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45.襲撃された王子

 その夜。


(何か起こるとしたら、今夜だろうな……。ゴードン一家が不在のこの時を、レイヴンが逃すとは思えない……)


 ベッドに入ったルーカスだったが、レイヴンの襲撃を気にするあまり、なかなか寝付けそうになかった。ごろりごろりと寝返りばかり打ち、ちっとも眠気が訪れないまま、時間ばかりが過ぎていく。


 体感的に、日付が変わった頃だろうか。目を瞑って寝る体勢を取っていても、全く眠れないでいたルーカスは、不意に眩しい光を感じた。


(レイヴンか!?)


 魔石が放った光に反応し、咄嗟に結界を張ったルーカスは、飛び起きて周囲の状況を窺った。だがレイヴンの姿は見当たらない。部屋の中は変わらず静まり返っていて、異変も感じられないのに、魔石は光り続けている。


(どういう事だ……?)


 部屋の外の様子を見に行こうかと、ルーカスがベッドを下りた時、コンコンとノックの音が響いた。


「失礼致します! ルーカス殿下、ご無事ですか!?」

 入って来たのは護衛騎士のロバート・ウォードだった。何故かハンカチを口に当てている。


「ロバート? どうしたんだ? 何かあったのか?」

「それが……」


 ロバートは困ったように、部屋の外に視線を移した。ルーカスが部屋を出て見てみると、夜勤の騎士や魔術師達が、廊下に倒れて眠りこけている。


「どうやら、眠気を催す香か何かで、何者かに眠らされたようです。ルーカス殿下、ここは危険です。安全な場所までご案内致します」


 ロバートに促されたルーカスは、結界を張ったままその後に付いて行く。廊下や階段でも、所々で見回りの騎士達が眠りこけていた。


(これだけの人間が眠らされているっていう事は、随分広範囲で強力な香が使われたんだな……。あれ? でも待てよ……?)

 ルーカスは先を行くロバートに声を掛ける。


「ロバート、お前は大丈夫なのか? 俺は結界を張っているから平気だけど、これだけ多くの人が眠らされている中、良く俺の部屋まで来れたよな。残り香を吸ってしまっていないのか?」


 ルーカスとしては、純粋に疑問に思い、また心配しての発言だったのだが。

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべながらロバートが振り返ったかと思うと、ルーカスは結界ごと蹴り飛ばされたのだ!


「!?」

 結界を破壊され、大広間の扉を突き破って床を転がされたが、咄嗟にブライアンに叩き込まれた受け身を取ったお蔭で、ルーカスは無事だった。


「チッ、並の奴らなら一撃必殺の蹴りだってのに、ピンピンしていやがる……。それに、意外と頭が回るじゃねえか」

 ルーカスを睨み付けながら大広間に入って来たロバートが変装を解くと、全身黒ずくめのレイヴンが現れた。


「レイヴン……!!」

 ギリ、とルーカスは歯を食い縛る。


「心配しなくても、俺は魔法を使えば、息を止めていても暫くは動ける。そもそも毒の類には慣れているしな。あいつらみたいに無様におねんねする羽目にはならねえよ」


 言い終わるが早いか、短剣を抜き放ったレイヴンがルーカスを襲う。だがルーカスの新たな結界がそれを阻んだ。


「チッ……! 相変わらず無駄に丈夫な結界だな。だが何時までもつかな!?」


 繰り返されるレイヴンの攻撃は、正確に結界の一点のみに集中している。頑丈なルーカスの結界でも、全く同じ一点に集中砲火を浴びれば、そこからひび割れが生じてしまう。


「クッ……!」


 このままではまずいと、ルーカスは結界の一部を刺状に変形させてレイヴンを狙った。だが、飛び退いたレイヴンにあっさりと避けられてしまう。


「同じ手が何度も俺に通じると思うな」

「……なら、これならどうだ!?」


 ルーカスは結界をハリネズミ状にし、次々に刺を伸ばすが、レイヴンには躱されてしまう。だが、そのお蔭でレイヴンが攻撃しにくくなったのは確からしい。攻撃の手が緩んだのを見計らって、ルーカスはレイヴンを問い質す。


「おい、本物のロバートは何処だ!? 無事なんだろうな!?」

「フン。この状況で、相変わらず人の心配か。……そう言えばあの時、お前は俺とルナが許嫁だと認めないとかほざいていたな。人の許嫁に横恋慕しやがって。鬱陶しい。お前は俺があの世に送ってやる」


 睨み付けてくるレイヴンの眼力が更に鋭くなったかと思うと、凄まじい攻撃が開始される。刺を掻い潜って結界を切り付けて来るレイヴンに、ルーカスは更に結界を変形させて応戦する。


「ルナに訊いたら、お前とは名ばかりの許嫁だと言っていたぞ。お前の事も、好きでも何でもないってな!」

 ルーカスの言葉に、レイヴンの顔が僅かに歪む。


「……それがどうした。たとえ俺を好きでなくても、ルナが俺の許嫁である事には変わりがない」

「お前なんかにルナを渡して堪るか! そもそも、お前はルナの笑顔を見た事があるのかよ!」

 その言葉は衝撃だったらしく、レイヴンは目を見開いた。


「ルナの笑顔、だと……?」

「そうだ! 子供の頃から、モルス一族で、ルナは辛い思いばかりしてきたんだ。その所為で表情が乏しいけれど、最近は漸く笑顔を見せてくれるようになったんだ! お前はルナを笑顔にできるのか!? ルナを幸せにできるのかよ!?」

「……!」

 レイヴンが無言で唇を噛む。


「できないだろうな! ルナを物扱いするお前には! ルナにだって意思があるんだ! それを無視して、ルナを従わせようとしかしないお前になんか、絶対にルナは渡さない!!」

「……このクソガキが……! 調子に乗るな!!」


 怒りを露にしたレイヴンの攻撃が、ルーカスの結界をひび割れさせる。続けて同じ場所に追撃を受け、あっと思った時には、ルーカスの結界は破られてしまっていた。

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