故郷への帰還
都を出てからもうどのくらい経ったのかよく覚えていない。
もうそろそろ着くはずなんだが……
周りに木々が生い茂る山道を馬車で下りていく。
もう何日も人と話していない。
確か、この間襲い掛かってきた賊が最後の話し相手だった。
1人旅もだいぶ慣れたがそれでも連れがいないのは寂しく思う。
俺が魔力を失ったのはいつだったかな。
下りながら少しでも気を紛らわせる為、考え事に耽ってみる。
俺は半年ほど前まで都で軍人を務めていた。
この世界では魔術は生活に欠かせないものとなっている。
軍人も例外ではなく、攻撃や防御といった戦闘行動にも魔術は必須だ。
もちろん俺もこれまで魔術を使って数々の戦場を生き抜いてきたのだが……
異変に気付いたのは1年前のある訓練時の事だった。
自分の放った攻撃の威力が普段より低く感じたのだ。
調子が悪いのか?
当時はその位にしか思っていなかった。
だが日が経つほどに威力は減衰していき、最終的に魔術そのものが全く使えなくなってしまった。
魔術が使えなくてはどうあがいても戦えない。
そう判断した俺は軍人という仕事を辞め、故郷に戻ってきたのだった。
「到着したら何をするかねえ」
都では質素な生活を心掛けていたおかげで蓄えはそれなりにある。
故郷で悠々自適に好きな事をして生活するのも悪くはない。
山道を下りきるとその先には小さな平野とそれに似合う規模の村がポツンと存在していた。
「ようやく見えてきたな」
懐かしい風景を目の当たりにして少し安堵する。
村へと続く道を進んでいると、少し前方に見知った人物を見つけた。
「おーいセージ! 久しぶりだなぁ。何年振りだっけか」
そう声をかけると振り返り、こちらの顔を見て笑いながら手を上げる。
「おお、ミステルじゃないか。こっちに帰ってくるとは聞いていたけどまさか今日だったとはね」
「本当はもっと早く着く予定だったんだがねえ、思ってたより時間くっちまった。魔術が使えない以上馬の負担軽減もできないからな」
本来ならこの何倍も早く到着していただろう。
「それは仕方ないさ、無事に帰ってこられて何よりだよ」
そういって嬉しそうな表情を浮かべる知的そうな男はセージ、俺の幼馴染だ。
ガキの頃は兄貴のように慕ってよく後をついてまわったもんだ。
「まあ、立ち話もなんだ。馬車に乗りなよ、どうせ行き先は同じだ」
セージを馬車に乗せ、村へと進む。
「しばらく見ない間に随分と逞しくなったじゃないか」
隣に座ったセージは俺をしげしげと眺める。
「まあな、10年以上軍にいたんだ。それなりにガタイはよくなるさ」
そういうセージの方は昔から全く変わっていない。
少し痩せ気味の体に無造作に後ろで結わえられた髪、眼鏡まで昔のままだ。
しいて変わったところを挙げるなら少し老けたくらいだろうか。
「セージは相変わらず道具屋やってるのか?」
仕事は道具と魔術を組み合わせることで効率よくこなすことができる。
10数年前までセージは様々な仕事用の道具の制作、販売を周囲の村に向けて行っていた。
「道具屋は続けているよ。今日も隣村へ配達と道具の修理をしに行っていたんだ。今はその帰りって訳さ」
本当に何もかも昔のままのようだ。
「村に帰ったら父さんのところへ行ってやってくれ。きっと喜ぶよ」
セージの父親か……
彼の父親、フリトは俺に戦闘技術を叩き込んだいわゆる師匠というやつだ。
妙な道具を使って戦闘を行う変わった人だった。
俺はそんなところに憧れて教えを乞うようになったのだが……
曰く、昔どこぞの軍で兵士をしていたとのことだったがあの人の様な戦い方をする軍を俺はいまだかつて見たことはない。
「じゃあ、帰ったら真っ先に顔を出すことにするかね」
そう返答するとセージは満足そうに頷いた。
「そういえば俺の家はどうなってる?」
村を出ていく際にジェンに管理を頼んでいたはずだ。
「しっかり手入れしていつでも住めるようにしている……というか今はカメリエが実験部屋として使っているんだ」
少し申し訳なさそうな様子のセージ。
「いや、好きに使ってくれって言ったのは俺なんだ。気にしないでくれ」
カメリエ、セージの娘か。
最後に会った時は小さな子供だったがもう10年も前の話だ、今はもう立派に成長している事だろう。
「実験ってカメリエは一体何をしてんだ?」
「新しい魔術の研究をしているみたいだよ。詳しいことは私にも分からないけれどね」
どうやら父親に似て優秀なようだ。
その後も昔話に花を咲かせる。
気づいたころには村に到着していた。
セージを家の前まで送る。
「あぁそうだ、着いたら渡そうと思っていた物があるんだ」
馬車の荷台から大量の剣やら槍といった武器から鉈、斧、鍬や鎌などの農具を抱え出して渡す。
「こんなに大量に一体どうしたんだい?」
山のように積まれた道具類を見てセージは目を丸くする。
「ここに来る途中に賊に絡まれてな、返り討ちにしてやったんだ。そんで後で復讐されても面倒なんで武装を全部取り上げてきたってだけの事だ」
武器を根こそぎ奪うのは少しやりすぎたかもしれんが、相手は賊だ。
手加減する必要などない。
「まあ、道具作成の材料にでもしてくれ」
「いやはや、魔術が使えない状況下でも複数相手にここまでやってのけるとはねえ。本当に逞しくなったなあ」
道具の山を受け取りながら感動したような声を漏らすセージ。
「じゃあねミステル。後で晩飯を食べに来るといいよ」
「ありがとな、じゃあ遠慮なくご馳走になるよ」
またあとでな。
そう言って俺はセージと別れた。




