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4.捧げる少女

「さ、ユーリ……少しずつ舐めてみて」

「んっ、ふぁい……」


 エウリアがそう言って、自らの血の滴る指先を差し出す。

 ユーリはそんなエウリアの指の血を、そっと舐めとった。

 血は鉄の味がする――そのはずなのに、エウリアの血はとても甘くて、美味しい。

 いつからか、エウリアがユーリに血を与えてくれるようになった。

 ユーリには吸血鬼の素質がある。だから、エウリアはユーリを育てて、同じ吸血鬼とすることにしたのだと言う。

 いわば子育てのようなものだ。

 ……吸血鬼という種族は子供を作るのではなく、こうして他人を自らの眷属として数を増やしていく。

 ユーリは少しずつ、だが確実に吸血鬼としての才能を開花させつつあった。


「そうそう、上手よ。急がなくても、私の血はいっぱいあるからね?」


 ただの食事として生かされていたユーリは、気付けば愛玩動物くらいの扱いにはなっていた。

 エウリアの指から流れる血を舐めとっている間、ユーリの頭を愛おしそうにエウリアが撫でる。……誰かにこうして甘やかされるような経験は、子供の頃から少なかった。

 どこか変な気持ちになりながらも、ユーリはすでに今の状況を受け入れつつある。

 彼女のユーリに対する態度は、最初からどこか優しい雰囲気があった。

 それが人間に対する愛情なのではなく、まさに彼女が『少女の生き血』を愛していることを象徴しているものだと理解できる。

 だからこそ、ユーリはその偽物の愛情を享受することにした。

 彼女がユーリを吸血鬼にすることを望むのであれば、それを甘んじで受け入れるのだ。

 ――ただ餌として生きるよりも、この方がよっぽど人らしく生きていける。生きていられる絶望しかなかった日々に、少しだけできた希望なのだ。


(今だけ、今だけは……)


 エウリアに従うようにしながら、ユーリは心の奥底ではまだ堕ちてはいなかった。

 甘えるようにしながら指の血を舐めとると、エウリアがとても嬉しそうな表情を浮かべる。


「ふふっ、とっても可愛い娘。本当に貴女のこと、狙って正解だったわ。ほら、美味しい?」

「美味しい、れふ……」


 恍惚な表情を浮かべて、ユーリはエウリアが喜ぶことをする。

 普段の態度からでも分かるように、エウリアが自分に気を許し始めている。その事実に気付いたとき、ユーリの心の中に芽生えたのは勇気。

 すでに吸血鬼となりつつある彼女は戻れないところまで来てしまっているが、それでも忘れていないことがある。……殺された仲間達のことと、エウリアを放っておけば犠牲者がただ増え続けるということだ。

 彼女が姿を消している時、それはユーリを殺さずに別の人間から生き血を吸い上げているのだと、ユーリは気が付いた。

 ユーリが生かされることによって、別の誰かが犠牲になっている。

 罪悪感に苛まれながらも――ユーリはエウリアに従いながら生きているのだ。


(だから、わたしは、生きないといけない……)


 エウリアのことを、必ず殺す。

 一緒にいれば一緒にいるほど、湧き上がってくるのは憎しみの心。――そんな彼女に従うほかない自分も許せずに、ユーリの中では憎しみと苦しみの感情だけが渦巻いている。


「エウリア、わたしの血も……飲んでください」

「うふふっ、丁度いいタイミングね。私も、貴女の血がほしかったところなの」


 自らエウリアの歯痕の付いた首筋を見せると、エウリアがすぐに血を吸うために牙を立てる。

 何度続けても、血を吸われる瞬間は気持ちがよくて、また後悔の気持ちが生まれる。

 エウリアを喜ばせるために血を与える、自分自身にだ。


「ああ、ああ……! とても可愛いわ、ユーリ。可愛くて可愛くて可愛くて、今すぐ血を吸い尽くしてしまいたいくらいには……でも、貴女のことはもっと、愛してあげないとね?」

「ふぁ、あっ、ありがとう、ござい、ますっ」


 それでも、その時が来るまでは――ユーリはただひたすらにエウリアからの『愛』を受けて、自らの血を捧げた。

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