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魔女見習いと影の獣  作者: みなべゆうり
4.用法用量を守ったお付き合い

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29/135

4-3

 ──国立図書館へ続く廊下を、リアはうんうんと唸りながら進む。

 思考を整理するため顔を洗ってみたが、思うように気分は晴れなかった。それどころか地図で確認したバザロフという地名が、未だ頭の中を我が物顔で占領している。


「……リア、どうしたのですか?」


 やがて見兼ねたエドウィンが、隣からそっと声を掛けてきた。

 思案顔で彼を見上げてみると、昼の暖かな陽射しを浴びて輝く藍白の髪が眩しい。更に目を眇めることになったリアは、そのまま「それがね」と口を開く。


「大公国の北の方にあるバザロフっていうところ、お師匠様から行くなって言われてたのを思い出して。エドウィン、どんなところか知らない?」

「バザロフですか……」


 エドウィンが顎に手を当てて考え込む姿の奥、数人のメイドが庭園の掃除を中断してはしゃいでいる。言うまでもなく彼女らの視線は麗しい貴公子に釘付けで、よく見れば自分には嫉妬の視線がグサグサ刺さっていることにも気付いてしまった。

 今更ながらこんな美青年を伴って歩いて良いのかと、リアは深刻な表情で冷や汗をかき。ついでに昨日の夜のことも思い出してしまい、慌てて頬の熱と後ろめたい気持ちを拭い落とした。

 やっぱりこの人いい匂いしたな、などと考えつつ。


「あそこにはキーシンの古い遺跡があると聞いたことがありますね」

「えっ、遺跡?」

「はい。太古の遺産として保存すべきということで、皇帝陛下が封鎖を命じられたとか」


 キーシンの民にとっても非常に歴史ある遺跡だったようで、かの地が戦場になったことは一度もないとエドウィンは語る。

 バザロフに何かしら宗教的な意味合いが込められていることは明白としても、師匠は何故そのような建物に注意を促したのだろう。さすがにリアだって、皇室や大公家の監視下にある遺跡に不法侵入などしないというのに。

 それともバザロフの遺跡には、精霊に関わる何かが──?


「……!」


 そのとき、リアの耳に高く澄んだ音がふわりと届く。

 鈴の音に似たそれを聞き捉えた彼女は、ぱっと表情を華やがせて廊下の脇道へ飛び込んだ。エドウィンが驚いて目を丸くする傍ら、リアは人目がないことを確認して瞑目する。


「お師匠様からの返事ね? 聞かせて」


 そっと囁けば、淡い翠色の光が足元に集い、螺旋を描きながらゆるやかに舞い上がった。

 幻想的な光がリアたちや柱の影を伸ばし、じわりと溶けて消える頃。


『──あー、あー、都会の男に騙された哀れな馬鹿弟子に告ぐ。見るからに危険だと分かる呪いに自ら関わるアホがあるか』

「何だとこのっ」


 ようやっと届いた師匠の返事に喜んだのも束の間、リアは相変わらずな物言いに虚空を蹴り飛ばす。しかし彼女の反応が伝言に影響を及ぼすはずもなく、風の精霊が運んできた声はなおも言葉を続けた。


『と言ってもお前は既に呪いを解くために、精霊術をぽんぽん使って協力してんだろうよ。取り敢えず次会ったら覚悟しておけ』

「えぇ……どうしようエドウィン、お師匠様めっちゃ怒ってる……」

「あ、ええと……僕も一緒に謝りますので……」


 風相手に突然一人で暴れ始めたリアの肩を捕まえつつ、エドウィンが戸惑い気味に言う。

 一方、くどくどと説教を終えた師匠は、長く盛大な溜息の後で本題へと入った。


『その呪いは水の精霊だけじゃ抑えきれん。四つまとめてアミュレットを作って渡せ。耐えられるジェムストーンがなければ解散、諦めて大人しくしてろ』

「ん、ま、待て待て待て、一気に言わないでよ」

『最後に。大巫女(おおみこ)がお前を心配してる、エルヴァスティに一旦帰れ』


 伝言を終えた風の精霊がふわりと離れ、窓硝子をすり抜けて外へと逃げる。それを呆然と見送ってしまったリアは、少しして我に返った。

 ──お師匠様、大公家の呪いについて知ってるんだわ……!

 だが対処法は教えても、その正体をリアに教える気はなさそうだ。それだけ危険な呪いなのか、はたまたリアでは太刀打ちが不可能なのか。

 とにかく師匠から言われた通りにアミュレットを作ってみるべきだろう。少々骨が折れるが、世界の理を司る土・水・風・火の四大精霊全ての力を借りて、一つのジェムストーンに加護を与える──。


「って、そんなこと出来るのお師匠様と大巫女様ぐらいじゃない……?」


 はたと気付いた残酷な事実に、しかしリアは大きくかぶりを振った。

 行動する前に諦めても良いことは一つもないのだと言い聞かせ、リアはくるりとエドウィンを振り返ったが、彼は彼で少しばかり呆けてしまっている。


「あれ、エドウィン? どうしたの?」

「……リア、大巫女様というのはもしや……エルヴァスティの最高顧問ユスティーナ様のことでは?」

「ん……と。そうね、王様の相談役の」


 平然と頷けば、エドウィンはさっと顔を青褪めさせたのだった。



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