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21.浮かれる王子

「おはようございます、ルーカス殿下」

「んぁ……もうそんな時間か。おはよう、ルナ」

 ルーカスの生活に、再びルナが戻って来た。


 あれからルーカスは、ルナを牢から出す為に、父王の元に直訴しに行ったり、色々面倒な手続きを済ませたりと、あちらこちらを駆けずり回った。ルナが自己申告で牢に入り、すぐにルーカスが牢から出すという、前代未聞の珍事件にはなってしまったものの、日頃のルーカスの我儘振りと、ルナの侍女としての実績と、国王との約束の期限切れという点を考慮すれば、『ルーカスの我儘を、ルナが真に受けてしまった』という主張に、誰も異を唱える者はいなかった。寧ろ関係者全員から、『こうなるだろうと思った』とでも言いたげな、生温かい視線を送られる羽目になったくらいだ。


(ちょっと待て。俺は最近、我儘は言わなくなったんだぞ)

 その抗議が喉元まで出掛かったが、止めておいた。本来、形だけでも事情聴取が必要な所を、そんなものは必要ないからすぐに牢から出すように、と命令している辺りが、既に立派な我儘である。


 だけど、その甲斐あって、またルナがルーカス付きの侍女に戻ってくれた。しかも、数日が経って気付いた事だが、以前よりもルナとの距離が縮まったような気がする。

 何処が、と言われても困るのだが、以前は淡々と仕事をこなし、無表情で余所余所しい気さえする程だったルナが、今は何だか雰囲気が柔らかくなったような気がするし、声色も優しくなったように思う。自意識過剰、と言われてしまえばそれまでかも知れないが、たとえ気のせいだとしても、そんな些細な事で心が浮き立つ気分になるのは、悪くないように思えた。


 その日も、ルーカスは朝から上機嫌だった。午後からは魔法訓練であるという事も、ルーカスの心を軽くしていた。


 魔法を使える者は、生まれつき魔力を持つ者に限られる。ヴァイスロイヤル国では、持って生まれる魔力の量に差はあれど、半数以上の者が、何らかの魔力を有していると言われている。その殆どは主に火、水、風、土の四種類のいずれかの魔力を持つが、光、闇の属性を持つ者や、ルーカスが使える結界魔法、ルナが使う身体強化魔法のような、特殊な魔法に優れた者も、数は少なくなるが存在する。自分が得意とする結界魔法を更に強化し、使いこなす事が、今のルーカスの目標である。


「良いですね、殿下! 速度、強度共に、以前よりも上がっております」


 この日は、久々にアルフレッド・オーウェン魔術師団長直々に稽古を付けてもらえる日だ。褒め上手なアルフレッドのお蔭で、ルーカスも随分と腕を上げてきた。今では、熟練者しかできないと言う、無詠唱での魔法発動も、何とか形になりつつある。

 結界を解いたルーカスは、大きく息を吐き出しながら、魔法訓練所の隅に控えているルナの方をちらりと見遣った。遠目なので表情までは良く見えないが、じっと自分を見守ってくれているのは分かる。


(少しは、良い所を見せられたかな?)

 そんな考えが脳裏を過ったルーカスは、慌てて頭を振って、再び稽古に集中した。


「そろそろ、結界魔法の応用を考えても良いかも知れませんね」

「応用……?」

 楽しげな笑顔を浮かべるアルフレッドに、ルーカスは首を傾げる。


「はい。魔法は術者の能力は勿論ですが、発想によっても進化してきました。風を刃のように使ったり、土を巨大な人形に変えたり。ですが、使用できる術者の数が少ない魔法は、まだまだ十分に研究が進んでいないと、私は考えています。ルーカス殿下は、結界魔法という、希少な魔法の使い手でもあられますので、是非その応用を考えていただきたいのです」

「応用、か……」


 アルフレッドに課題を出されたルーカスは、頭を悩ませた。期限は無いし、出来次第見せるという約束だが、これはなかなか難しいように思える。

 自室に戻ったルーカスは、ルナに相談してみる事にした。身体強化魔法を使いこなしているルナなら、同じ希少な魔法を使うという点で、何か参考になるような助言をくれるかも知れない。


「ルナ、参考までに、身体強化魔法って、どんな応用があるのか、教えてくれないか?」

「応用、ですか。そうですね……」


 真面目に考え込み始めたルナは、やはり以前よりも親身になってくれているような気がする。

 そんな事を考えながら、ルーカスがじっとルナを見つめていると、ルナが徐に右手を翳した。すると次の瞬間、ルナの人差し指の爪だけが、まるで剣のように長く鋭く伸びた。


「なっ!?」

 驚きのあまり、ルーカスは思わず声を上げる。


「身体強化魔法の応用で、爪の成長を促進して強化しました。これで標的の急所を、貫くなり切り付けるなりして暗殺する、立派な武器になります。幸い、私は本来の使い方をする機会が無く、魚や小動物を仕留める時に使っていたくらいですが」

 真顔で語るルナ。無駄に迫力があり、正直に言って怖過ぎる。


「そ……そうか……。参考になった……」


 思いがけず、何とも物騒になってしまった話に、この手の相談はルナにはしない方が良かったかも知れない、と思いながら、ルーカスは引き攣った笑顔で、ルナに礼を言うのだった。

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