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師匠の形見と彼女の夢

長年留守にしていた自分の家に入る。


「また随分と凄まじいことになってんな……」


思わず言葉が漏れ出てしまう。


居間はものすごい量の本と走り書きがいくつも書かれたメモで溢れていた。


「おい、まさか他の部屋もこんなんじゃないだろうな?」


すべての部屋がこの有様では俺の生活する場所がなくなってしまう。


「いや、この部屋だけだよ。使っているのは」


カメリエの言葉に少しホッとする。


「えっと、確かこの辺りに……あったあった」


部屋の隅をごそごそと漁り、何やら長い箱を取り出す。


「はい、おじさん。おじいちゃんからの最後の贈り物だってさ」


「師匠が? 俺に?」


カメリエから箱を受け取る。


箱はずしりと重い。


一体何が入っているんだ?


「開けてみなよ」


カメリエに促され箱を開ける。


「こ、これは……」


中には木と金属を組み合わせた杖のように細長い物が木くずに埋まって入っていた。


「おじさんなら使いこなせるっておじいちゃんが言ってたんだけど、使い方わかる?」


ああ、これは……まぎれもない、師匠が使っていたものだ。


確か名前は……


「銃……だな。師匠に使い方を教わったことがある。随分昔のことだが」


どういう原理かは知らんが魔力を使わずに遠距離から攻撃できる武器だ。


「なら良かった。あと、これも一緒に渡せって」


黒い鞘に入ったナイフと黄金色の小さなボトル状の形をしたものを1つ手渡される。


こいつは銃に装着できる武器と銃弾、だったかな確か。


弾……これがないと銃は使えないはずだ。


「なあ、弾が1発しかないんだが」


これでは1発使っただけで後は槍代わりにしかならんぞ。


「大丈夫、ちゃんと代わりの物を作ってあるから」


そう言って今度は薄い金属板で5発にまとめられた弾を渡してくる。


下の部分は先程の物と同じ黄金色の金属だが先端部分が淡い水色の結晶でできている。


「これは魔力結晶か?」


結晶を指でなぞりながら質問する。


もしそうならこの結晶には何かしらの魔術が込められているはずだ。


「ご名答、もう1つあった弾とその銃を調べて作ったんだ。その弾には爆発術と硬化術の2種類の魔術を込めてあるよ」


「爆発に硬化ねえ、2つの魔術にはもちろん意味があるんだろ?」


俺には見当もつかないがちゃんと考えて作られているのだろう。


「ぶっちゃけ硬化に関しては他の魔術でも問題ないよ。オリジナルと同等の貫通力を得る為だけの魔術だし」


自信満々な表情で説明を始めるカメリエ。


「重要なのは爆発の方、おじいちゃんが残した資料と私が弾を調べたところによるとね、銃は燃える粉……火薬っていわれてるみたいだけどこの火薬の爆発力で弾を飛ばしているみたいなの」


火薬、聞いたことないな。


「火薬の作り方は色々調べてみたけどどうしても分からなかった。おじいちゃんも作ろうとしていたみたいだけどうまくはいかなかったみたい」


「そこで火薬の代わりに爆発術を使おうって思った訳。でもこれが結構難しくって、元々火薬を使うことを前提にしていたから魔術を利用してもうまく動くようにするのが大変だったんだ」


爆発が強すぎても銃が壊れちゃうしね。


そう言って苦笑いを浮かべる


「なるほどなぁ……なあ、試しに使ってみても良いか?」


各部の状態を確認しながら聞くとカメリエが待ってましたと言わんばかりに喰いついてきた。


「勿論!テストならおじいちゃんが使っていた場所があるからそこを使うと良いよ」


なるほど、あの場所なら人も通らないから流れ弾の危険もなさそうだ。


「じゃ、さっそく行くとしますか」


銃についている革製の紐を肩にかけ、近くの山に向かおうとすると俺の後をカメリエが追いかけてくる。


「なんだ、一緒に来るのか?」


「おじさん一人で行くつもりだったの? その魔弾を作ったのは私なんだから一緒に行かなきゃ。それに良いデータが取れるしオリジナルとの違いはどうか知りたいし」


振り返りざまに問いかけると彼女は少し不機嫌そうな顔をする。


「魔弾ねぇ、またずいぶんとストレートな名前だな」


「魔術の弾丸だから魔弾。物の名前はわかりやすさが肝心なんだよ」


どうやら名付けに強いこだわりがあるようだ。


「そういえばさっき聞きそびれたが俺の家で何の研究をしているんだ?」


目的地への道すがらずっと気になっていたことを聞いてみた。


「ん〜、簡単に言うと新しい魔術の開発……かな」


後ろ頭に手をやりながら答える姿は彼女の父親にそっくりだった。


「おじいちゃんが亡くなって遺品の整理をしていた時の事なんだけどね。部屋から沢山の本が出てきたんだ」


カメリエは話を続ける。


「本の内容はおじいちゃんの日記、他にはメモ書きが多数や何かの図面が描かれている物もあった」


「日記にはとても興味深い事が書いてあって、おじいちゃんがこの世界の住人ではない事。元いた世界では魔術は衰退していて代わりに科学というものが発達している事。おじいちゃんはこの国と同じ名前の国、つまりアルメリア王国で軍に入っていた事が事細かに書かれていたんだ」


「おじいちゃんはずっと元の世界に帰る方法を探していたみたい。メモ書きのほとんどがそれに関係することばかりだったから……」


結局最後まで見つけられなかったみたいだけど……


少し沈んだ調子でそう呟くが、すぐに元の明るい声に戻る。


「私はそんなおじいちゃんが最後まで叶えることのできなかった願いを実現する為に研究を続けているんだ」


「仮に別世界へ行けるようになったとしたらお前さんはどうするつもりなんだ?」


話を聞いていてふと疑問に思ったことを口にしてみる。


「おじいちゃんのお墓を移してあげたい。生まれ育った場所の方がいいだろうし何より元の世界に戻ることが悲願だっただろうから…… それに私もその世界にすごく興味があるんだ。魔術の無い世界なんて考えられないから一度この目で実際に見てみたいんだよね」


そういって彼女は無邪気に笑った。

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