表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/64

27.膝を貸す侍女

 北の地方での視察の日々はあっと言う間に過ぎていった。

 余裕があればルナの調査を手伝えないかと思っていたルーカスだったが、連日視察で手一杯になってしまい、結局ルナの首尾を尋ねる事ができたのは、視察が終わり、王都へ向かう帰りの馬車の中だった。


「ルナ、調査の方はどうだったんだ?」

「無事、彼の家族の居場所を突き止め、彼の奥さんと、十歳になる娘さんに話を聞く事ができました。彼女達の話によると、五年前、大雪の後の雪解け水で、彼らの家と畑が水害に遭った上に、当時五歳の娘さんが病気になってしまい、借金に苦しんでいたそうです。そんな時、酒場で出会った人に王都での稼ぎの良い仕事を紹介され、彼が一人で出稼ぎに行ったきりになっている、との事でした。彼が王都に向かって少ししてから、前借りできたという手紙と一緒に大金が送られて来たので、今もその返済の為に働いているとは思うものの、全く連絡が取れないので心配していると言っていました」

 ルナの報告を聞いて、ルーカスは考え込む。


「……多分ジョージは、その『酒場で出会った人』とやらに騙されて王都に連れて行かれて、事件の証言者役に仕立て上げられたんだろうな」

「私もそう思います。『大切なものを守る為に、悪魔に魂を売り渡す事をどう思う?』と言っていたのは、おそらく彼が家族を守ろうとしていたのではないかと」

「それで、自分は実行犯の一員として、汚名を被り処刑されるのを覚悟で、大金と引き換えに、チャールズ兄上の命令だった、と証言した訳か……」


 憤りを覚えたルーカスは、拳を握り締めた。

 いくら家族を守る為とは言え、兄の罪を偽証したジョージを許す事はできないが、彼の事情には同情の余地はある。真に憎むべきは、彼の弱味に付け込み、証言者役に仕立て上げた真犯人だ。絶対に正体を突き止めて、罪を償わせ、兄の冤罪を晴らして見せる、とルーカスは改めて決意を固める。


「ジョージが酒場で出会ったという人物を、何とかして突き止められないか?」

「既に手掛かりは得ています。酒場を訪ねて訊いてみた所、辺鄙な地方の小ぢんまりとした酒場に来る客は、地元の常連客以外は珍しいからと、皆さん良く覚えておられました。当時泊まっていた宿も判明し、そちらからも詳細な情報を聞き出しています。見た目は商人風の男で、王都から来たと言っていたそうですが、服の生地や身のこなしからして、貴族が変装していたようにも思えたそうです。一応証言を基に似顔絵を作成した他、背格好や身体的特徴も聞き出していますので、王都に帰ったら該当する人物を捜索する予定です」

「そうか。俺にもその似顔絵を見せてくれ」


 ルナから手渡された似顔絵には、茶色の髪に眼鏡、顎髭を生やした中年男性が描かれていた。鬘や付け髭で変装している可能性も考慮に入れてみたものの、ルーカスには心当たりが無い。


「商人風だったけど、貴族のようにも思えた、か……。王都から来たという話だったけど、今も王都に居るかは確証が持てないし、これは骨が折れそうだな……」

「そうですね。特徴は細かく聞き出せたので、その人物を目にしさえすれば、特定はできると思うのですが……。商人、貴族両方の点から、虱潰しに捜してみます」

「ああ。悪いけど、頼む」


 ルナに似顔絵を返しながら、ルーカスは溜息をついた。長期戦は覚悟していたが、ずっとルナに頼ってばかりで、何の役にも立てないのが歯痒い。せめて自分でもできる範囲で、似顔絵の男を捜してみよう、と思いつつも、視察の疲れが出たのか、馬車に揺られているうちに、ルーカスの瞼は段々重くなっていった。


 今後の捜索計画を考えていたルナがふと顔を上げると、ルーカスはこっくりこっくりと船を漕いでいた。今にも壁に頭を打ち付けそうになっているルーカスを放っておけず、ルナはルーカスの正面の席から隣に移動する。ルーカスを自分の肩に凭れさせようとしていると、馬車が揺れた弾みで、ルーカスの身体は自分の膝の上にずり落ちてしまった。


(……ま、良いか)


 この視察の間中、ルーカスがずっと夜遅くまで頑張っていた事を知っているルナは、膝の上ですやすやと眠り始めたルーカスを起こす気にはなれなかった。そのまま眠りに落ちていくルーカスを見守りながら、頭の中では再び捜索計画を立て始める。


(貴族の方々のお顔とお名前は覚えているけれども、似顔絵に該当しそうな人は思い浮かばない。だけど、姿形は変えられても、細かい癖や習慣はそう簡単には変えられない筈。そこから洗い出してみよう。もうすぐルーカス殿下のお誕生日で、パーティーには高位貴族の方々が来客として呼ばれている筈だし、社交シーズンになれば、王宮主催のパーティーに下位貴族の方々も来られる筈。その時に給仕として潜り込ませてもらえないか、国王陛下にお願いしてみるとして、それまでは王都の主な商会から順に当たっていってみるとするか……)


 見事なまでに平常心であるルナとは対照的に、馬車が揺れた拍子に、ふと目を覚ましたルーカスが、ルナにずっと膝枕されていた事に気付いて、顔を真っ赤にして大いに慌てふためくまで、後数時間。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ