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綺麗な婚約者  作者: 霞合 りの
ルイの受難は全方位 ールイのとある一日ー
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36 第三の受難:ライバルとの対峙

とそこへ、後ろから声がかかった。


「ルイ!」


知った声に一瞬びくりとしたが、ありがたいことにブリュノではなかった。それでも、その懐かしい声は振り向かないと誰であるかはわからなかった。


「アルド!」


かつて騎士学校の寮で同室だった、アルド・ヴェローヌだった。俺は喜んで駆け寄った。


「どうしたんだ? お前も近衛騎士の試験を受けるのか?」

「いいや。観に来たんだ。面白い見世物だから」

「見世物?」

「知らないの? 騎士団の中でも一番の精鋭に挑むんだから、面白いに決まってるだろ。それに、今回はお前が出るんだからね」


なんだか不思議だった。気にかけてもらうのは嬉しいが、俺目当てに来るほど、俺は影響力などないと思っていた。


「俺は関係ないだろう」

「あるって。ありありだよ! まっさか、俺だってルイが近衛騎士に抜擢されるなんて思ってなかったもん。俺たちが協力したおかげかねぇ。婚約者さんは元気? 上手くいってる?」

「あぁ、・・・元気だよ。あの頃から変わりないけど、・・・すまない、誰か連れがいたんだな」


すると、アルドは慌てて振り返った。


「あ! そうそう。一緒に来たんだ。スティーブ殿、こちらルイ・・・ウェベール殿、なぁ、・・・ルイ=アントワーヌ=レオン・ウェベールって長くない?」

「仕方ないだろ、そういう名前なんだから。略式でかまわないのに覚えててくれて嬉しいと言わなきゃならないか、アルド。・・・相変わらずすぐに脱線するな」


俺が呆れて言うと、アルドは笑った。


「ごめんごめん。ルイ、こちらはスティーブ・ティボー殿」


なんだって?

こいつが?


アルドが示した相手を、俺は穴のあくほど見つめてしまった。


そばかすに金髪、人懐っこそうな優しい顔で、気は弱そうだが芯は強そうな人物。セレスティーヌに出会って二回目でプロポーズした、正直なところ、俺の敵だ。


アルドは俺の戸惑いに気づかない様子で、明るく話を続けた。


「西騎士団の所属なんだけど、俺が東に所属するまで、何かとお世話になってさ。所属が離れた後も、まだ気にかけてくださるんだ。お前のファンなんだって。すげぇな! 俺がルイと知り合いって言っても信じないからさぁ、一緒に来てもらった」


アルドが言い終わるか終わらないかのうちに、スティーブは勢いをつけて腰からおるほどに頭を下げた。


「す、・・・スティーブ・ティボーと申しますっ・・・ お噂はかねがね、あの・・・わ、私はずっと騎士学校の時から知っておりました。私の代は誰も敵わない後輩がいる、と・・・そして、その立身出世に憧れておりまして、あの、」


それで婚約者を盗ろうっていうのか? ひどい話だ。


「あーあ、舞い上がっちゃってますね。敬語なんて使わなくたっていいんですよ、スティーブ殿。後輩なんですから」

「いや、でも、しかし・・・」


俺は苛立ちを抑えて、握手をすべく右手をスティーブに伸ばした。


「ルイ=アントワーヌ=レオン・ウェベールと申します、スティーブ・ティボー殿。お褒めいただき光栄です。私など近衛騎士を務めるには取るに足りませんが、ご期待に沿えるよう、精一杯、務めさせていただきたいと思っております」


スティーブが躊躇なく俺の手を取って、強く握手をする。


「ご謙遜を。期待などと、・・・事実です。ウェベール殿は真に優秀な方ですから」

「だといいのですが」


言いながら俺は、ちゃんと笑えているのかわからなかった。背後からショーンがジリジリとこちらを伺っているのがわかる。殺気すら感じられる。


「どなただい、ルイ?」

「あぁ、ショーン・・・寮で同室だったアルド・ヴェローヌ殿、・・・は知ってるか。その先輩のスティーブ・ティボー殿だ」

「ふーん? うん、アルド君は覚えてるよ、剣の練習を一緒にしたよね。・・・ティボー殿、僕はショーン・エマール。侯爵家のしがない三男坊でーす」

「お前、軽いなぁ・・・」

「だって僕、騎士じゃないし」


するとスティーブが首を傾げた。


「それでは、なんでここに?」

「市場調査で、仮入団です」

「近衛騎士に?」

「だってやっぱり、近衛騎士が一番贅沢な剣を使ってるじゃないですか。さっきもジョージ君と話してたけど、ルイがご本人にもらった”ブリュノモデル”がいかに素晴らしいかってことでしてね」


ショーンがペラペラと言うそれっぽい口上に、好奇心の強いアルドが食いついた。


「そうなんですか?! 立派な剣だと思っていたけど、ブリュノ殿本人にいただいたのかぁ・・・! 婚約者様の兄上ですよね。こんなのいただけるなんて、信頼されてるんだねぇ」


アルドが朗らかに言う。


「そうなんだよ。ブリュノ殿の本気が現れてるのは、この文様なんだけどね。特注なんだって」

「えー、すごい! どこらへんが?」

「気になる?」

「もちろん! 俺も作ってみたいからさ。さすがにここまで贅沢はできないけど」


アルドが興奮しすぎて敬語を忘れた。ここは騎士団で、騎士としては同期だった。身分の差があるとはいえ、敬語でなくても何の問題もない。


ショーンは嬉しそうに笑った。実際、きっと、嬉しかったのだろう。立場上、距離を置かれてばかりだから。


「いいね。その時はうちで作ってよ。ちょっと安くするからさ」


言いながら、二人は顔を突き合せるように話し始めた。手持ち無沙汰そうに俺を見たスティーブの視線が、随分とトゲトゲしかった。


「何か?」


俺が言うと、スティーブは視線をそらし、ぼそりと呟いた。


「あなたはなんでも持っているじゃありませんか」


俺は溜息をついた。どうしてそんな風に思うのか。


「婚約していなければ、ブリュノ殿から剣などもらえませんよ」

「そういう意味ではありません。ですがきっと、・・・あなたはいただけるのですよ。王太子にだって、気に入られるでしょう。きっと」

「会うことすら叶わない相手ですが・・・?」

「でも、そう噂されています。私もそうだと思っております。そんなあなただからこそ、婚約者様の影響力を欲しがったりはしないのでしょう・・・あなたに必要だとも、彼女は思っていないようですし」


俺はふっと笑った。


「そうですね。彼女は・・・よくわかっているんです」


それなのに、セレスティーヌが、俺がドレス好きだと思い続けてるのは、・・・俺が悪いのだろう。恥ずかしくて悔しくて、知られたくなかったから。


「あなたにはもっとふさわしい方がいるのではないですか」


だからセレスティーヌを譲れと?

譲りたくないから、ここまでやってきたのに?


「ティボー殿。私が彼女にふさわしくないとすれば、私が実力をつけるまでです」


スティーブが言葉を詰まらせた。俺がなお言い募ろうとしたところで、ジョージが呼んだ。


「ウェベール殿」


振り向くと、ジョージが期待を込めた目で俺を見ていた。


「模擬試合のお時間が迫ってまいりました。準備を始めましょう」

「ああ」


俺は頷いた後、スティーブに振り向いたが、そこには誰もいなかった。




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