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純結晶

ある日の早朝


いつものように朝食を作ろうとキッチンストーブに火を入れるが着かない。


「んあ、どうなってんだ?」


あくびを噛み殺しながら原因を考える。


よく見るとストーブの覗き窓に透明な何かが映っていた。


ああ、そうか。動力源の魔力結晶が空になっていたのか。


寝起きの頭ではその結論に至るにしばらく時間がかかった。


魔力を出しきり、色を失った結晶をストーブから取り出す。


「うーん、セージの店は空いてないしカメリエもまだ寝てるからなぁ……」


隣の部屋で眠っているカメリエを起こすべきかと少し悩んだがやめた。


あのおてんば娘はほぼここに住んでいると言ってもいいくらい俺の家に入り浸っている。


これではまるでカメリエの方が家主のようだ。


「わざわざ起こすのも忍びないから自分で探すか」


おそらく実験で精製した結晶が居間にあるはずだ。


どの種類の結晶を作ったのかまでは知らんが燃焼術くらいあるだろう。


雑然とした居間を探しているとそれらしきものがしまわれている箱を見つけた。


中を開けると色とりどりの結晶が並んでいる。


その中の一つ、緋色をした結晶に目が留まった。


お目当ての燃焼術が込められている証だ。


「お、あったあった」


箱から取り出してキッチンへ持っていき、ストーブにセットする。


カメリエには後で使ったことを伝えておけばいいだろう。


そう思いながらを火を入れた瞬間。



突然激しい音と共にストーブが爆炎に包まれた。



一瞬にして起こった衝撃的な出来事にしばらく唖然としていたがパチパチと壁が燃える音と焦げ臭いにおいで我に返り大慌てで近くの水がめをぶちまけ消火を試みる。


数分後、必死の消火活動で何とか鎮火させることができたもののもう後の祭り、変わり果てた姿となったストーブは沈黙し何をしても動かなくなってしまった。


「なんだ! 一体何が起こったんだ!?」


驚きと絶望のあまりに思わず叫ぶ俺をよそに外では鶏が鳴き、日の出を告げていた。




「それはまた大変な目にあったね」


自分の身に降りかかった災難を話すとセージは苦笑いを浮かべた。


ここはセージの家、今朝の一件で食事が一切作れなくなってしまった為、朝食をいただきに来ている。


「おじさんが勝手に私の結晶持ち出すから悪いんだよ」


フライドエッグをつつきながらカメリエがケラケラと笑う。


「面目ない……」


「まあ大事に至らなくて何よりだったよ」


朝食を食べながら事故の原因について話す。


「あれはストーブが燃焼術の熱に耐えきれなくなったのが原因だろうね」


「うん? ストーブはその為に作られてるから耐えてもらわんと駄目だろう」


セージの言っている事がイマイチ理解できない。


「一般的な魔力結晶なら、ね。この娘のはちょっと特別だから」


特別?


「純結晶って知ってるかい?」


「なんだそりゃ、聞いたことねえな」


初めて聞く単語に首をかしげる。


「通常の結晶が媒体となる水晶に魔力を蓄積させて作るのは知ってるよね?」


「ああ、もちろん」


「純結晶っていうのは媒体を使わずに魔力そのものを結晶化させて作るんだ。通常のものと違って純粋に魔力のみで構成されているから媒体の強度の制約を受けずに魔力を出すことができる」


セージが喋りながら席を立ち、コーヒーを淹れる。


「そんなことが可能なのか?」


「可能だよ。ただ誰もができる事じゃない、膨大な魔力を生み出し、なおかつ結晶体として固定できるだけの技量がなければ作るのは不可能なんだ」


コーヒーをこちらに差し出しながらセージは答える。


「今のところ、精製に成功したのはうちの娘だけ。おそらく国中でもただ1人なんじゃないかな?」


「つまりカメリエの持っていた結晶は純結晶とやらでストーブはその強力な燃焼術に耐えきれなかったって訳か」


「そゆことだね」


パンを頬張るカメリエが頷く。


「ん? もしかしてこの間の灯光術は純結晶だったからあそこまで明るかったのか?」


そういうことならあの時感じた疑問も合点がいく。


「そうそう、小指くらいの小さな結晶でもあれだけの術を行使できるから有用性はかなり高いと思うよ。ただ単体で使うならまだしも何かに組み込むのは強すぎてまだ難しいんじゃないかな〜」


「なるほどなぁ」


感心しながらコーヒーを一口すする。


「で、すっかり煤けてしまった俺の相棒はいつ頃直りそうなんだ?」


「うーん、炉の損傷がかなりひどいからなぁ…… 最低でも2週間はかかるかな」


うげっ、そんなにかかるのか。


「修理が終わるまでの間はうちでご飯を食べてってくださいな」


セージの妻でカメリエの母であるオリーブがおっとりとした笑顔でキッチンから顔を出す。


「ほんとうにすまない。何から何まで世話になりっぱなしで」


こうしてしばらくの間、俺はセージの家で食事をいただくことになった。





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