表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女見習いと影の獣  作者: みなべゆうり
11. 堕ちた赤獅子

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/135

11-2

 久々に昇った眩しい朝日。

 静まり返った早朝の雪山に、鳥たちが極夜の終わりを知らせに飛び立つ。針山のごとく聳え立つ木々よりも遥か上、淡い晴天に舞う彼らの後を追えば、丘の上に立つこぢんまりとした家が姿を現した。

 その庭で、暁光をいっぱいに浴びては深呼吸をする黒髪の娘。

 彼女は赤く染めた鼻を擦りつつ、ちらりと背後の窓を覗き込む。中には未だ眠ったままの同居人がいた。彼女は優しく窓をノックして、爽やかな朝の訪れを知らせる──なんてことはせず。


「でぇい!!」


 勇ましい声と共に、振り下ろした斧で薪をかち割った。

 手強い薪が何度目かの振り下ろしで気持ちよく半分に割れれば、すぐさま次の薪を用意して同じように斧で叩き割る。


「お師匠様ぁーっ!! 起きてぇー!! 朝ぁー!!」


 薪割り、朝の運動、師匠の目覚まし。一石二鳥どころか三鳥である。呼び掛けに併せて斧を振りながら、最後の薪を無事に割ったところで、勢いよく窓が開いた。


「あ、お師匠様おはよう」

「おはようじゃねぇよ。山の動物全部起こす気か騒がしい」


 起床を余儀なくされた師匠ヨアキムは、元気すぎる弟子にげんなりとした顔で抗議する。それを知りつつも薪を拾う手は止めず、リアはあっけらかんと笑ったのだった。



「──そもそもお前な。自分の方が少し早く起きるからってわざわざ俺を起こすな。誤差の範囲で俺を寝坊と見なすな」

「えー、だってお師匠様、たまにお酒飲んで全く起きないときあるんだもの。精霊術師にあるまじき生活習慣だから、大巫女様からも注意するよう言われてるだけよ」

「あのクソアマ」


 朝食の前に薪棚の整理に取り掛かったリアは、今しがた割った薪を左端から積んでいく。

 二年前に修行の旅へ発つことが決まった際、冬支度にとリアが薪を割りまくったのだが、それらがちょうど乾燥期間を終えた頃だろう。すぐに使える薪は家の裏口まで運んでおくかと手を伸ばした矢先、師匠が先んじてそれを腕に抱えた。


「オーレリア、お前まだあのいけ好かん男と文通してんのか」

「え? エドウィン? うん」


 メリカント寺院、光華の塔で起きた急襲事件から早ふた月ほど。アイヤラ祭が(つつが)なく終わりを迎えた一方で、キーシンの残党の追跡は今もなお行われている。

 クルサード帝国のサディアス皇太子は、エルヴァスティの最高顧問である大巫女ユスティーナを伴って帰国。皇帝シルヴェスター、メイスフィールド大公デリック、べドナーシュ共和国の元老院議員も同席する合同会議にて、キーシンの完全鎮圧に尽力することが正式に決まった。

 そして──彼らに加担していると見られるエルヴァスティ王国の大罪人も、大々的に捜索することになったそうだ。

 祭りの終わりと同時に大公国へ戻ったエドウィンからの手紙には、親切なことにそういった各国の動きも添えられていた。


「そういえばそろそろ返事来るかも! 今度は何の話しよっかなぁ」

「はー……」

「え、何、お師匠様」


 もう一度だけ盛大な溜息をついたヨアキムは、何も答えることなく家の方へ向かってしまう。リアは眉根を寄せつつも、薪棚の整理もそこそこに師匠の後を追った。

 そのとき。


「ヴィレンさーん、おはようございまーす」


 門の鐘が引き鳴らされ、のんびりとした挨拶が投げ掛けられる。師匠を見遣れば、犬を追い払うかのような仕草で手を動かした。

 リアは駆け足で家の正面口へ回り、そこで馬の荷をほどいている最中の商人に駆け寄る。


「わー! やっぱりマルコさんだった!」

「リアちゃん、久しぶりだねぇ。しばらく見ないうちに綺麗になって」


 人当たりの良い笑顔を浮かべてリアの頭を撫でたのは、行商人のマルコだ。

 ヨアキムが作る薬を買い取って各所に卸している男で、温厚そうな顔に似合わず商売上手だと聞いたことがある。職業柄、師匠とは昔からの付き合いだそうな。

 もちろん長い間この家で暮らしているリアも、彼とはよく顔を合わせていた。幼い頃、彼の取り扱う商品を見せてもらったのは良い思い出だ。


「ちょいと早い時間に着いちまったが、ヴィレンさんは起きてるかな」

「起きてるよ。さっき大声で叩き起こしたから」

「ははは、相変わらず仲良しだね。っと、そうだ。寺院から預かってきたんだけど、リアちゃん宛てだよ」


 マルコはおおらかに笑うと、懐から一通の封筒を差し出す。反射で受け取ったリアは、差出人の名前を見てパッと笑顔を咲かせたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ