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幼馴染の攻略がこんなに難しいなんて聞いてない!  作者: ぼんばん


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15.思い出②:透子視点

「あぁ〜。」

「何おじさんみたいな声出してるの?」


 私、こと山部透子は頭を抱えていた。

 先ほど、八草さんの陰謀により藤島さんと連絡先を交換してしまったのだが、彼は恐ろしい。


「聞いてください、美里さん! 藤島さん、私が美里さんとのお泊まり会ってことに気を遣って挨拶だけでメッセージ切ってくれたんですよ?!」

「……? 藤島さんは見た目や恋愛はアレかもしれないけど、普通に仕事のできるいい人だよ?」


 美里さんはさも当然、のように答える。

 実際にそれなりに紳士で、故に女性にモテるのであって。それは理解している。

 それと同時にある罪悪感が私を襲う。


「それにしたって根はいい人じゃないですか! 私はまた見た目ばかりで判断して、最低じゃないですか!」

「大丈夫、藤島さんは何しても大丈夫って晴が言ってた。」

「そっ……れは、八草さんも本人の目の前で言ってましたけど。」


 ああぁぁ、と声にならない声が私の口から漏れる。

 だけど、せっかくのお泊まり会だ。同じようなことを何度も悔いても仕方ない。

 まぁ、気に入らないのは変わらないけど。


「というか、藤島さんのことはどうでもいいんですよ! それより、美里さんと八草さんのことです。2人は今どういう状況なんですか。」

「え……えと。」


 聞いた話によると、美里さんが自覚したのは4月。つまりは大体3〜4ヶ月前くらいだ。

 正直、八草さんは高校生になった時点で内面がほとんど完成していた。高校では文系理系の選択も同じで3年間同じクラスという強さもあり、美里さんを我がものにしようとする男達を払い除ける弁術も持っていた。

 つまりは、すでに重い好意を持っていたのだ。

 私は、愛すべき美里さんを守ってくれるから助かっていたけど少しでも悲しませたら仕留めよう、そう考えていた。

 でも、周りから見ても明らかで、美里さんもたぶん自覚はしていないけど八草さんの側にいる時が1番可愛かった。


 そんな可愛い美里さんが八草さんを振り向かせるためにさらに努力しているとは。

 というか、それをスルーしている八草さんの目は飾りか! いっそ告白してくれればいいのに。

 聞いている間、何度あなた達は両想いだと言いたくなったことか。


 暫く話していると、美里さんは眠くなってきたのか、呂律が回らなくなってきた。

 電気を切ってしまえばすぐに寝息が聞こえる。相変わらずの寝付きの良さだ。


 私も借りた布団に横になる。

 今日はなんだか慌ただしい日だったせいか、なんとなく目が冴えてしまう。

 そういえば、私がこの2人と特に仲良くなったのっていつだったか。そんなことをぼんやり思いながら目を閉じた。






 そうだ。

 はじまりは文化祭だったか。

 当時、私は剣道部に所属していた。勉強は嫌いでなかったけど、あまり得意とは言えなかった。そのため、クラスメイト、特に仲の良かった美里さんを筆頭に一緒に勉強をすることが多かった。

 ただ美里さんと一緒にいるということは必然的に八草さんとも会うことになる。


 当時は八草さんはまだ成長期が来てなかったから声は少しだけ高く、身長も私より明らかに低かった。でも、足は速いし意外とパワーはあるしと、掴めない人だった。

 その文化祭までは胡散臭いチビくらいにしか思っていなかった。


 元々私は兄2人がおり、小さい頃から男勝りな性格だった。だけど、この頃は将来の夢はお嫁さん、なんてことも考えていたのだ。

 でも、小学校の頃に、同級生の男子からいわゆる好きな子イジメを受けた。


男女(おとこおんな)のお前にケッコンなんてムリだよ〜!』


 それがトラウマになって男の人が苦手になった。

 そして、私は髪を伸ばし始めた。少しでも女の子らしくって。でも、悲しいことにキリッとしたはっきりとした目だし、目つきも良くない。それに筋肉質だし、身長もメキメキと伸びた。

 私の理想の女性像からかけ離れていくのだ。

 そんな成長期の最中出会ったのが美里さんだ。ふんわりした髪に小柄な姿、ぱっちりとしているも目尻が優しく下がった幼なげな顔、のんびりとした性格。私の理想だ。運動は苦手だけどそれさえも愛らしい。


 そういえば、文化祭準備の時だったかな。八草さんの印象が変わると同時に、美里さんの強さを知ったのは。


 高校2年生の文化祭の時だ。

 いわゆる文化祭マジックというやつがあり、学校全体が浮かれていた。私もちょうど部活の大会明けであり、昨年は参加できなかった準備にも行けた。

 それで浮かれていたのかもしれない。


 クラスの買い出しの時だった。気は進まなかったが、男子と近くのホームセンターに行ったのだ。


「山部さん、部活忙しそうだよな。今回話せて良かったぜ。」

「別に普段も話さない訳ではないですし。」

「でも、いっつも九重といるじゃん。溺愛しすぎてて八草以外あそこに突入できねーよ。」


 まぁ確かにそれは否めない。

 他の女子と話す時は、流行りの話も多いし、美里さんと話す時はアプリやゲームをはじめとした雑談をしている。お互いの話が新鮮なもので意外と合うのだ。

 その盛り上がっているところに入ってこれるのは大抵の話題についてこられる八草さんくらいだった。


「それに変に突っ込んで妙なこと言うと、九重も一刀両断してくるしな。」

「そうですか?」


「そ。だから、山部に告白したくても近寄れなかった。」


 私の口から小さく、は、と声が漏れた。

 その男子は真剣な顔をしていたが、急に照れたようにへにゃりと笑って頭を掻いた。


「返事は急かさないからさ。良かったら、文化祭一緒にまわんね? 2人きりが嫌だったら九重とかも誘っていいからさ!」

「……はぁ。」


 さて帰ろうと男子に手を引かれる。

 人生はじめての告白に私はしおらしく口を閉ざすことしかできなかった。




 私は戻って美里さんに相談した。

 彼女ははじめはふぅん、と頷いて聞くばかりであった。元より恋愛話に興味関心を持つタイプではなかった。


「そういえば相手は誰?」

「えと、同じクラスの田山さんです。」

「……田山。」


 美里さんは一瞥すると声を潜めてきた。


「田山、あんまりいい噂聞かないよ。やめよ?」

「えっ。」


 思わぬ言葉に私は耳を疑う。

 滅多に他人のネガティブな評価を口にしない彼女がそう言ったのだ。

 しかし、当時の私は彼女の性質を知らなかった。人を見る目に優れた彼女の意見に疑いを持った。


「……美里さんは田山さんと仲がいいんですか?」

「噂、って言ったじゃん。少なくとも透子よりは知ってる。」


 この時の私はその言葉に大人気なくムッとしてしまった。たぶん、無意識のうちに彼女に嫉妬していた部分が出てきてしまったんだと思う。


「なら着いてきてもらわなくていいです。私がちゃんと向き合って判断します。」

「ちょっと!」


 私は準備を放ってそのまま教室を出て行った。




 文化祭当日。

 私は約束の場所で田山さんを待っていた。

 でも、一向に来ない。さすがに心配になってうちのクラスの出し物をやってる場所に向かおうとした。


 その途中、近道だと思い、人気のない部室棟を突っ切ろうとした。

 すると、何やら使われていない部屋から声が聞こえた。何となく息を潜めてしまった。

 小窓から覗くと、約束していたはずの田山さんが別のクラスの男子と話しているのが見えた。


「そういや、約束いいわけ?」

「ああ、いいっていいって。さっき待ち合わせ場所行ったんだけど九重来てなかったんだよな。」

「えぇ〜、オレも2年でも1、2位のモテ女と遊びたかったぜ。」

「オレも。じゃなきゃあんなゴリラ女誘わねーっつの。」


 話を聞いて呆然とすると同時に冷静な自分もいた。

 ああ、私は九重さんに不貞をするための駒だったんだって。画面を見ずにスマホの録音を開始した。


「ああ、九重もゴリラ女の誘いにはホイホイ乗るからそっちさえどうにかしちゃえば余裕って思ったんだけどな。」

「八草も絶対いいようにしてるぜ?」


 その後も好き勝手2人は言う。

 自分のことはどうでもいい。でも。



「いい加減にしてください!」

「うお!」



 私が勢いよく扉を開くと2人はギョッとした。

 もうどうなってもいい。私はヤケクソになって飛び出した。


「私はちょろくてもね、九重さんはしっかり見てましたよ。あなたがそういう人間って! そんな彼女が信頼している八草さんだって、貴方達にそんなこと言われる筋合いはないですよ!」

「山部、テメェ!」


 手前にいた男子が私の腕を掴む。

 もうこれなら正当防衛でどうにかなるか?

 私が掴まれた手を振り払おうとした時だった。下から人影が滑り込んだ。


「ちょっと〜、田山達さぁ。そういうのはないんじゃない?」

「テメ、八草! つーか力強!」


 八草さんの手の力がよほど強かったのか、驚いた男子は手を離した。


「お前には関係ねーだろ!」

「関係あるんだな、これが。」


 差し出したのは可愛らしいストラップのついたスマホ。見覚えのある、美里さんのものだった。

 その時の八草さんは笑っているけど目が笑っていない、凶悪な顔だった。


「これね、山部さんのスマホと通話中の美里ちゃんのスマホ。もちろん録音中だし、途中までは美里ちゃんも聞いてた。……それに、この写真。どう見ても君らが山部さんを襲ってるようにしか見えない写真があるわけだけど?」


 言外にどうする? と聞いていた。

 私はどうやら録音でなくうっかり通話をしていたようだ。特に通話をよくする美里さんのスマホに誤って、だ。

 男子がやり返そうと足を少しだけ踏み込んだのを八草さんは見逃さなかった。


「喧嘩しようと思ってるなら無駄だよ? オレも喧嘩強いし、それにこっちには剣道部エースがいるんだよね。それに、成績優秀なオレと部活の成績のいい山部さんの組み合わせ、そんでもって出席日数の少ない君ら、センセーはどっちを信じるかな?」


 どこからか持ってきた角材を私に渡す。

 あ、これドアを抑えるためのものか。

 ただ私は威嚇の意味を込めて、床を叩いた。2人は情けなく小さな悲鳴を上げた。


「さて、どうしますか?」

「「ごっ、ごめんなさい〜!」」



 本当に情けない。一瞬でもときめいてしまった自分が恥ずかしい。隣でその逃げ様に腹を抱えて笑っているのも如何とは思うが。

 私は出て行った2人の背中を見送り、八草さんに頭を下げた。


「ごめんなさい……。本当にご迷惑を。」

「べっつに〜。あの2人、人の悪口ばっかりやな奴だったし、オレもうぜーって思ってた。クラスの人も思ってたよ。」


 後腐れがないようにと気を遣ってくれているのはわかる。

 認めるのは癪だが、美里さんのことがなければ惚れていたかもしれない。いや、性格悪いしやっぱりないな。


「それより。」

「え?」


 彼が扉の外を指さす。

 顔を覗かせると、いつのまにか美里さんが廊下に座り込んでいた。私が出てきたことに気づくと涙目で睨みつけてきた。


「だから言ったじゃん、いい噂聞かないって! 私心配してたんだから!」

「……ご、ごめんなさい。」

「それは何に対するごめんなさい?」

「迷惑をかけて?」

「それじゃダメ!」


 ほおを膨らませた美里さんはプイッと顔を逸らした。

 え、何を怒らせてしまったんだろう。私が焦っていると、困ったように八草さんが笑っていた。


「山部さん。美里ちゃんはさ、心配をかけられたこともそうだけど、自分よりあんな奴らを優先されたことを怒ってるんだよ?」

「ちょ、晴!」

「なーに意地張ってんのさこのすっとこどっこい。何でこういう時だけ素直になれないかな。」

「すっ……?!」


 八草さんの重い音のデコピンを食らった美里さんはうめきながらしゃがんだ。

 でも、なるほど。やっと理解した。


「美里さん……。」

「う、透子。そういうこと、だよ。」


 私は感極まって美里さんを抱きしめた。涙が止まらない。


「ごめんなさい〜! 美里さん、大好きです〜! 愛してます〜!」

「……仕方ないなぁ。」


 美里さんは抵抗を諦めて背中をトントンと叩いてくれた。


「それに透子の魅力を知らないなんておバカな人たち。透子は透子のままでいいんだからね。」


 私は頷いた。

 それから私は2人と一緒に文化祭を回った。美里さんはずっと私の手を繋いでいた。八草さんは、時々羨ましそうにしていたけど我慢していた。たぶん、美里さんのことを想ってなんだろうけど、微笑ましくて何度か笑ってしまった。

 八草さんが脅した2人は卒業まで大人しく過ごしていたみたい。いや、何かしようとしたのかもしれないけど、あんな人たちが八草さんに勝てる訳ない。

 うん、この人と一緒なら美里さんも幸せになれる。

 私は勝手に認めていた。






 そうだ、それからは無理に女の子らしく、を止めた。髪を切って、より剣道に打ち込んだ。

 透子は透子のままでいい、本当にこの言葉に救われた。だから。


 私はのろのろと目を開ける。いつの間にか寝ていたらしい。

 鼻をくすぐるいい匂いがする。


「あ、起きた? 朝ご飯の準備してみた!」

「ご飯?!」

「へへーん、なんとなんと常備菜も作れるようになったんです!」


 最近料理を始めたと言っていたが、本当にメキメキと力を伸ばしているみたいだ。

 なんでこんな素晴らしいもてなしを受けて、美里さんに告白をしないんだ。八草さんの草食っぷりにはドン引きである。

 いや、でも大学の時の事件を八草さん本人から聞いた時はさすがの私も同情した。


 私は顔を洗って早速いただく。


「……、美味しいです!」

「よかったぁ。」


 彼女はふにゃりと笑った。


「これなら八草さんも一撃必殺ですね!」

「なんか違う気もするけど……うん。」


 首を傾げながらも嬉しそうに美里さんは笑う。


「美里さんは、美里さんのままでいてくださいね。」

「ん? 私は私だよ?」


 本当に変わらないな。

 私は少しだけ口角を上げると、2人の友人に幸あることを願うばかりであった。

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