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28.十四歳になった王子

 麗かな春の陽気に包まれる季節になり、ルーカスは十四歳の誕生日を迎えた。


「お誕生日、おめでとうございます、ルーカス殿下」

「ありがとう」

「十四歳のお誕生日、誠におめでとうございます」

「ありがとう」

 挨拶に来た貴族達に、ルーカスは貼り付けた笑顔を返す。


 今は王宮の大広間で、ルーカスの誕生パーティーの真っ最中だ。先程からずっと同じような遣り取りを繰り返しているルーカスは、いい加減疲れてきた。笑顔を保つのも楽じゃない。


(こうやって一人一人見ているけど、やっぱりあの似顔絵の男は見付からないな……)


 ルーカスはこっそりと溜息をつきつつ、パーティー会場の隅の方で給仕をしているルナを見遣った。パーティーが始まったばかりの時は、難なく仕事をこなしながらも、時折周囲に目を走らせていたルナが、今はそんな様子も無く、淡々と仕事に励んでいる所を見ると、どうやらこの中には例の男はいないと判断したようだ。


(今日は空振り、か)


 内心では気を落としながらも、ルーカスは何とか笑顔を維持したまま、漸く全員と挨拶を終えた。だが、すかさず様子を窺っていた貴族達が擦り寄って来る。


「ルーカス殿下、宜しければ、娘と一曲踊ってやっていただけませんか?」


 声を掛けて来たのは、大臣を務めるランドール侯爵だ。横に並んでいる気が強そうな顔立ちの美少女は、期待の眼差しでルーカスを見つめている。ちらりと視線を移せば、目的が同じと思われる親や令嬢達の視線がルーカスに注がれていて、ルーカスは思わず顔を引き攣らせそうになった。

 今日のパーティーの主役はルーカスなのだから、何人かの令嬢とダンスをした方が良いという事は、頭では分かっている。だが、こうも下心が見え見えの視線を一身に集めてしまったルーカスは、とてもその気にはなれなかった。


「……悪いけど、先日まで少し体調を崩していたんだ。今日の所は大事を取って、遠慮させてもらおうと思っている」


 にこりと笑顔で言えば、病弱で知られるルーカスに、それ以上強要できる者はいなかった。こんな時は、虚弱体質で良かったと思ってしまうルーカスである。視界の端で、ルナが何やら言いたげな視線を送っている事に気付いたが、目を合わさないようにそっと視線を逸らしておいた。後で叱られるかも知れないが、久々の我儘なのだから、大目に見てもらいたい。


 案の定、パーティーが終わって自室に引き上げたルーカスは、ルナから苦言を呈された。


「ルーカス殿下。何故ご令嬢方とダンスを踊らなかったのですか? 社交の重要性は、重々お分かりになられているでしょうに」

「そんな気になれなかったんだよ……。元々あの連中は、昔から頭脳明晰な王太子だったブレイク兄上や、武芸達者で将来を期待されていたチャールズ兄上にはせっせと媚びを売っていたけど、病弱で何の取り柄も無い俺なんか見向きもしなかったんだ。それなのに、俺が王太子になって、久々にパーティーに出てみればこれだ。あんな調子の良い連中、一々相手にしたくなかったんだよ」

「お気持ちは分かりますが……」

 ルーカスの愚痴を聞いて、ルナは一瞬遠い目になったが、すぐに気を取り直したように咳払いをした。


「一つ言わせていただきますが、ルーカス殿下に取り柄が無い事はありません。お身体は丈夫になられましたし、勉強も剣術も魔法もダンスも、一生懸命に頑張られて、全て上達なさっています。先日の視察でも、陛下からお褒めの言葉を頂いたではありませんか。ルーカス殿下は、もっとご自分に自信を持たれるべきです」

「そ……そうか?」

「そうです」

 ルナに褒められたルーカスは、戸惑いながらも、徐々に相好が崩れていく。


「それに、将来国王になられる方にとって、一番大切なものを良くご存知です」

「一番大切なもの……?」

 首を傾げるルーカスに、ルナが珍しく微笑んだ。


「人の命の、大切さです。私はそれを、ルーカス殿下から学びました。命の大切さを熟知し、貴賤を問わず国民一人一人の命を尊べるルーカス殿下は、間違いなく賢王になられると確信しています」


 微笑むルナの言葉に、ルーカスの顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。照れ臭くて、ルナの顔がまともに見られない。


「……今日は随分、お世辞を言うんだな」

「お世辞ではありません。事実です」


 ルナは真顔に戻って即答した。もっと笑顔を見ていたかったな、と少し残念に思いながら、ルーカスは口を開く。


「……ありがとうな。他の誰よりも、お前にそう言ってもらえて、凄く嬉しい」

「身に余る光栄です」


 はにかみながら笑うルーカスに、ルナも僅かに口角を上げた。滅多に見られないルナの微笑みを再び見る事ができて、ルーカスは気分が舞い上がる。ルナに褒められて、笑顔まで見られて、もしかしたら今日一日で、一番嬉しい誕生日プレゼントかも知れない。


「ですがルーカス殿下、次に開かれる王宮主催のパーティーでは、ちゃんと社交をなさってください」

「……分かったよ……」


 ルナにしっかりと釘を刺されてしまい、それまでの浮かれ気分から一転して、遠い目になるルーカスだった。

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