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綺麗な婚約者  作者: 霞合 りの
刺繍もドレスもあなた次第
47/92

33 これは嫉妬ではない

「ユニス様とお会いになって、どうでしたの?」


ルイは一瞬、邪魔をされたと言いたげに、動きを止めた。そして、深く息をついて、落ち着かせるように私の顔を見ると、首を傾げた。


「ユニス様?」

「一番にお見舞いに来たご令嬢よ。トーレリ地方の刺繍のドレスを着こなしてらした」

「あぁ、・・・って、顔もちらりとしか見てないし、あまり近くに寄らなかったから、印象にないけど。以前、ドレスの刺繍がお前に似合うと思って教えてもらっただけで、仲がいいと思われるなんて心外だ。何で? 気にしてくれるのかい?」


ルイらしい。本当にルイはドレスが好きなんだなぁ・・・


「だって・・・ルイが寝込んでから、一番に会いに来てらしたから。誰かがそばにいて欲しい時に一番に来てくれるのって、嬉しいでしょう? それに、ユニス様は綺麗だし、頭もいいし、センスもあるし、ご自分に自信のある方だし、・・・だから、私に会うより嬉しかったかなって、・・・思っ・・・たの・・・」


なんだろう、このあまり言いたくないというか、言いながらいたたまれない感じになってくるのは・・・別におかしなことなんて言ってないのに・・・知られたくないことのような、言うのが悔しいような。


恥ずかしくなって、私はルイが何かを言う前に口を開いた。


「でもルイは私に会いたかったのでしょ?!」

「! ・・・あ、あぁ、・・・」

「会えて嬉しい?」

「もちろん」

「でも、病気だって連絡もくれなかったじゃないの。ユニス様はすぐに来たのに」

「勝手に来たんだよ、俺は知らない」

「でも、ルイには、私よりずっと、会いたい人がいたって別に構わないんだし、私よりユニス様に会って嬉しくっても、」


言いながら、同じことを言っていると思うと恥ずかしくなって、俯いてしまった。子供みたいに駄々をこねて、馬鹿みたいだわ。うつむいたままちらりとルイを見ると、ルイがひゅうと変な音を出した。


「・・・嫉妬?」

「え?」

「嫉妬、してるのか・・・?」


信じられないものを見るような目で、ルイが私を見た。失礼な。それでも私は思わず、肯定するように視線をそらしてしまった。


うわぁ、どうしよう。自然と頬が熱くなる。ルイの顔だってまともに見られない。ルイはどんな顔をしてるの? 嫉妬なんてしてないけど、してたと思われたら、今度こそ本当に呆れたかしら? 


私の不安をよそに、ルイは焦ったように言葉を続けた。


「だ・・・だって、セーレは俺が決めていいと言ったんだろう? ユニス様に何を言われても、俺が・・・選ぶのだと。だからセーレは・・・俺のことなんて・・・」


ルイは言葉を切った。しばらく沈黙が訪れ、私は何か言いたそうなルイの次の言葉を待った。


「俺には・・・」


ルイの声が震えて聞こえた。


「セーレより会いたい女性なんて、いつだっていないよ」


そして、ルイの指が、私の顎を軽く上げた。ルイが私を見下ろしている。ルイの目がとろけそう。


ええ、そうね、・・・すごく眠そう。


ルイの手がするりと私の頬に移動した。


「セーレ・・・」


ルイの顔が近付き、紺碧の瞳に私が映り、そして、


・・・視界が一瞬で白くなった。


次いで、ふわり、と布の感触がする。


「申し訳ありませんが、ご病気を移されるわけには参りませんので」

「アガット・・・」


澄まし顔のアガットに、ルイが目を移した。睨みでも効かせるかと思ったが、意外とあっさりと視線を外し、私を見た。


「悪い」

「何が?」

「・・・何でもない」


言うと、ルイはうつむいて、私の肩に額を乗せた。熱い息が規則的に腕にかかる。まだ少し、額から伝わる熱が高い。具合が悪そうだ。


「ルイ、元気ないの?」

「・・・ない」

「そうなの・・・」


私がかわいそうにとルイの髪を指で梳くと、ルイは、んん、と喉を鳴らし、ちらりと上目遣いに私を見た。


「・・・今のでちょっと元気出た」

「あら、そうなの。それなら、・・・」


私は少し考えて、ルイににこりと微笑んだ。今日の、私を見るルイの眼差しは相変わらずとろけるようだ。


「子守唄を歌ってあげる」


「・・・は?」

「あの三人のおかげで、ルイはすごく疲れてるのよ、きっと。あの三人組は本当に悪趣味なんだもの、元気なくなっちゃったのね。だから、ちゃんとベッドに横になって、ゆっくり寝るといいわ。ルイが眠るまで、ここにいてあげるから。手も握ってほしいなら、握ってあげる。病気で元気がなくて心細い時には、とてもいいわよね。フランツにもよくしてあげたわ。あの子、元気かしら?」


私は言いながら、有無を言わせずルイをベッドに寝かしつけると、ルイの手を握った。ルイはぼんやりと繋いだ私の手を見た。


「・・・セーレに看病してもらえるのか・・・それなら・・・風邪も悪くないな」

「何言ってるの、悪いに決まってるでしょ。病気なのよ?」


私は言うと、ルイの額をペシリと打った。ルイはうっとりとした熱っぽい目で、私を見あげていた。眠いのなら、早く眠ればいいのに、ずっと私を見ている。


そんなにドレスが気に入ったのかしら。


そう思いながら、弱気になって甘えてくるルイは可愛くて、私は頼まれるまま、翌日も見舞いに来ることに同意したのだった。





お見舞い編終了です。


余談ですが、アンドレとショーンとクロードは、隣の部屋で、そわそわと待っていたけど、セーレが出てきてルイが寝てしまったと言われると、軽く悪態をついて帰って行きました。

それを横目に、アガットはアダムに寝室での主人二人の様子を報告。アダムもわかって一安心。



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