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魔女見習いと影の獣  作者: みなべゆうり
10.掴めぬ影

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10-4

 老若男女がひしめく大広間、ちらちらと周囲から寄越される視線をものともせず、目の前にいる黒髪の娘にだけ意識を注ぐ青年。

 一際目立つ容姿をしているばかりに、偶然、たまたま、運悪く、視界に入ってしまった。ダンスが始まったらさっさと寺院に戻ろうと思っていたのだが、やはりあの優男が妙な真似をしないか監視しておく必要があるかもしれない。


「あー……近くねぇか。近いな。近過ぎるわ。もっと両腕伸ばして距離取れよ。そろそろ炙るぞ」

「うるさい奴よのう。親バカも度が過ぎると鬱陶しいわ」


 二階のテラスから殺気に満ち溢れた顔でホールを見下ろすヨアキム。その傍らで呆れ返っているのは言わずもがな、大巫女ユスティーナだ。

 そしてもう一人、友人を嬉々として着飾った張本人であるイネスが、苦笑いを浮かべ立ち尽くしていた。


「いい加減そこで屍人のように張り付くのはよさんか。──自分でゼルフォード卿にあの子のことを頼んだくせに」

「黙れ、完全に血迷ったと後悔してんだよ今」


 今朝方オーレリアを寮の部屋に放り込んだ後、ヨアキムは露骨に嫌そうな顔をしたままエドウィンの元へ向かった。

 皇太子への報告を終えたところだった彼に対し、依然として顔面を歪めていたヨアキムは、錆び付いた口を動かして告げたのだ。

 ──弟子が祭りに行きたがってるから、お前が近くで見ておけ、と。

 光華の塔を占拠していたキーシンの戦士をほぼ一人で撃退したことは勿論、あの青年には精霊術をも弾く()が味方している。

 昨夜の騒動で手も足も出なかった身としては非常に情けなく思う反面、安堵にも似た気持ちを抱いたことは確かだった。

 彼なら、オーレリアの背負う悲運を軽くできるかもしれない。

 無論、そんな期待が芽生えたことが腹立たしくもあるために、未だに子離れできない面倒な親父みたいな言動を続けてしまってはいるが。


「……ふむ。私は良いと思うのだがな。愛し子の宿命をゼルフォード卿に告げたとき、驚いてはおったが……怯えは一切見えなかった」


 つたないダンスをしながら笑うオーレリアを見下ろし、ユスティーナは憂鬱げな溜息をつく。


「まぁ、目下の急務は精霊よりも──ダグラスの四肢を捥ぐことか」


 賑やかな宴にそぐわぬ険悪な表情を滲ませた大巫女は、底冷えする声で呟いた。

 周囲を好んで漂っていたはずの火の精霊が、彼女の放つ怒りを敏感に察知しては逃げていく。

 後方でイネスが驚いていることを知りながら、ヨアキムは旧知の精霊術師を横目に見遣った。


「皇太子には話したのか?」

「ああ。名前も素性も書類にまとめて渡してやった」


 ──見つけ次第殺せとの文言を添えてな。

 ユスティーナは平坦な口調で告げると、二人の若者を一瞥して立ち去った。

 大巫女の気迫に戦いたのか、付いて行くべきところをイネスはその場から動けずにいた。


「おい、イネス」

「あ……あの、ヨアキム様。何故ユスティーナ様は……あれほどまでにダグラスを……?」


 戸惑いを多分に含んだ問いに耳を傾けながら、ヨアキムはどう説明したものかと眉を顰める。

 例えこの娘がユスティーナの一番弟子であり、次代の大巫女に最も近い位置にいるとはいえ──この件に関しては大っぴらに言ってよいものではなかった。

 だが、敢えて彼女が納得できるような説明をするならば。



「……俺たちが情けをかけた結果が、昨日の騒動だからだ」



 あの男を捕らえた日。即座に刑を執行しなかったのは、ひとえにヨアキムとユスティーナの甘さが理由だった。

 奴が牢獄から脱したという報告を受けた日。エルヴァスティからの永久追放にかこつけて追跡をしなかったのも、また然り。

 あの男にほんの少しの期待をかけ、二度と東の地を踏まないでくれと願い──奴は見事にそれを打ち砕いた。


()()なんざ使う野郎に、人の心を期待した俺たちが間抜けだったってことだ。……だからあいつの対応は、あれで正解だな」


 そう、正解のはずだ。

 ヨアキムは再び大広間に視線を戻し、ようやくマシな踊りになってきた弟子の姿を眺める。

 ついこの間まで薬草を気軽にぶちまけたり家で精霊術を暴発させたり陶器を己のノルマのように破壊していた小娘は、気付けば随分と大きくなっていた。

 愛し子という枷はあるものの、二年も光華の塔無しで旅を続けられたのだから、精霊術を扱う上では立派になったと言えよう。

 もはやあの小さな手を引く役目が自分にないことも、薄々分かって──。


 そのとき不意にオーレリアが躓き、咄嗟に反応したエドウィンが彼女を抱き止める。


「おいおいおい待て優男コラァ! わざと足引っ掛けただろ今!」

「よ、ヨアキム様落ち着いてください! 皆が驚きますから!」


 幸い当人たちに親バカの叫びは届かなかったが、近くで踊っていた若者たちからはドン引きの視線を浴びたのだった。



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