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序章

「今日でこの街並みを眺められるのも最後か……」


馬車に荷物を積み込みながら感慨深い思いで長年住んできた都を見渡す。


「さ、お前さんの現役最後の仕事だ。長旅だろうが頑張ってくれよ。アンダルシア」


積み込みが完了した俺は馬車を牽いている馬を撫でながらつぶやく。


アンダルシアと俺が呼んだ馬は気持ちよさそうに目を細めた。


「よし、それじゃ出発するとしますか」


馬車に乗り込み、いざ出発とアンダルシアに合図を送ろうとすると聞き覚えのある声に引き留められる。


「隊長! 待ってください!!」


声の主の方を向くとそこには軍服を綺麗に着こなした青年の姿があった。


「どうした? オスカー」


「本当に行ってしまわれるんですか?」


オスカーは悲しそうな表情で俺を見つめる。


「あぁ、俺はもう魔術を使えない。兵士としてそれは死に直結する問題だ。部隊にとっても非常に大きなハンデとなりうる」


「しかし! 仮に術の行使ができなかったとしても隊長はそれをものともしない強さを持っているではないですか。何も引退までしなくても……」


なおも必死に食い下がる青年をなだめる。


「老兵は死なず、ただ消え去るのみ。これからはオスカー、お前さんが皆を率いていくんだ。これは俺の隊長としての最後の命令だ。いいな?」


「……ううっ、はい、隊長」


渋々了承するも顔は曇ったままのオスカーの頭に手をやりワシワシと撫でまわす。


「なあ、これはいわば新しい門出みたいなもんだぞ。最後くらい笑って見送ってくれよ」


「分かりました!分かりましたから撫でるのをやめてください!」


ついに観念したオスカーがぎこちなく笑いながら手を差し出す。


「隊長、どうか武運長久を」


「ははっ、俺はもう兵士じゃねえっつうの。まあ、お前さんもこれから頑張れよ」


俺も手を差し出して固い握手を交わす。


「じゃあ、達者でな!」


俺は再び馬車に飛び乗り、出発させる。


空は俺の新しい門出を祝うかのように青く青く澄み渡っていた。



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