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25.意気込む王子

「おはようございます、ルーカス殿下」


 翌朝、いつものようにルーカスを起こしに来たルナは、ベッドから起き上がったルーカスを見て面食らった。昨夜は寝付けなかったのか、顔色が優れないし、目の下にはうっすらと隈ができている。


「ルナ、昨夜は大丈夫だったのか?」

 開口一番に尋ねられ、ルナは気を取り直す。


「はい。居酒屋の店主から色々情報を聞き出す事ができました。後程ご報告致しますので、まずはお召し替えを」

「そうじゃない! 酔っ払った客に絡まれたりとか、危ない目に遭ったりしなかったかと訊いているんだ」

 真剣な表情で訊いてくるルーカスに、ルナは目を丸くした。


「何の問題もありませんでしたが」

「なら、良い」


 あからさまにほっとした表情を浮かべると、眠そうに欠伸をしながらルーカスは洗面所に向かった。その後ろ姿を見遣りつつ、カーテンを開けたルナは朝食の準備に取り掛かる。


(昨日は色々あったから、お兄様方の事や事件の事等、色々考えられていてよくお休みになれなかったのだろうか? 後で眠気覚ましに、ミントティーでもご用意して差し上げよう)

 モルス一族の影響で自己評価が低いルナは、ルーカスが一晩中、自分の心配をするあまり寝付けなかった、という真相には微塵も気付いていないのだった。


「それで、何か分かったのか?」

 朝食後、ルナが用意したミントティーを口にしながら、ルーカスが尋ねる。


「はい。やはり彼は、モルス一族の者ではありませんでした」

 思わずルーカスは唇を噛み締める。


 やはりルナの言った通り、彼は何者かに用意された、偽物の証言者だったのだ。怒りが湧き上がるが、今は感情に囚われている場合ではない、とルーカスは己を律しながら口を開く。


「そうか。他に分かった事はあるか?」

「幸い居酒屋の店主が、彼の事を覚えており、色々話してもらえました。彼の名は捜査資料の通り、ジョージで間違いなさそうですね。事件の二週間程前から、週に一、二回のペースでふらりと店に現れていたけれども、一ヶ月程でパッタリ来なくなってしまったと言っていました。毎回深刻な顔で一人酒を呷っていた様子が気になって、声を掛けた事もあるそうですが、大概は放っておいてくれ、という答えだったそうです。ですが、一度だけ泥酔した時に、気になる事を口にしていました」

「どんな事なんだ?」

 ルーカスが身を乗り出して尋ねる。


「元々は北の地方で農民をしていたけれども、お金を稼ぐ為に、家族を置いて王都に来たのだとか。『大切なものを守る為に、悪魔に魂を売り渡す事をどう思う?』と訊かれたそうで、戸惑った店主が答えに迷っているうちに、寝落ちしてしまったそうです」

 ルナの報告を聞いて、ルーカスは考え込んだ。


「『大切なものを守るために、悪魔に魂を売り渡す』か……。確かに、気になるな」

「はい。店主はそれ以上の事は聞いていないそうなので、次は彼の家族に話を聞いてみたいと思います」

「そうだな。……って、家族の居場所は分かるのか?」

 怪訝な表情でルーカスが尋ねる。


「北の地方、という所までしか分かっておりません。ですので、ルーカス殿下が視察に行かれる際に、私も是非同行させていただけないでしょうか。休暇を頂いて北の地方に向かい、調査する事も考えましたが、視察前の忙しい時期に休暇を頂くよりも、視察時に同行させていただいた方が、より目立たず、怪しまれる可能性が低くなるかと思いますので」

「分かった。元々同行してもらうつもりだったから、その方がこっちも助かるよ」

 ルーカスが微笑むと、ルナもほっとしたように口の端を上げた。


「じゃあ、次は視察の時だな。俺に何かできる事はあるか?」

「ありがとうございます。では視察中、私は時折単独行動を取らせてもらう事があるかと思いますが、その時はルーカス殿下に何か用事を言い付けられたという事にでもして、上手く誤魔化していただけないでしょうか」

「分かった。任せておけ」


 ルナからの頼まれ事に、ルーカスは気合を入れて答えた。初視察の重要性が増し、意気込みを増すルーカスに、ルナは頼もしさを感じる。


「それにしても、たった一晩でこれだけの事が分かるなんて、凄いな、ルナは」

 感心しながら口にしたルーカスに、ルナは首を横に振る。


「私の手柄ではありません。五年以上も前の事を詳細に覚えていた、商売熱心な店主のお蔭です。人当たりが良くて気さくで、初対面の少年にも親身になってくださり、一杯奢ってくださいました」

「一杯……って、お前、まさか酒を飲んだのか?」

「ご安心ください。一応未成年ですので、飲む振りです。中身はこの通り」


 ルナは懐から瓶を取り出した。どうやら中身は、その店主に奢ってもらったと言う酒らしい。


「父か兄にでも差し入れついでに、騎士団でお店の宣伝をしておきます。店主への恩返しになると良いのですが」

「そうだな。俺も何時か、その店に行ってみたいな」

「少なくとも、後二年以上は先の話になりますね」

「……そうだったな」


 ルナの話を聞いて興味が湧いたものの、流石に年齢には勝てない。肩を落としながら、早く大人になりたいと思うルーカスであった。

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