表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/64

40.閃く王子

 ガッ!!


 耳元で硬質な音が響き、ルナは目を見張った。レイヴンが右手で持つ短剣は、ルナの左耳のすぐそばの床に突き立てられている。


(レイヴン様が狙いを外した!? この距離で!? 何故……!?)


「ルナ……何故俺に従わない……!?」

 苦しげな声が上から降ってきて、ルナはレイヴンを見上げた。


「俺はお前を、殺したくないんだよ……!!」


 常に傲岸不遜で、その端正な顔を歪めた事が無かったレイヴンが、苦渋に満ちた表情を浮かべている所を初めて目の当たりにして、ルナは目を丸くする。


「ルナ! 一族の……俺の元に戻って来い!! お前は俺の許嫁だろうが!!」

 珍しく取り乱した様子のレイヴンに戸惑いながらも、ルナは口を開いた。


「……許嫁など名ばかりです。レイヴン様と年が近い一族の少女達の中で、私が一番優れていた。ただそれだけで、私の代わりなど幾らでも居る。頭領はそう仰っていました」

「違う! お前の代わりなど居ない!」

「それは一族が滅び、私が偶々生き残ったからに過ぎません」

「そうじゃない! 俺は昔から、お前の事が……!」

「ルナー!?」

 言い争っていた二人は、遠方から響いたルーカスの声を聞き付けて、顔色を変えた。


「居たか!?」

「いいえ、まだ見付かりません!」

「そうか。引き続き捜してくれ! オースティン、俺達は東屋の方を見に行こう!」


(ルーカス殿下!? どうして!?)


 ルナは顔面蒼白になった。今ルーカスに来られたら、ルーカスの命を狙うレイヴンに暗殺されてしまいかねない。


「ル……!!」


 ルーカスを制止しようとしたルナの叫び声は、途中でレイヴンに口を塞がれて、封じられてしまう。次の瞬間、鳩尾に強い衝撃が加えられ、ルナの意識はそこで途切れた。


 ***


「ルナの奴、一体何処に行ったんだよ……!?」

 ルーカスは不安に駆られながら、オースティンや護衛の騎士達と共に東屋へと急いでいた。


 西の地方の視察から帰って来たばかりで疲れてはいたが、昼間の事件の事もあって、なかなか寝付く事ができなかった。あの後すぐに魔石は身に着けたし、魔法を使える騎士や魔術師で身の回りを固める手配もした。唯一レイヴンの気配に反応できるルナに、ルーカスの隣の部屋で寝泊まりしてもらう事にもして、対策は万全である筈なのだが、昼間のルナの浮かない顔が気になって仕方がない。遂にベッドを抜け出したルーカスは、ルナがまだ起きていれば話し相手になってもらおうと、隣の部屋を訪れたが、ルナの姿は何処にも無かった。


(まさかルナの身に、何かあったんじゃないだろうな……!?)


 嫌な予感がして居ても立っても居られなくなったルーカスは、夜中にもかかわらず、すぐにオースティンを叩き起こし、自らが先頭に立ってルナを捜索し始めたのだ。


「ルーカス殿下、暗いので足元に気を付けてください。それと、何処かにレイヴンが潜んでいるかも知れません。十分にご注意を」

「ああ、分かって……」

 その瞬間、魔石が光を放った。


 咄嗟に反応したルーカスが結界を張るのと同時に、結界が強い衝撃に襲われる。


「チッ……防ぎやがったか」

「お前は……レイヴン!?」

 暗くて良く見えないが、黒ずくめの服を着た若い男は、昼間会ったばかりのレイヴンで間違いないだろう。


「ルナは何処だ!? お前、まさかルナに何かしたんじゃないだろうな!?」


 ルナの不在に、レイヴンの襲撃。この二つが無関係な筈が無いと、ルーカスはレイヴンに食って掛かる。


「フン。ルナは俺の許嫁だ。どうしようと俺の勝手だろう」

「い、許嫁だと!?」

 レイヴンの言葉に、ルーカスはパニックに陥った。


(ルナが許嫁!? 許嫁って何だ!? こ、婚約者って事か!? ルナが結婚!? この男と!? そんな事……!)


「……そんな事、認められるかあぁぁ!!」

 大声で叫ぶルーカスは、涙目になっている。


「何故お前に認められる必要がある。そもそも、人の心配をしていられる立場か」


 ルーカスが我に返った時には、レイヴンが目前に迫っていた。だが、再びルーカスを襲おうとしたレイヴンの短剣は、オースティンの剣に阻まれる。


「私の娘は何処だ!?」

「オースティン・ゴードン……!」

 オースティンから距離を取って対峙したレイヴンは、歪んだ笑みを浮かべた。


「そうか……。ルナはお前達二人と、国王に恩があって裏切れないんだったな。ならば一族の復讐も兼ねて、お前達全員を葬れば、心残りが無くなったルナは、俺の元に戻って来るに違いない……!!」


 次の瞬間、オースティンの巨体が吹っ飛んだ。

 レイヴンの強烈な蹴りを、丸太のような両腕で何とか防御したオースティンだったが、その勢いまでは止められない。体勢を崩したオースティンにレイヴンが追撃しようとするが、オースティンの雷魔法に阻まれて素早く後退する。


「ゴードン総帥!」

「お前達は手を出すな!」

 加勢しようとした騎士達に、オースティンの鋭い声が飛ぶ。


「下手に手を出せば殺される! ルーカス殿下をお守りしろ!」

「フン。流石は騎士団総帥。的確な助言だな」


 睨み合う二人を見ながら、ルーカスは拳を握り締めていた。


(俺はまた、何もできないのか……!? またあの時みたいに、見ている事しかできないのかよ……!?)


 ルーカスの脳裏に、毒で苦しむルナが蘇る。

 強くなりたいと願った。その為の努力も重ねてきた。それなのに今は、二人の戦闘をただ見守っているだけだ。


(考えろ……! モルス一族は、魔法への耐性は高くないとルナが言っていた。俺の結界魔法も、レイヴンには通用するんだ。きっと何か、俺にだってできる事がある筈……!!)

 その時、ルーカスの脳裏に閃くものがあった。


『そろそろ、結界魔法の応用を……』

『身体強化魔法って、どんな応用があるのか、教えてくれないか?』

『身体強化魔法の応用で、爪の成長を促進して強化しました。』


(できるのか……!? いや、やるしかない!!)


「グァッ!?」

 自身の死角となる右からの攻撃を食らって、オースティンが地面を転がる。


「オースティン!!」

 ルーカスは咄嗟に結界魔法をオースティンの周囲に展開し、レイヴンの追撃を防いだ。


「王太子か。邪魔をするなら、お前から葬ってやる」

 レイヴンがルーカスを睨み付けた瞬間。


「!?」


 左足に激痛が走り、レイヴンは思わず足元を見た。オースティンを守る結界の一部が、鋭く尖って伸びていて、レイヴンの左足を貫いている。


「できた……」

 慌てて飛び下がって左足を抜くレイヴンを見ながら、ルーカスは呆然と呟いた。


「王太子……よくもやってくれたな!」

 レイヴンがルーカスに向けて殺気を迸らせた瞬間。


「お前の相手は私だ!」

 オースティンの雷魔法がレイヴンを直撃し、レイヴンはその場に頽れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ