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鉄塊

「そっか、記憶喪失かぁ。てっきりおじさんが何かやらかして泣かせちゃったのかと思ったよ」


必死の説明でようやく誤解の解けた様子のカメリエ。


「私はカメリエ、よろしくね。ロゼ」


「俺はミステルだ。すまないな、騒々しくて」


改めて自己紹介をする。


「はい、よろしくお願いします」


ロゼは緊張が解けたのか少しリラックスしたような表情になる。


「ねえ、何か少しでも覚えている事ってある?」


今なら落ち着いて話ができると思ったのか、カメリエが少し踏み込んだ質問を投げかける。


「残念ながら何も……」


少し悲しそうに首を横に振る。


ううん、やはり記憶はないのか。


早くも手詰まりか、これでは家まで送ってやる事も出来ん。


横を見るとカメリエも腕を組んで考え込んでいる。


おそらく同じことを思っているのだろう。


「むう、あのさ、おじさん。これじゃどうしようもできないし記憶が戻る間だけでもこの家に居てもらうってのはどう、かな?」


やはりそうだよな。


「まあ、それが最善策だよな。このまま放り出すわけにもいかないし」


「え? そんな……ご迷惑ではないのでしょうか」


ロゼがうろたえているのがありありと伝わってくる。


「さっきも言ったがこんな状況の娘っこを一人で放り出すわけにはいかねえだろ。困ったときはお互い様ってやつだよ。遠慮すんな」


「そうそう。それにおじさんはこう見えても結構優しいから迷惑だなんて思ってないだろうし」


カメリエがまだ少しだけ戸惑っているロゼの背中を押す。


「本当にいいのですか? ……それではお言葉に甘えて、これからよろしくお願いします」


深々と頭を下げるロゼ。


「おう、部屋はここを使ってくれ。じゃあ、俺はセージのところに行って食事を作ってくる」


まあ、ゆっくりとくつろいでてくれ。


そう言い残して俺は部屋を出た。




扉をノックするとセージが出迎えてくれた。


「やあミステル、いらっしゃい。噂の子の調子はどんなだい?」


「ああ、ちょうどさっき目を覚ましたところだ。ちょっとキッチン借りるぜ」


キッチンに立ち、湯を沸かす。


「ひとまず大事には至らなかったようで何よりだよ」


「ただ少しばかり問題があってな、なんていうか記憶をなくしているみたいなんだ。それでしばらく面倒を見ることになった」


「ははっ、君らしい判断だね。賑やかになりそうでいいじゃないか」


にこやかに笑うセージはどこか嬉しそうだ。


湯気がたち始めたお湯にオートミールを一握り入れ、かき混ぜながら煮込んでいく。


「そういえば狩りの成果はどうだったんだい?」


セージの何気ない一言で今までそのことが頭からすっぱり消えていたことに気づく。


しまった、ロゼの件もあってすっかり忘れていた。


「まずいな、完全に忘れていた。大物が獲れたんだ。なあ、この後ちょっと手伝ってくれないか」


見てもらいたいものもあるしな。


「うん、今日の仕事は終わったし別に構わないよ」


セージに頼むと彼は二つ返事で引き受けてくれた。




「これはまたずいぶんと大きいねえ、ご近所さんに配って回っても余りそうだ」


大猪を見て感嘆の声を上げるセージ。


カメリエはロゼと共に留守番だ。


病み上がり状態の彼女を一人にしてはおけまい。


かなり不満をこぼしていたが頼み込むと渋々ながらも了承してくれた。


「すぐ捌いてないから肉に臭みが出てるかもしれんがな。ちょっとこっちに来てくれ、まず先に見てもらいたいものがあるんだ」


2人でさらに山の上を目指して登っていく。


目的の場所に到着すると。例の鉄塊は先程と変わらない様子でそこに鎮座していた。


「ほお、これは、本当に不思議な物体だねえ。実に興味深い」


躊躇せずにずんずんと近づいていくセージは静かに興奮しているようだった。


「ほとんど鉄でできているみたいだね。 うん、確かに馬車に見えなくもないけどどうやら違うみたいだ。車輪も独特でとてもユニークな形だ」


呟きながら食い入るように入念に観察している。


「車輪の回りの帯は悪路を走る為なのかな? 確かにこの形状なら岩に車輪を挟まれることもないし段差も越えやすくなるだろう。とても合理的だね」


観察が一通り終わったセージは少し離れた場所でスケッチを始めた。


「何か分かったか?」


「見ていて少し気になった部分があるんだ」


俺の質問にセージはスケッチを続けながら答える。


「まずあの上にある長い角みたいな棒、あれは中が空洞になっていて螺旋状に溝が彫ってあったんだ。それに似た小さい棒が下の方にも付いてた。僕はこれに見覚えがあるんだ」


「本当か?それはいったい……」


少し間を置き、こちらの方を見てはっきりと告げる。


「それはねミステル、君が今使っている銃。そいつとそっくりなんだよ」

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