幸せの空を見上げて
ある雨の日に、僕と君は出会った。
君はダンボールの中で震えている真っ白な猫だった。
僕は君を抱えると身体で暖める。
君から僕に伝わるぬくもり。僕から君に伝わるぬくもり。
今はもう、ここには無い。
あの日から少しの間、僕達は一緒にいた。
ある晴れた日の昼下がり、さっきまで隣にいた君は気がつくと塀の上にいた。
「なにしているんだい、そんなところに立って?」
僕の言葉が分からない君はただ空を見上げていた。
君の鍵尻尾がそよりと吹く風に揺れている。
僕も空を見上げた。雲もなく、鳥すらいないただただ青い空が、どこまでも続いていた。
(君にはいったい、どんな風に見えているんだい?)
言葉に出しては聞かなかった。
そればかりが僕の疑問だった。
他にもいろいろと分からないことはたくさんあったのに。
しばらく経って、君はまるで鳥のようにふわりと塀から降り立った。
また、僕達は歩き出す。
翌日、僕達は廃墟の屋根の下からその空を見上げていた。
雨だった。僕達が出会った日よりも強く、雨は降っていた。
君は雨が嫌いみたいで、僕より少しだけ後ろに下がって空を見上げていた。
僕は君と違い雨が好きだったので、濡れてもかまわなかった。
だから僕は、鼻先に水がかかるくらいの屋根の縁あたりに立っていた。
ただただ、雨は降り続いている。
君は僕の近くにいる。
ただ、それだけだった。
僕と君は同じ境遇にあるけれど、僕達は違うもの同士。
僕と君は、愛し合っているわけでも、信頼しあっているわけでもない。ただ、一緒にいるだけ。
お互いにそう思っているだろう。
言葉が通じないからお互いの言い分は分からなかったけど、そんな気がした。
雨が上がり、雲の間から月が顔を出し始めた。
僕達は空を見上げることをやめて、お互いに身体を寄せ合っていた。
そしてそのまま、僕は眠りに落ちた。
雀の鳴き声を聞き、僕は目を覚ました。
君はもう、側にはいなかった。
外はよく晴れていた。僕は歩き出す。
空を見上げた。だけど、なにかが足りないんだ。
僕はまた歩き出した。
目指したのは君と出会ったあの場所。もう一度君と会いたい。
しかし君はいなかった。
そこにあったのは君の入っていたダンボール。
今度は僕が、その中に入って君を待つことにした。
どれだけ待っても君は現れなかった。
僕は飼い主に捨てられた一匹の犬。
そんな僕は、違う飼い主に巡りあった。
ある晴れた日の昼下がり、飼い主の少年と散歩に出かけた際、僕は君を見かけた。
塀の上で空を見上げる君の首には、真っ赤な首輪がされていた。
君を待ち続けたあの日々。
あのときの僕は、一緒にいることが幸せだったのだと思っていた。違った。
たとえそばにいなくても、どこかで同じ空を見上げていられる。
それが多分、僕にとっての幸せの形なんだ。
こんにちは、樋山紅葉です。
最初に投稿したときと少しだけ文章を変えてみました。
淡々とした空気で「なんだこれ?」と思われる方が多いかもしれません。自分でも最初思いました(汗)
最後に、読んでくださってありがとうございました。