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48.愕然とする王子

 一夜が明けた王宮は、上を下への大騒ぎだった。


 キース・サリヴァン前公爵と、その執事であるグリシャ・スチュアートは投獄され、ルーカスの暗殺未遂事件と、六年前のブレイク王太子暗殺事件の真相が明らかにされた。長らく犯人とされていたチャールズ第二王子の汚名は返上され、ルーカスは漸く肩の荷が下りた心地がしたのだった。


 王弟であるジェームズ・サリヴァン公爵も取り調べを受けたものの、全ての事件はキースとその周囲の企みによるものであり、ジェームズは無関係であった事が証明された。優しい叔父が事件に関わっていなかった事に胸を撫で下ろしたルーカスだったが、当の本人は預かり知らぬ事とは言え、義父が起こした事件の動機に自分が絡んでいたと知って責任を感じており、王位継承権を完全に放棄した上で、自主的に謹慎生活を送っている。宰相であるジェームズの不在は痛手ではあるものの、その穴は部下達とルーカスで何とか埋められている状態だ。ジェームズ自身に罪は無いのだし、アーサーの勧めもあるのだから、近いうちに謹慎を解いて出仕して来る事だろう。


 事件の後処理をしながら叔父の代理を務め、目が回るような日々が続いていたルーカスだったが、漸く後処理もほぼ終わり、宰相代理の仕事にも慣れ、ここ最近は平穏な日々が戻ってきている。


「チャールズ兄上の名誉を回復できたのも、ルナが頑張ってくれたお蔭だ。ありがとう」

 宰相代理として書類に判を押しながら、ルーカスが礼を言う。


「いいえ。全てはルーカス殿下が、お兄様を信じ、決して諦めなかったからです」

 ミルクティーを差し入れながら、ルナは微笑みを浮かべた。


「……ところで、レイヴン様は、どのような処分を受けるのでしょうか」

 幾らか不安げな表情を浮かべたルナに、ルーカスは目を伏せた。


 あの夜、キースに魔石で返り討ちにされ、重傷を負ったレイヴンは、キース達と共に身柄を確保された。今は魔力を封じる魔石を使った手錠を嵌められ、王宮の地下牢に入っている。

 一族の復讐を誓い、ただそれだけの為に生きてきたようなレイヴンだったが、一族を滅ぼした復讐すべき真犯人に、知らぬ間に加担して良いように使われていた。当人にとっても、その事は相当ショックだったようで、今は全てを諦めて投げやりになっているような状態で日々を過ごしているらしい。

 キースに雇われたとは言え、レイヴンが人を殺め、王太子の暗殺を謀った実行犯である事には変わりがない。通常ならば死罪だろう。

 だけど。


「……普通に考えれば死罪だろうけど、レイヴンが俺達に協力してくれたお蔭で、事件が早期解決できたのは確かなんだ。レイヴンだって、ルナと同様に、その力を正しい道に使う事ができれば、強力な味方になってくれると思う。父上だって、それを分かっていらっしゃる筈だ。きっと、悪いようにはならないよ」

 ルーカスはそう告げて、ミルクティーを口に含んだ。


 レイヴンが処刑されれば、ルナは悲しむだろう。名ばかりの許嫁とは言え、たった二人だけの一族の生き残りで、幼馴染なのだから。

 それにルーカスだって、人が死ぬのは嫌なのだ。たとえそれが、自分の命を狙ってきた相手であろうとも。

 ルナのように、レイヴンを助命できないか。ルナが例外中の例外である事は知りながらも、父王に掛け合っている。ルナの時とは罪状がまるで異なる事は分かってはいるが、きっと良い判断をしてくれると、今は父王を信じる他ない。


「申し訳ありません。出過ぎた事を申しました」

「いや、ルナはレイヴンとは幼馴染なんだから、気になっても仕方ないさ」


 ルナを元気付けるようにルーカスが微笑んだ時、ノックの音が響いて、ロバートが入室して来た。

 因みにロバートは、あの夜、夜勤中に他の人々と同様に何時の間にか眠らされていただけだったそうだ。無事で何よりである。


「ルーカス殿下、国王陛下がお呼びでございます」

「分かった。すぐに行く」


 きっと間近に迫ってきた王宮主催のパーティーの打ち合わせだろう、と予想をしつつ、ルーカスはルナを振り返る。


「ルナが居てくれて、本当に良かった。ありがとう。これからも、ずっと俺の側に居てくれないか?」

「……ルーカス殿下……」


 肯定の返事を期待していたルーカスだったが、ルナは戸惑ったように視線を彷徨わせている。返事をしないルナの様子に不安が過ぎり始めた時、自身の台詞に思い至って、ルーカスは顔を赤らめた。


(これ、まるで俺がプロポーズしているみたいじゃないか!?)


「あ、いや、あの、ルナ! 側に居てくれって言うのは、そういう意味じゃなくて、あっでもそういう意味でも嬉しいけど……ってそうじゃなくて!」

「……そういう意味、とはどのような意味ですか?」

 真顔で首を傾げるルナは、そちらの可能性には思い至っていないらしい。


「あ、いや、何でもない……」

 一気に脱力したルーカスだったが、それなら何故返事が無いのか、と徐々に青褪めてきた。


「ル、ルナ、もしかして、俺の側に居るのは……、嫌、なのか?」


 ここで肯定されてしまったらショックで寝込んでしまいそうだ。ルーカスが泣きそうな気分になっていると、ルナが即座に口を開く。


「嫌だなどとんでもない! ルーカス殿下にお仕えできて、私は本当に光栄で幸せなのです! ……ですが、ずっとお側でお仕えする訳には……。そろそろ、結婚相手を探せと母にせっつかれておりますもので」

「け、結婚!?」


 予想外のルナの言葉に、ルーカスは目を見開いて、愕然としたのだった。

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