染。

 そんなワードは許されなさそうだ。

 ええ、これどうするの。他の人の視線も集まってきたし。

 私があわあわしていると、真顔の晴は坂之上を席からどかして、通路に出られるようにしてくれた。そして、驚く坂之上に対して、予想外の言葉を吐き捨てた。


「そう思うならそういうことにしとけば? どっちにしろ、君よりオレの方が美里ちゃんには好かれてるから。」


 帰るよ、と優しく手を引かれるがまま私は歩く。

 途中でポケットの中のお金の存在を思い出すけど、払われることはなかった。






 私たちは何も話さず地下鉄に乗り、いつもの駅から帰路に着く。

 よくよくみると財布1つで出てきているから、一度帰ってからわざわざ来てくれたことが分かった。


「その、晴。」

「何。」


 思ったより低い声に私は身を強張らせた。

 怒ってる? ゆっくりと、私は言葉を紡いだ。


「その、約束破ってごめん。本当は断るつもりだったんだけど。その、」

「うん。わかってる。あの連行……写真はちょっと面白かったけど、狛柴夫婦から来た文面がヤバかったから少し焦っただけ。」

「ほんと?」

「……。」


 私が尋ねたが、晴はうんともすんとも言わず顔も逸らしたままだ。


「ねえ、焦っただけならこっちみて。」

「ヤダ。」


 子どもか。

 でも、私も子どもだった。目を合わせないと不安だった。


「……晴、やっぱり怒ってるでしょ?」

「怒ってないよ。」

「なら、なんでこっち見てくれないの! 晴が何を思ってるか分からないよ!」


 力任せに引っ張ると、彼はすんなりと身体の向きを変えてくれた。

 でも、街頭に照らされてしまった彼は、季節に合わない真っ白な肌を真っ赤にしていた。

 なんで? 理由の分からない私は固まってしまう。


「……いや、ちが。その、いつも金曜ってご飯一緒に食べない時は連絡あったでしょ? いつまでも帰ってこないし、連絡もないし。だから、その、あんな飲み会に行きたかったのかと万が一を想像しただけでも、腹立って。」


 珍しくしどろもどろに話す晴を見て開いた口が塞がらなかった。

 つまりはあれだ。


「やきもち?」

「〜〜ッ、そうだよ!」


 半ばヤケクソに言い捨てると、晴は進行方向に向き直ってしまった。

 酩酊しているのかというような足取りのまま進んでいく彼を見てハッとする。

 そして、つい口角の上がる自分の口元を抑える。

 ヤキモチ、初めてやかれたかも。


「んふ……。」

「何1人で笑ってんの。変態。」

「へ、変態って!」


 なんでこんなに距離あるのにバレるんだ。

 そんなことよりも、と私は慌てて走り、晴に追いついた。


「晴にも可愛いところがあるんですなぁ。」

「ちょっとやめてよ気持ち悪い言い方。」


 不貞腐れた晴の手を掬ってみたが振り解かれることはなかった。


 この時の私は知らなかった。

 まさか、先程会った相手のせいかおかげかで、晴との関係が一変するイベントが再び発生するなど。

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