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綺麗な婚約者  作者: 霞合 りの
あなたのいないお茶会は
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24 努力の報酬

「私、間違ってる?」

「ある意味、間違ってないさ。でもそしたら、ルイの今までの努力が水の泡だからね」

「そうそう。ルイをかわいそうだと思うなら、まだ婚約しておいておやりよ」

「ルイが・・・かわいそう?」


そうは思えないけど。私をからかう時も剣を握ってる時も、随分と楽しそうだったわよ?


「そうだろう? 仮婚約の時から、騎士学校で一番になれだの、社交に手を抜くなだの、騎士団で抜きん出ろだの、近衛騎士になれだの、家業の勉強も同時にしろだの、次から次へと飽きもせず、ルイは無言の圧力の中に課題を見つけてくるよね」


そんなに? 


公爵令嬢の私と婚約したからって、そんなに課題を与えられては辟易しないはずがない、と思うのだが・・・そんな片鱗を見たことがなかった。怒鳴ったことはあったけれど、アガットに言うところによると、私が鈍感だからだそうだし、それ以外は今のところ平和だし、・・・だいぶ、ドレスのこと以外も話せるようになった。でもきっと、ルイの心は満たされていないんだ。そんなにあれこれと課題を見つけるんだから。


ルイはそんなに・・・ドレスが好きなんだろうか。私、ルイが満足できるドレスを作れるだろうか? もし子供ができても、ルイの好みのドレスを着てくれるだろうか? そうでなかった時、私はルイにとってなんなんだろう?


「そして、全部期待に応えてるんだから、それなりの報酬は必要だよ」


アンドレが続きを引き取り、ニコリと微笑んだ。有無を言わせぬ、惚れ惚れするほど甘やかな顔。慣れてないと、どんな令嬢もイチコロに惚れてしまうだろう。なんて罪深い人なんだ、この人は。


「ほ・・・報酬にだって選ぶ権利はあるじゃないの」


私が拳を抱えて言うと、アンドレはかぶせるように言ってきた。


「ルイと結婚したくないの? 一緒にいたくないの? そのために何かしてないの? それなら俺にも考えが」

「わ、私だって頑張ってるわよ。絵にはだいぶ詳しくなったし、歴史だって勉強してるし、あらゆる楽器をそれなりに弾きこなせるように練習してるもの。必要なんでしょう? アンティークジュエリーもショーンに教えてもらってるし、貴重なレースについてもドミニクに教えてもらってるし・・・」


言いながら不安になってきた。ルイが課せられたことに値する、”それなりの報酬”ってどのくらいなんだろう? これで足りてるのだろうか?


「それに、その、だけど、一応、肌の手入れも髪の手入れもちゃんとしてるのよ、顔の造作はともかく、肌と髪くらいは、とりあえずルイより綺麗でいないと・・・ドレスだっていろいろ考えてルイの好みを研究してるし、・・・でも・・・これじゃ、足りないってことよね? だから、ユニス様は私がふさわしくないとおっしゃって・・・」


主張しながら、私は言っていることが正しく思えてきた。


確かにユニスはジネットと同じ年で、ルイにはお似合いの年齢だろうし、社交界の華と呼ばれているくらいに華やかで美しいし、ちょっと強気なあの感じも令嬢としては申し分なく気高いし、取り巻きのお嬢様方もたおやかな方ばかりだし、・・・私よりずっとルイの隣にふさわしい気がする。


アンドレは慌てて言葉を被せてきた。


「いやいや。うん、セレスティーヌはよく頑張ってる。ルイの仕事には必要なことだ。足りないところなんてないよ。それに、君の持つ、元々の審美眼と、優雅な所作があれば、繁盛間違いなしさ」

「・・・そうかしら? 大丈夫かしら?」

「もちろん。俺たちだって、勉強を手伝ってるし、ルイも自分で学んでるわけだし。真贋の区別について、顔料の極意を一緒にエヴェの兄上の講義を聴きに行ったばかりだしね」

「真贋? ・・・偽物って、なんだかちょっと変だけど、使うには問題ないもののことよね?」

「まぁ、ある意味ね」


アンドレは肩をすくめた。


スティーブが呆然としてつぶやいた。


「セレスティーヌ様は、・・・そのお立場を離れて、・・・子爵に成り下がることを残念に思っておられないというのですか?」

「さっきも言っていたでしょ? セーレは子爵夫人になることに意欲的よ。だってお相手がルイだもの。ルイもそのつもり。侯爵様になりたいわけじゃないのよ」


エヴァがスティーブを諭すように言った。


スティーブはようやく納得したように、肩を落とした。


「・・・僕たち一般の騎士には、到底理解できません」

「あぁ。名を上げて、貴族になりたい騎士もいますからね」

「貴族にまでならなくても、地位を上げるために、騎士団に入る人が圧倒的に多いんです。貴族でも騎士でも庶民でも、上に行きたがるのは当たり前、一つでも爵位を、地位を上に押し上げたい、そう願って、僕たちは仕事をしてるんです。もちろん、国を守るため、というのが一番ですが」

「理解してるつもりですよ。俺だって騎士学校にいたんだし、騎士団に入る準備だってしてたんだから。国を守る大義名分だけじゃ、モチベーションは保てないのはわかっています。それでも、能力の差ははっきりしてきて、成り上がるのは諦めて自分の持ち場を守る、って方に落ち着くのが大半ですよ。理想は理想として、夢を描くのは悪いことじゃない。でも、他人にそれを求めてはいけないんです。ルイから聞いたわけじゃないのに、勝手に噂して思い込むのは、正しいことではないと思いますが」


クロードがさらに、スティーブを諭している。


私のせいで、ルイがまた嫌な思いをするのは切実に嫌だと思う。いつだってルイは、私と婚約していることで、色々言われてきているから。子どもの時のお茶会でも、お祭りでも、パーティーでも。それでも、私と一緒にいてくれたけど。気にしていないと言ってくれたけど。


結局私は、ここにルイがいないと、なんだかとっても、寂しい。


仏頂面でも、無口でも、綺麗と言ってくれなくても、それでも私はルイがいるとなんだかんだ安心する。

お茶会でそばにいてくれなくても、何かあれば来てくれて、エヴァやアンドレと軽口を叩くルイがいいのだ。


それでもきっと、ルイは嫌だろうなと思う。

しかも、せっかく入った騎士団で、頑張ってる近衛騎士の仕事のことで、こんなふうに揶揄されてしまって・・・


ルイの昇進が、私の七光りじゃないって言われるのは嬉しかった。

でも私が脅しているような風に言われるのは悲しかった。

ルイだってきっと、そんなことは望んでいない。

だって、ルイは自分で言ってくれたのだから。


私との婚約を取りやめるつもりはないと、はっきりと言ってくれたのだから。




次回で、お茶会編が終わります。


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