1日の始まり
「おはようございます」
オリーブの朝食ができるまでの間、居間で資料の山をかき分けているとロゼがやってきた。
「おはよう、どうだ?よく眠れたか?」
「ええ、おかげさまでもうすっかり元気です」
そう答えた彼女の瞳には活気が宿っている。
元気になったようで良かった。
「朝食はもう少しでできるからな。それまでくつろいでいてくれ……って言ってもここじゃゆっくり出来ねえよな、はは」
元々カメリエの私物で散らかっているこの部屋だが今朝から資料漁りをしている為、余計にひどい有様になっている。
まともに座れるのは俺が昨晩寝床にしていた長椅子くらいだ。
「何か探しているのですか?」
「ああ、カメリエに頼まれてな。資料の見直しをしているんだ」
俺は日記やらなんやら師匠の残した物に一通り目を通している。
例の兵器に関する事が少しでも記述されていないか探しているのだ。
まあ、あの秀才娘が一度目を通した資料の内容を忘れたり見落としをするとは到底思えん。
彼女が覚えていないという事はその手の情報は書かれていないとみていいだろう。
それでも頼まれたのだから一応確認はしているが。
「ず、ずいぶんと沢山あるのですね……よろしかったらお手伝いいたしましょうか?」
周囲を見渡し気圧された様子のロゼがおずおずと手伝いを申し出た。
「すまんな、気を使って貰って有難いがあと十数ページで読み終わるんだ。気持ちだけでも受け取っておくよ」
申し出を丁重に断ると彼女は少し残念そうな表情を浮かべる。
「そうですか……そういえばカメリエさんはいらっしゃらないようですが、どこかにお出かけなされたのですか?」
「今朝早くから父親と一緒に山に行っているんだ。お前さんにも関係ありそうだから後で連れて行ってやるよ」
カメリエはセージと兵器の詳細な調査に山へ出かけて行った。
あの二人は一度好奇心に火が付くと対象を探求し尽くすまで極端にのめり込む。
今朝も揃って日の出前から張り切って家を出ていったしな。
ほんと、血は争えないものだ。
その後、しばらくページをめくっていると玄関の方からオリーブが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
どうやら朝食ができたようだ。
切りのいいところで本を閉じ、ロゼを連れて向かうことにする。
「さて、朝飯の時間だ。冷めないうちに食べに行こうぜ」
今日の朝食はライ麦パンにヴルスト、キャベツの漬物にゆで卵とこの地域では定番のメニューだ。
「さあさあ、ロゼちゃん。遠慮なく食べてね」
「は、はい、ありがとうございます」
ロゼは次々とパンのおかわりを勧めるオリーブの勢いに押されて断れない様子。
勧められるがまま食べ続けている。
口いっぱいにもぐもぐとしている姿はまるでリスのようだ。
「まあ、小動物みたいでとっても可愛らしい娘ね」
そんな様子をオリーブはにこにこしながら眺めている。
「なあ、オリーブ。水を差すようで悪いがロゼはそんなに食えないと思うぞ」
ロゼの目の前にはパンが小さく山を作っていた。
さすがにシャレにならない量になってきたので思わず口をはさむ。
「あら、そうかしら……残念」
オリーブが少しがっかりした声でようやく手に持ったパン籠を置いた。
「そういえばロゼちゃん、変わったお洋服を着ているのね」
やはりロゼの服装は不思議というか変わっているよな。
服は上下一体化している上に全体に緑や茶色の奇妙な模様がついている。
茂みの中に入ったら完全に同化してしまうんじゃないだろうか。
機能性の高そうな靴は上質な革で作られており綺麗に手入れもされている。
ここまで高品質な物はここら辺どころか国中探しても滅多にないだろう。
「そうでしょうか? 正直自分自身ではよく分からないです。そもそもこれしか着るものないですし……」
ロゼは自分の服を見ながらきょとんとしている。
「1着しかないのはこれから困るんじゃないかしら。カメリエのおさがりでよかったら沢山あるから貰ってちょうだい」
「えっ、お食事を頂いた上に着るものまで……本当に申し訳ないです」
「いいのよいいのよ、もう着ないものだし。じゃあ、お食事が終わったらさっそくお着換えしましょうか」
オリーブが心なしかウキウキしているように見えた。




