表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/64

30.目を細める侍女

「疲れたぁー!」


 漸くパーティーが終わり、自室に引き上げたルーカスは、行儀悪くソファーの上に倒れ込んだ。

 気が向かないながらも、何回もダンスを踊ったし、長々と立ち話もしてしまったので足が怠い。大規模な夜会に出席したのは久し振りだったからか、妙に注目されてしまって気疲れもした。心身共に疲れ切ってしまった身体をクッション性の良いソファーに一度横たえてしまえば、当分起き上がる気になどなれない。


「お疲れ様でした、ルーカス殿下」


 マナーが悪い、と苦言が飛んで来るかと思ったが、今日ばかりはルナも心底疲れ切ったルーカスを気遣ってくれたのか、大目に見てくれるようだ。ここぞとばかりに、ルーカスは愚痴を零す。


「あーもう嫌だ。今後一切夜会で踊りたくない。って言うか面倒だしもう出たくもない。ルナ、何か良い方法は無いのか?」

「ございません」

「だよなー」

 自分でも無茶な要求だと分かってはいたが、ピシャリとルナに撥ね付けられ、ルーカスはがっくりと項垂れた。


「社交は王族の務めの一環ですから、避けて通る訳にはいきません。ダンスが苦手と仰るルーカス殿下のお気持ちも分からないではないですが、今日は日頃の練習の成果を遺憾無く発揮されて、とても上手に踊っておられたではありませんか。皆様感心していらっしゃいましたよ」

「それでも嫌なものは嫌なんだよ」

 お茶の用意をしてくれているルナを横目で見ながら、ルーカスは頬を膨らませる。


 せめて相手がルナなら良いのに、と思いながら、ルーカスは深々と溜息をついた。

(ルナだって伯爵令嬢だ。今は十五歳だから、社交界デビューは来年になる筈。デビュタントの白いドレスに身を包んだルナは、どんな感じになるんだろう。元が割と整っているから、着飾って、化粧もしたら、きっと綺麗になるんだろうな。髪はいつも纏めているから、できれば下ろしてみて欲しい。それでにっこり笑ってくれたら……、うわ、絶対可愛いに決まっている。どうしよう凄く見たい……!)


「……ルーカス殿下。私の顔に、何か付いていますか?」

「え? あ、いや、何も付いていないぞ!?」


 疲労回復に効くハーブティーを差し出しながら、怪訝そうに尋ねるルナに、ルーカスは慌ててソファーから飛び起きた。何時の間にか、ルナをまじまじと見つめながら想像してしまっていたらしい。気まずさを誤魔化すように、ソファーにきちんと座り直したルーカスは、ハーブティーを口に含んで気持ちを落ち着けようと試みた。


「そ、そうだ、あの似顔絵の男は見付かったのか?」

 ルーカスの質問に、ルナの表情が引き締まる。


「王都にある商会では、それらしい人物は見付かりませんでした。本日の夜会でも、確証が持てる人物は見付けられませんでしたが、何人か、似ていると思う方はいます。その方々の血縁関係にある人物を、調べていこうと思います」

「血縁関係? 今回のパーティーで、貴族は皆来ているんじゃないのか?」

 ルーカスが首を傾げながら尋ねる。


「長男の方は爵位を継いでそのまま貴族となられますが、次男三男の方々は、跡取りのいない家の養子になるか、婿入りするかしなければ、爵位を持つ事はできません。従って、貴族出身の方でも、爵位を持てず、本日の夜会に来られていない方々も大勢いらっしゃいます」

「そうか、騎士とか文官とか侍従とか、高位貴族の使用人とかは、そういう連中が多いもんな」

「はい」


 納得したルーカスは、漸く目の前が開けてきたような思いがした。貴族達の血縁者を調べるくらいなら、きっと自分にもできるに違いない。


「それなら、明日一緒に王宮内の図書館に行こう。貴族名鑑を見てみれば、多分血縁者くらいすぐ分かるだろうし」

「はい。ですが、私一人でも問題ありません。ルーカス殿下のお手を煩わせる程の事では……」

 当惑した様子のルナに、ルーカスは身を乗り出す。


「もしかしたら最新のものだけでなく、過去数冊分くらいは遡って調べる必要があるかも知れないだろう? 一人より二人の方が絶対に効率が良い筈だ。それに、この件については、お前に任せっきりになってしまっているけれど、俺だって、兄上達の為に何かしたいんだ」

 ルーカスの熱意のこもった目を見て、ルナはしっかりと頷いた。


「畏まりました。では明日は、宜しくお願い致します」

「ああ!」

 ルナの返事に、ルーカスは目を輝かせる。


 これまでルナに頼り切りで、何もできなかったけれども、やっと自分にもできそうな事があった、とルーカスは喜び勇んでいた。先程ソファーの上でだらけながら愚痴を零していた姿とは打って変わって、すっかりやる気になっているルーカスを、ルナは口元を緩めて見守る。


(お兄様思いなのだな、ルーカス殿下は)


 実の両親は、物心付いた頃には既に他界していた為、モルス一族の下に居た頃のルナは、家族というものがどんなものなのか、全く理解できなかった。だけど今のルナには、自分の命を救い、引き取ってくれた養父を始め、新しく家族になってくれたゴードン伯爵一家が居る。いくら感謝してもし足りない彼らの事を思えば、ルーカスの兄達への思いも、家族というものも、今なら少し、分かるような気がする、とルナは目を細めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ