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18.休憩の時間

 森の中を進み続け――すでに太陽は傾き始めていた。

 真夜中には王都には辿り着ける予定であったが、ユーリはちらりと後ろを歩くリンスレットに視線を送る。


「はっ……はぁ」


 リンスレットの呼吸が乱れている。

 ほとんど休まず歩いてきたのは事実だが、元々『正騎士』であったリンスレットがこの程度で体力を失うはずがない。


(……やっぱり、『成り立て』だとつらいのね)


 リンスレットが元気に見えたから、さほど気にしてはいなかった。ユーリが吸血鬼になるまでも、ほとんどベッドでの生活であったことを考えると、馴染むまでは疲れやすくなるなどの弊害があってもおかしくはない。

 あるいは、単純な彼女の身体に不調が起こっているか、だ。


「……」


 ピタリ、とユーリは歩みを止める。


「……? どうしたんですか?」


 リンスレットが顔をあげる。

 いざつらい状況となると、リンスレットは逆にユーリに「休みたい」などとは言わなくなった。

 ユーリのことは気にするというのに。

 本当に『危機』に陥らなければ、リンスレットは助けを求めないのだろう。

 それこそ、森の中で動けなくなるというレベルの危機に。

 ――あるいは、『吸血鬼には頼らない』という、騎士らしい考え方が彼女にまだ残っているのかもしれない。


(どっちでもいいことだけれど)

「気が変わったわ。今日はこの辺りで休みましょう」

「! で、ですが、王都まで今日は行く予定だったのでは?」

「あら、あなた……町の近くでは休みたがっていたじゃない」

「そ、そういうわけでは……お休みを取ると言うのなら、それで大丈夫です」


 リンスレットがその場にへたり込む。

 やはり、無理をしていたのだろう。

 小さくため息を吐くと、ユーリは歩き始める。


「! あ、あの!」

「……なによ?」

「どこへ行くんですか?」


 リンスレットが不安そうな表情で問いかける。

 まるで捨てられた子犬のような表情――くすり、とユーリは笑みを浮かべた。


「そんな顔しなくても、あなたを置いてどこかに行こうなんて思ってないわ。吸血鬼になりかけのあなたを捨てる時は……『殺す』ときだから」

「……っ」


 びくりと、わずかにリンスレットが身体を震わせる。

 殺意にも似た視線を受けて、怯えた様子だった。

 リンスレットがユーリを信用しているのか分からない――けれど、少なくとも、彼女はユーリには敵意を向けていない。

 それは楽なことではあるけれど、リンスレットがユーリを『嘗めてかかる』ようなことがないようにしなければならない。

 吸血鬼としての誇りがあるのではなく、ユーリはあくまで吸血鬼でしかないということを、教えるためだ。

 ユーリはリンスレットの下を離れて、森の中を進む。

 周囲にはいくつか《魔物》の気配がする。

 ユーリは小さく笑みを浮かべて、


「鬱憤を晴らすわけじゃないけれど――どうしてあんな子の面倒をわたしが見ないといけないのかしらね」


 ヒュンッと風の切る音を周囲に響かせる。

 並び立つ木々の合間を縫って、ユーリが飛ばしたのは『糸』。

 血液を糸状にしたそれは、細い刃となって走る。

 こちらの様子を離れたところから窺っていた魔物を、一匹仕留めた。

 一斉に、様子を窺っていた魔物達が逃げ出す。

 何が起こったのか分からなかっただろう。

 ただ、ユーリの様子を見ていた魔物の一体が突如として倒れ伏した……その結果だけが、彼らの『勘』を刺激したのだ。

 ユーリには、近づいてはならない、と。


「ふぅ、これで静かになったわね」


 ユーリはくるりと反転し、リンスレットのところへと戻っていく。

 ずるり、ずるりと――赤い糸に引きずられる魔物が、後から続いた。

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