兵器
セージの言葉に耳を疑った。
「おい、それってまさか……」
「そう、この鉄塊は別世界の物であるはずの銃と同じ特徴を持っている。つまり、こいつもまた別世界からやってきた代物なんじゃないかな?」
まあ、現状では想像に過ぎないんだけど。
と、セージが言葉を付け足す。
「螺旋状の溝、あれは弾丸の軌道を安定させるものらしいよ。こいつからも弾が撃てたりするかもね」
まじかよ、拳くらいの直径はあるぞこの穴。
「そんなたいそうなものが装備されてるって事は兵器、だよな? 別世界の」
護身や狩猟、一般生活で使うにはあまりにも大袈裟すぎる。
こんなものの使用用途はただ一つ、戦争だ。
「おそらく、ね」
どうやら平穏なこの村には似つかわしくないずいぶんと物騒な物がやってきてしまったようだ。
「ロゼもこの兵器に関係しているのか?」
「そばに居た以上無関係ではないかもね。記憶喪失だからはっきりそうだとは言えないけれど」
あの幼気な少女がねぇ、とても考えられんが状況的にそうとしか言えないのも事実だよな。
「なあ、これってとんでもない状況なんじゃねえか?」
この世界には存在しないはずの技術で造られた兵器、いわばオーパーツも同然の代物だ。
一騎当千の活躍をしうる可能性を秘めた未知の兵器とそれについての情報を知っているかもしれない少女、アルメリア王国含め様々な国からしたら喉から手が出るほど欲しいはず。
そんなとんでもない情報が外部に漏れでもしたら……
各国の総力をかけた奪い合い、要するに戦争に発展することは容易に想像できる。
戦火に包まれる村と犠牲になる住人……考えただけでぞっとする。
「確かにこの事を誰か、特に各国のお偉いさん方に知られたら大変なことになるだろうね」
スケッチを終えたセージは顎に手を当て、考え込むように呟く。
「どうするよ? 隠すか?」
「多分重量も相当あるだろうしかなり時間がかかると思うよ。それにこんな辺鄙な所にそんな連中が来るとは到底思えないしすぐに見つかるってことはないんじゃないかな」
しばらくは様子見ってところか。
「ただ、ずっとこのままにしておくのもまずい。いずれにせよどうにかして人目の触れない所に隠しておかなければいけないね」
ふうむ、とりあえず目立たないように擬装しておく必要があるって事か。
周囲を見渡し葉の茂りが良い枝を探し集め、被せていく。
しばらくすると鉄塊を包むようにこんもりとした藪が出来上がった。
「一時しのぎにしかならないだろうがこれで誤魔化すしかねえな」
「とはいえ擬装のおかげで発見されるリスクはひとまず減った、かな? あとはこれからゆっくり考えよう」
俺とセージは猪を担いで山を下ることにした。
「ロゼが別世界の住人? ほんとに!?」
俺の話を聞いたカメリエが興奮気味に食いついてくる。
「あくまで"かもしれない"の話だからな」
ロゼは部屋ですやすや眠っている。
「まあ、確かにちょっと気になる部分とかあったんだよねえ」
少し納得したような顔で頷くカメリエ。
「気になる部分?」
「あの娘が首にかけてたタグ、金属製なのは見てわかったんだけど……鉄や銅、その他色々な金属と比べて軽すぎる奇妙な金属でできていたんだ」
確かに軽かった気もする。
「さすがに貸してくれとは言えなかったけどね……」
はは、まあ、そうだよな。
「代わりと言っては何だが別世界の兵器に興味はないか?」
セージが内部構造など細かいところも調べたいと言っていたのを思い出し、カメリエに話を持ちかける。
「例のロゼが倒れていたそばにあったっていうやつの事?」
「そうだ、それをセージが調べようとしていてな。もし興味があるのなら手伝ったらどうだ?」
1人より2人で調べたほうが効率もいいだろうしな。
「良いね、とてもわくわくしてくるね。今から楽しみになってきたよ」
カメリエの目の色が変わる。
それはまるで獲物を前にした猛獣のようだった。




