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46.戦う王子

「死ね!!」

 目の前に迫るレイヴンの刃に、ルーカスが硬直したその瞬間。


「ガハッ!?」


 ルーカスの胸元が光ったかと思うと、レイヴンの首から鮮血が噴き出した。堪らずレイヴンは首を押さえて後退り、ルーカスから距離を取る。


「何しやがった、王太子……!!」


 憎々しげにルーカスを睨み付けるレイヴンの流血は、早くも止まりかけている。恐らく、ルナのように身体強化魔法を応用しているのだろう。


「攻撃を相手に跳ね返す魔石を、アルフレッドから渡されていたんだよ」

 ルーカスは急いで自らの周囲に結界を張り直してから答えた。


 危ない所だった。結界を張り直す暇も無かった。アルフレッドから新たに渡されていた魔石が無ければ、こちらが首を切られて一巻の終わりだっただろうと、ルーカスは肝を冷やす。


「チッ……。念には念を入れてやがったのか。だがその魔石は貴重な上、効果は一度きりの筈。俺に傷を負わせたその報いは受けてもらうぞ!!」


 短剣を握り直し、再び結界を切り付けて来るレイヴンの傷は、既に塞がっている。レイヴンの言う通り、魔石の効果は一度きりなのでもう使えない。次に結界が破られてしまえば、今度こそ切り付けられて終わりだろう。


(次に結界を破られてしまったら、もう攻撃を跳ね返せない……! どうしたら良い……!?)

 焦るルーカスの脳裏に、その時、ある考えが浮かんだ。


(少しで良い! レイヴンの動きを止められれば……!)


 ルーカスは再び結界を刺状に変形させてレイヴンを攻撃するが、レイヴンはそれを掻い潜りながら、結界の一点を正確に攻撃してくる。結界にひびが入ったその時、ルーカスはタイミングを見計らって、自ら結界を解いた。


「!?」

 結界を破壊しようとした追撃が空振りし、レイヴンは一瞬バランスを崩す。


(今だ!!)

 ルーカスは残りの魔力をありったけ注ぎ込んで、新しい結界をレイヴンの周囲に張った。


「!? 何の真似だ、王太子!」


 一瞬戸惑ったものの、所詮は結界だと、レイヴンは短剣を結界に突き立てる。だがその瞬間、レイヴンの左腕に痛みが走り、血が吹き出たのだ。


「何だ、これは……!?」


 すぐさま身体強化魔法の応用で止血したレイヴンは、まさかと思いながら、今度は素手で結界を殴り付ける。すると肩に殴られたような痛みを感じた。


「クッ……!!」


 顔色を変えて睨み付けてきたレイヴンは、どうやら結界の効力を悟ったらしい。肩で息をしながらレイヴンの様子を窺っていたルーカスは、上手くいったようだと胸を撫で下ろした。

 攻撃を防御するのではなく、その攻撃を利用して、そのまま相手に跳ね返す結界。これまでのように自分の周囲に張っても良かったのだが、それだけではレイヴンに勝つ事はできない。外側と内側を反転させ、レイヴンの周囲に張ってしまえば、そのままレイヴンを閉じ込める事ができるんじゃないか……。

 そんなルーカスの思惑は、見事に当たったのだった。魔力はごっそりと持って行かれたが。


ガッシャアァァァン!!

「ルーカス殿下!! ご無事ですか!?」


 耳をつんざく音と共に、する筈の無いルナの声がして、ルーカスは驚いて振り向く。大広間のバルコニーの窓を突き破って入って来たのは、紛れもなく、ゴードン伯爵領に帰っている筈のルナだった。


「ルナ!? 領地に帰ったんじゃなかったのか!?」

「帰りましたとも。母の無事な姿を確認して、事故の知らせは私達を王宮から遠ざける為の罠だと気付き、大急ぎで引き返して来たんです。馬車よりも脚力を強化して走った方が速いですから、父と兄は置いて来てしまいましたが。それよりも……」

 息を切らしながら答えたルナは、レイヴンに視線を移して、目を丸くした。


「……レイヴン様を、捕らえられたのですか?」

「あ……ああ。何とかな」

 疲労困憊で、魔力切れを起こしかけていたが、ルーカスが笑顔を作ると、ルナは目を輝かせて笑顔を見せた。


「凄いです、ルーカス殿下!!」


 珍しく満面の笑みを見せてくれたルナに、ルーカスは相好を崩す。尊敬の眼差しで褒めてくる、ルナの屈託のない笑顔を目にして、疲労が一気に吹き飛んだような気がした。


(……本当に、笑うんだな)


 ルナの笑顔を見ながら、レイヴンは愕然としていた。

 子供の頃から、まるで貼り付けたかのように、常に無表情だったルナ。そのルナが、今まで自分に見せた事の無かった、眩しい程の笑顔を、他の男に向けている。

 許嫁の、自分ではなくて。


(……ッ!!)

 何故か胸の痛みを感じて、レイヴンは唇を噛み締めた。


「レイヴン様、お伺いしたい事がございます」

 気付けば、真顔に戻ったルナが、結界を隔ててレイヴンの目の前にまで来ていた。


「レイヴン様の雇い主は、どなたですか?」

「フン! 俺が依頼主の情報を、易々と漏らすとでも思っているのか? 裏社会でモルス一族が名を馳せた理由の一つが、秘密厳守による信用度の高さだ。お前が知らない筈があるまい」

 どんな拷問を受けようとも、相手がルナだろうと、決して口を割る気など無かったレイヴンだったが。


「レイヴン様……。私は六年前の王太子暗殺事件で、モルス一族が滅ぼされた経緯に、一つ疑問があるのです」


 ルナの口から明かされる、六年前の王太子暗殺事件の経緯と、ルナが抱いたたった一つの疑問。それは、レイヴンの心を大いに揺らがせるのに、十分過ぎる内容だった。

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