自称《守護霊》、本性をあらわす
夕方、いつもの時間に帰ったが、同居人の出迎えはなかった。
昨日の今日だし、飛んで出てくるかと思ったが、おかしい。そっと居間を覗いてみると、なにやら一生懸命研究している同居人の姿があった。
「おかえり、コーキ」
足音立てずにそっと近づいたのにもかかわらず、《守護霊》はそうのたまう。
「気づいていたのか」
心の中だけでチッと舌打ちしながら返すが、軽く頷いた《守護霊》にお前はそうだったなと諦めた。
「昼はどうしたんだ?」
そういえば朝、パソコンをねだったのに、昼食はねだらなかったから、どうしたんだろうと思って尋ねると、食べたよという。
「Amagonで注文した」
「まさかたったの三十分でお届けってやつか」
「うん、プライム会員だから、使い放題。十年来のお得意様です」
偉そうに言う《守護霊》。《守護霊》も俗物的な|通販サイトAmagonを使うんだ――って違うか。本人はすでにその設定を崩しつつあるし。しかし、プライム会員を十年間って、かなり値が張るんじゃなかったっけ。月額二千円はくだらなかったはずだぞ。
少し自称《守護霊》との経済格差を感じつつも、昨日と同じく夕ご飯を二人分作り、彼女とともに食べた。
「やっぱり昔からコーキって器用だよね」
自称《守護霊》はおかずの豚肉と野菜の炒めものを食べながらそう切りだした。
「昔から?」
一瞬、妙な単語が聞こえたような気がした。《守護霊》はうん、と当たり前のように頷く。
「昔からずっとコーキは器用。パソコンのバックグラウンドの情報を吸いとったり、穴を修繕したりって。だから私、コーキに憧れて、コーキを目指して、パソコンの勉強したけど、結局、できたのは引きこもり」
コーキみたいに得意のパソコン使って社会に貢献なんて、できてない。
《守護霊》はフードの耳をしょんぼり垂れさせて言う。
「だから、社会に出てるし家庭的な部分もできるコーキを困らせたかった」
彼女の言葉にふざけるなとは言えなかった。彼女の気持ちがよくわかったから。自分自身、ある人に影響を受けてハッキングするようになったけど、それまではただのなにもできない男だったから。たまたまその人がいなかったら、俺は……――。
「ねぇ、藍田コーキくん。私を覚えているかい?」
《守護霊》の呼びかけにうん、と頷いた。ようやく猫のように人懐っこい彼女の名前を思いだした。ついでに彼女といつものように繰りかえしたやりとりも、ね。
「ああ。それと、俺の名は藍田光喜だ、黒根麻紀さん」