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綺麗な婚約者  作者: 霞合 りの
あなたに会う日を待ち焦がれ
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45 昨今のお見合い事情

ショーンがにっこりとドミニクに笑いかけた。


「ドミニク、それは違うよ。姿も一つの基準かもしれないけど、家柄だって基準の一つだろう? それに加えて重視されるのは、影響力もあるんだから」

「え、影響力? だって私、庶民上がりよ。それも子爵で・・・私自身に特技があるわけではないし、何も・・・」

「君を手に入れることにはちゃんとステイタスがあるんだよ。だってセレスの友達だもの。数少ない友達」

「まさか・・・そんなことが?」

「君が公爵令嬢に縁があるなら、それだけでウリになる」

「え・・・えぇ?! そうなの? セーレ」

「そういえば・・・そうかもしれないわ」


私はあっさり頷いた。ドミニクが驚愕したように口を開け、刺繍を刺す手が完全に止まった。


「君がセレスと仲がいいのは、見てればすぐ分かることだからね。誰かが進言したんじゃない? ウォーリー家の三姉妹のうち、手に入れてしかるべきなのは、ドミニクだって」

「でも・・・お姉様達の方がずっと美人で、社交上手よ? 私なんて、舞踏会も嫌いだし、お茶会も嫌いだし・・・」

「でも、君の姉上や妹君は、セレスと友達じゃないでしょ」


こともなげにショーンは言い、特に主張もなく続けた。


「だから、間違えた訳じゃないと思う。でも、ヴァレリー公爵家へのつながりへの、とっかかりが欲しいのは向こうじゃない? それなら媚び売るまでは行かなくても、好ましく思ってもらう必要はあると思うんだけど。全然調べないなんて、自分の方が立場が上だとでも思って・・・あぁ、まぁ、爵位はね・・・でもドミニクから断ったんだから、痛快だな」


面白そうに笑うショーンを見て、知ってるのね、と私は理解した。


実を言うと、その伯爵令息はアンドレと一揉めしたことがある。


私がシルヴィー商会のドレスメゾン、ヴァン・パリスの広告塔をしているということで、私に口利きを求めたことがあるのだ。アンドレは当然のように拒否をしたが、彼は爵位が下のくせにと面と向かって文句を言ったばかりか、周囲にデマなどを根回しして、一時期アンドレの評判をものすごく下げてしまった。


彼にしたら、私に紹介して欲しいと言っただけなのに拒否するなんてありない、ということだそうだが、アンドレにしてみたらトラブルの予感しかしないそうで、ジネットが笑いながら、それでも紹介しなかったアンドレをかなり評価していた。


アンドレのすごいところは、その後、特に報復することもなく、自力で名誉を挽回し、彼を一つも責めなかったことだ。その方が相手へのダメージはすごいのだとアンドレは自慢したことがあるが、それも、客観的に見た自分への自信が相当ないと、できることではない。


「ショーンったら、ドミニクが驚いてるわ」

「ああ、ごめんね。つい。でも、そうかぁ、お見合いか。ついにドミニクにも、そういう話が増えてくるんだね・・・いつまでも可愛い妹ってわけにいかないか」


すると、ドミニクがしょんぼりと肩を落とした。


「実は・・・その、この刺繍も、お見合い対策なの」

「どういうこと?」


私が首を傾げると、ドミニクは視線を落とした。


「言い出した時はもちろんそんなつもりなかったわ。でも、お見合いが嫌で、・・・ルイが遠征に行っている間、セーレの刺繍のお手伝いをするからお見合いはしたくないってダメ元で言ったら、両親は一も二もなく優先しろって。セーレとお付き合いすれば、きっといい影響があるだろうって。・・・私、淑女としてのあり方だとばかり思っていたの。でも、・・・今の話からすると、貴族間での影響力が強まるってこと? この二ヶ月、セーレの家に通ってるとなれば、私の貴族としての価値が上がるってことなのね」


ドミニクは心配そうに私に向いた。


「でも、信じて。私、そんなつもりでセーレと仲よくしているわけじゃないわ」

「まぁ。そんなこと、思ったことはないわ、ドミニク。でも、例えそうであっても構わないのよ。だって私があなたを好きなんだもの」

「なんてことを言うの。私もセーレが大好き。よかった、セーレ・・・」


ドミニクが嬉しそうに、手を自分の胸に置いた。


・・・もう刺繍しなくていいかしら。


私がこそこそと手元の刺繍を片付けようとすると、それに気がついたドミニクが、片付けたそばから広げていった。


うん。刺繍、しよっか。


私とドミニクの様子を見ながら、ショーンはぽそりとつぶやいた。


「セレスはどうしたってそうなってしまうね。たかが三番目、されど三番目だ。僕も少なからずそうだけど・・・僕よりも君の方が受身だから、時に心配になるよ」

「ショーンが? 私を心配してくれるの?」

「当たり前だよ。友達だもの」

「ありがとう。嬉しいわ。さすが、庭先で勝手に剣の練習をするだけはあるわね」


私が言うと、ショーンは目をくるくると楽しそうに回した。


「おや、嫌味かい?」

「庭先で遊んでないで、すぐに訪問してほしかったわ」

「二人の邪魔をしちゃいけないと思って・・・現に、手が止まってるだろう?」


う。


私はドミニクと目を合わせ、軽く吹き出した。


「ほらね。これ以上邪魔をしないように、僕はもう行くよ」


お茶を飲みもせず、ショーンは部屋を出て行こうとした。


「どこへ?」

「庭先。もう少し練習したいんだ」

「珍しいわね」

「久しぶりだから」


ショーンは軽く手を振って部屋を出て行った。


「・・・部屋にいればいいのに」


私が言うと、ドミニクが私の肩をそっと叩いた。


「外にいることに意味があるのかもしれないわね。ルイに言われたのなら」

「どんな意味?」

「セーレを守るという意味よ。今はブリュノ様もいらっしゃらないし、どうしたって、警備は手薄になるでしょう? あれだけ見える位置にいれば、牽制してるように見えるんじゃないかしら」

「なるほど・・・ショーンは腕が立つし、適任かもね」

「そうなの? 荒事はアンドレの方がうまそうな気がするけれど」


目を見開いたドミニクに、私は笑った。


「恋人の取り合いというなら、アンドレの方が得意でしょうね。でも、強盗なんかはショーンの方が慣れているはずよ。鉱山からの帰り道は、宝石を積んでいるから何度も襲われたって言っていたもの」

「まぁ、見かけによらないのね・・・」

「そうなのよ。人は見かけによらないの」


だから私が刺繍が苦手なのも仕方のないことだ。私がこっそりと裁縫道具を片付けようとすると、ドミニクはその手を優しく押さえた。


「ほら、刺繍が残ってるわ。セーレったら、まだまだ先は長いのよ。ルイが帰ってくるまでに仕上げるのでしょ?」

「ドミニク、私、プレゼントを買うことを諦めていないわよ」


私は断固として宣言したが、ドミニクはどこ吹く風で、気にも留めない様子で、刺繍途中の大判のハンカチを広げた。


「とてもよくできてる。残り、ルイが帰ってくるまでに終わらせるには、毎日、ちゃんと刺さないとできないわよ。きっとルイも喜んでくれるわ」


ドミニクの有無を言わせぬ笑顔に、私はため息が出そうになるのをかろうじて堪えた。


本当は・・・プレゼントを買いに行きたいのに。




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