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43.考える侍女

 日が暮れた頃、漸く時間ができたと言うアーサーに呼ばれ、ルーカス達は国王の執務室に来ていた。


「ルナ、身体はもう良いのか?」

「はい。ご心配には及びません。明日になれば、魔力もある程度回復している事でしょう」

 厳しい表情をしていたアーサーは、ルナの返答に、僅かに安堵した様子を見せた。


 昨夜のレイヴンの件については、早朝にオースティンがアーサーに報告していたという事もあり、今はルーカスだけでなく、アーサーとオースティンも、身の危険を知らせる魔石を身に着けている。


「ルナ、其方を呼んだのは他でもない、レイヴンについて知っている事を詳しく教えて欲しいのだ。こちらとしても、ただ襲撃を待つだけでなく、何か対策を取れないものかと思ってな。性格や思考等何でも良い。石橋を叩いて渡るタイプか、それとも危ない橋と分かっていながらでも渡るタイプなのか、それを知るだけでも、相手方の今後の動向を推測する上で役に立つと思うのだ」

 アーサーの言葉に、ルナは頷く。


「そうですね。レイヴン様はどちらかと言うと、石橋を木っ端微塵に破壊して、自力で向こう岸まで跳躍して渡るタイプ、と言った所でしょうか?」

「何だその分かりづらい例えは!?」

 ルナの例えに、ルーカスが思わず大声を出す。


「成程。用心深い上に、他人を全く当てにせず、自分の力だけで全てを成し遂げる性格、という事か」

「分かるのかよオースティン!?」


 オースティンの言葉にこくりと頷いたルナを見て、ルーカスは目を剥く。血が繋がっていないとは言え、流石は親子、と言った所だろうか。

 ちゃんとお互いを分かり合っているようで、何だかちょっと、いや大分……正直かなり羨ましい。


「慎重で、念には念を入れるお方ではありますが、ご自分の腕には絶対の自信を持っておられます。襲撃を行う場合は、あらゆる事態を想定し、確実に仕留める手段を講じられるので、仕損じる事は滅多にありません。今は王宮に侵入された直後という事もあって、こちらも警備を増強し、厳重に警戒していますので、多少様子を窺っている所だろうとは思いますが、こちらが隙を見せるような事があれば、絶対に逃さないお方です」

「……そう言えば、視察の帰りに襲われた時も、ルナが庇ってくれていなかったら、確実に殺されていたな。あの時は、こちら側にルナが居る事を知らなかった、レイヴンの計算外だったって事か」

「恐らくは。私も、自分以外にモルス一族の生き残りが居るとは思っていませんでしたから」


 騎士達が護衛してくれている馬車に猛スピードで突っ込んで来て、扉を破壊した挙句、中にいる標的を手に掛ける。こんな奇想天外な襲撃を、たった一人で実行に移してきたのだ。レイヴンの実力が恐ろしくなり、ルーカスは震えそうになる拳に力を込める。


「……あいつは、次はどんな手を使って来るのかな」

 硬い声でルーカスが尋ね、ルナは暫し考える。


「……申し訳ございませんが、そこまでは私も分かりかねます。幼い頃から実力がずば抜けていたレイヴン様の言動は、時に一族も驚く程突飛な事がありましたので。あれから更に力を付けられたレイヴン様の行動は、私の予想を軽く超えていると思われます。現に、視察帰りの際の襲撃などは、本来ならば一族の中から腕利きの者を何人か集め、役割分担をした上で挑むような任務になっていたと思いますが、レイヴン様は、それを一人で成し遂げようとされてしまいましたし」

「ルナでも予想が付かないのか。厄介だな……」


 ルーカスの呟きを最後に、執務室は沈黙に覆われ、重苦しい空気が立ち込める。


「……こちらがわざと隙を作り、そこを狙わせるのはどうだ? 例えば、一人でいると見せかけて、その実周囲は姿を隠した大勢の騎士達が取り囲んでいる、とか」

 アーサーの提案に、ルナは難しい顔で考え込む。


「たとえ姿を隠していたとしても、人の気配まで隠せなくては、レイヴン様にはこちらの策が筒抜けになるでしょう。レイヴン様は常にこちらを虎視眈々と窺っているでしょうから、策を講じている段階で嗅ぎ付けられる恐れも考慮すれば、あまり効果は期待できないかと思います」

「そうか……」

 アーサーは小さく溜息をついた。


「……取り敢えず今言える事は、魔石に常に注意を払い、決して一人にならない事でしょうか」

 沈黙を破ったのは、オースティンだった。


「……そうだな。ルーカスとオースティンが共に力を合わせてレイヴンを退けたように、一対一ではレイヴンに敵わずとも、他の者達と一緒であれば、勝機が生まれる事も有ろう。皆、決して油断はしないように」

「「はい!」」

 アーサーの忠告に、全員が声を揃えて返事をする。


「それからオースティン、ルナ、捜査の方はどうなっている?」

「はい。ルーカス殿下毒殺未遂の件に、レイヴンが関わっているというルナの推測を受け、事件を見直している所ではありますが、特にこれと言った進展はありません」

「私の方も、ルーカス殿下と共に作ったリストの残り数人の調査が思わしくない状態です」

 二人の報告に、アーサーは頷く。


「そうか。オースティンにはそのまま捜査を進めてもらいたいが、ルナの方は一度中断した方が良いのではないか? 慎重に動いてくれていると分かってはいるが、万が一、ルナの動きがレイヴンに悟られてしまえば、真犯人に捜査の事が露見しかねないと思うのだが」

「陛下の仰る通りです。レイヴン様が何時襲って来るか分からないこの状況で、ルーカス殿下のお傍を離れる訳にもいきませんから」

「そうだな。ルナ、ルーカスを頼む」

「はい」


 執務室を退室したルーカスは、小さく溜息をついた。父王の最後の言葉が、胸に引っかかっている。


(俺はやっぱり、まだルナに守られる側でしかないんだな。早く、もっと強くなりたい。レイヴンと一人で対峙できるくらいには……!)


 一方、ルーカスの後に従いながら、ルナは一人考え込んでいた。


(どうにかして、レイヴン様の行動を先読みする事はできないだろうか? レイヴン様の事を一番良く知っているのは私なのだから、レイヴン様と全く同じとまではいかなくても、せめて近い考えくらいはできる筈。一度レイヴン様の立場に立って、どんな暗殺手段があるか、どんな状況なら襲撃しにくくなるか、私なりに考えてみよう……)

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