遭逢
ここは山の中。
俺は藪の中で銃を構え、息を潜めている。
頭上からは木漏れ日が差し込み、辺りには小鳥のさえずりが響きわたる。
こんな気持ちの良い日には昼寝の一つでもしたいが残念ながらそういうわけにはいかない。
「ガキの頃はよくこうして皆でかくれんぼしてたっけか」
昔の事を思い出すと自然と笑みがこぼれる。
こんな事で感慨深くなるとは俺もずいぶん歳を取ったな。
銃を構えなおし、照準越しに小さな沼地を見つめる。
かき回され、水分をたっぷりと含んだ柔らかな泥と周囲に広がる無数の足跡
間違いない、あれはヌタ場だ。
つまりここで待っていれば奴らは必ずやってくる。
息を潜めたままじっとその時を待つ。
どのくらい時間が経ったのかも分からなくなった頃、遠くから小枝を踏み折る小さな音が聞こえてきた。
『ようやくお出ましか』
音は徐々にヌタ場の方へ近づく。
今か今かと待ち構えていると遂に木陰から黒い影がヌッと出てきた。
『来た、あれは猪か? かなりでけえな』
足音の主は全長が大人の男ほどはあろうかという大猪だった。
感づかれないようゆっくりとした動きで狙いを定め、引き金を引く。
瞬間、乾いた射撃音が周囲にこだました。
それと同時に猪の巨体がばったりと倒れ、泥に沈む。
「よし、やった。長い事待ったがそれに見合う獲物だなこれは」
上手く仕留められてほっとした俺は獲物に近づき、様子を観察する。
弾は頚部に命中したようだ。
最初こそ散々だったが、カメリエが魔弾を再度調整してくれたおかげで最近はうまく扱えるようになってきている。
「くっ、かなり重いぞ。持って帰れるのか? これ」
猪の丸々と太った体を近くの小川まで引きずっていき、銃剣を使って血抜きをする。
「ふう……こいつは誰かの手を借りないとダメだな」
作業を一通り終わらせ、人を呼ぶために一度山を下ろうとしたその時。
空気を震わせるほどの爆発音が突如として響き渡った。
「んあ、なんだ? またカメリエがなんかやってるのか?」
ここの所あの娘のおかげで多少の爆発騒ぎでは動じなくなってきている。
ここは戦場ではないのだが……
「まあ、近くにいるなのら一応顔でも出してみるか」
音は山の上の方から聞こえてきたな。
銃剣をしまい、銃を担いで山を登り始める
「しかし、こんな山奥で実験なんかするかねぇ」
いつもは以前に銃の試射をした場所でやっているはずなんだが。
「ええと、この辺りだったよな」
音がした場所の周囲を探し始めると、不可思議な光景が目に留まった。
「ん? ……なんだこれは?」
そこには見たこともない大きな塊が木々をなぎ倒して鎮座していた。
恐る恐る近づき所々錆の浮いたその表面に触れてみるとひんやりと冷たい感触がする。
「材質は鉄か? 見たところ外見は馬車に似てなくもないな」
箱のように四角い図体の下には車輪と思しき物が沢山並んでおり、その周りをぐるりと一周するように金属の帯が囲んでいた。
「ただ、馬を繋ぐ場所がないな。それになんだこの角みたいのは」
見上げると上には円筒状の物体が乗っておりそこから角のように長い棒が飛び出ている。
「う〜ん、見れば見るほど不思議な馬車だな……」
詳細に観察しようと後ろに回り込むと、なんと少女が倒れていた。
「お、おい! 大丈夫か!?」
慌てて駆け寄り、抱き上げる。
歳はカメリエより下といったい感じか? いや、そんなことは後でいい。今は救護が優先だ。
「脈は……あるな。気絶しているだけか? とにかく家まで運ぼう。このままにしてはおけん」
少女を背負い山を大急ぎで下る。
後ろで何かがかすかに動く気配がしたがそんなことに構っている余裕はない。
俺は後ろを振り返ることもなく全力で道なき道を駆け降りた。




