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17.期待される王子

 年が明け、新年祭当日。

 新年祭に出席する為に、ルーカスが王宮の広場に面したバルコニーへと向かっていると、途中で王弟であり、宰相を務める、ジェームズ・サリヴァン公爵と出くわした。


「これはルーカス殿下。新年明けましておめでとうございます」

「ジェームズ叔父上、明けましておめでとうございます」

「今日は新年祭にご出席されるのですか? 体調は宜しいのですかな?」

「はい。近年はずっと欠席が続き、申し訳ありませんでした。最近は随分調子も良くなりましたので、今年からは王族としての務めをしっかりと果たしていきたいと思います」

「それは素晴らしい。とても楽しみにしております」


 ジェームズは公爵位を与えられ臣籍降下しているものの、五年前の事件の事もあり、ルーカスに次いで王位継承権第二位を持っている。病弱であまり表舞台に立てなかったルーカスに代わり、王族としての役目も担ってきた。新年祭でも、アーサー・ヴァイスロイヤル国王と共にバルコニーに立つ事が許されているのだ。

 ジェームズと会話をしながら、バルコニーへと辿り着く。ルーカスが父王と叔父と共に国民の前に姿を現すと、大きなどよめきが起こった。


「今年も無事に、新年を迎える事ができた。皆とこの良き日を祝う事ができて、嬉しく思う……」


 父王が新年の祝辞を述べている間、ルーカスは極度に緊張していた。国民の前に出るのは久々だ。国王陛下の挨拶中にもかかわらず、公の場に滅多に姿を見せない自分に、あちこちから視線を注がれているような気がしてならない。


「……この一年が、皆にとって良い年になる事を祈っている」

 挨拶が終わり、父王が手を掲げると、国民から割れんばかりの歓声が沸き起こった。


「国王陛下ー!!」

「ヴァイスロイヤル国万歳!!」

「ルーカス王太子殿下ー!!」

「王太子殿下!!」


 父王と共に手を振って国民の歓声に応えていたルーカスは、自分を呼ぶ声にビクリと身を震わした。だが、動揺したのはその一瞬だけで、内心では苦い思いを抱きながらも、表面上はにこやかな笑顔を浮かべて手を振り続ける。

 やがて父王達と共に室内に戻ったルーカスは、誰にも気付かれないように、そっと溜息を漏らした。


(ルナのお蔭、だな)


 国民から『王太子殿下』と呼ばれながらも、感情を表に出さず、落ち着いて対処できたのは、ルナが前もって忠告してくれたからだ。心の準備もなく、いきなり呼ばれてしまっていれば、拒絶が前面に出てしまい、国民の場で王族に相応しくない振る舞いをして、めでたい場を台無しにしてしまっていたかも知れない。


(後で、あいつに礼を言っておかないと。いやその前に、言い過ぎた事を謝らないとな……)


 あの日から何だか気まずくて、ルナとはギクシャクしたままになってしまっている。

 とは言え、ルナはいつも通りなのだが。頭に血が上って、ついクビだの牢に入れるだのと口走ってしまったルーカスが、ルナとの接し方が分からなくなってしまって、一人ぎこちなくなっているだけである。


 無愛想ではあるものの、誰よりも自分の事を理解し、時に寄り添い、時に諭し、気付けばいつも自分を導いてくれていたルナ。今となっては、ルナが自分の侍女でなくなる事など、ルーカスは最早考えられなくなっていた。それなのに、ルナに酷い事を言ってしまったと、ルーカスは自己嫌悪する。


「……ルーカス? どうかしたのか?」


 つい浮かない顔をしてしまっていたのだろうか。気付けば父王が心配そうに、ルーカスの顔を覗き込んでいた。


「いえ、父上、何でもありません。……久し振りに国民の前に立って、緊張してしまっただけです」

「そうであったか」

 ルーカスが慌てて笑顔を浮かべると、アーサーは安心したように微笑んだ。


 新年祭の後は、食事会である。ルーカスは父王や宰相である叔父、ゴードン騎士団総帥など、国の要職に就く臣下達と共に、昼食の席に着いた。


「今年はルーカス殿下もご出席とあって、良い年になりそうですな、陛下」

「うむ。是非そうであって欲しいな。最近はルーカスも体調を崩す事は無くなったし、王族の務めを果たしたいと言ってくれている。頼もしい限りだ」

 嬉しそうなアーサーに照れ臭くなり、ルーカスは俯きながら分厚いステーキを切り分けて口に運んだ。


「おや、ルーカス殿下は、肉の類はお嫌いだったのでは?」

「ああ、克服したんです、ジェームズ叔父上。今では何でも食べられるようになりました」

 少し前までは、公の場でも満腹を理由に肉を残していたルーカスは、苦笑しながら答える。


「そうでしたか。殿下も成長なされましたな。最近では勉強も運動も頑張っておられるとの噂を耳にしております。将来が楽しみですな」

「うむ。期待しておるぞ、ルーカス」

「はい、父上」


 今まで要所要所で寝込んでしまい、父の期待を裏切り続けてきたのにもかかわらず、変わらず優しい言葉を掛けてくれる父王に、ルーカスは力強く頷く。

 これからは期待に応えて見せるという、自信に満ちた決意ができるのも、ルナが自分を変えてくれたからだと思うと、ルーカスは胸が温かくなる気がしたのだった。

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